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事件の真相①
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それから数日経ち、一人の看守以外誰も来ない牢に数人の憲兵がやってきた。
「囚人アニー、君の刑が確定した。取調室で話すからここを出てもらおう」
刑の内容を伝えるのにわざわざ取調室に連れていくという憲兵の対応に看守は首を傾げた。
こういう場合は牢屋越しに刑罰を伝えることがほとんどで、わざわざ個室に移動することなど滅多にない。
唯一の例外は上層部の意向が関わっている時のみ。
おそらくこの件はそういうことなのだろう。
そう納得した看守は黙ってアニーの牢屋の鍵を開け、彼女を憲兵達に引き渡した。
「刑って何よ!? アタシは無実だって言ってんでしょう! アタシじゃなくてあの女が犯人に決まっているじゃないのよ!!」
「騒ぐんじゃない! いいからさっさと歩け!」
噛みつかんばかりに喚くアニーを若い憲兵が拘束し、早く歩けと促す。
抵抗しようにも、力の弱い彼女が鍛えられた憲兵に敵うはずもない。
渋々彼等に着いて行き、向かった先にあるのは初日とは違う取調室だった。
「ここだ。入れ」
彼等の中でも一番年嵩の憲兵に促され、アニーはその部屋に入った。
窓が一つもない閉塞的な部屋に椅子が二つと簡素なテーブルが一つだけあり、そこにアニーと年嵩の憲兵が座る。
残りの憲兵は部屋の中には入らず、そのまま扉を閉めて出て行った。
扉にはめ込まれている硝子窓から見えたのは、彼等が部屋に誰も侵入しないように見張る姿であった。
「………………?」
アニーはこの厳重とも言える状態に疑問を抱く。
初日の取り調べはもっと軽い警備態勢で、部屋に窓もあったはずだ。
なのに、これではまるで凶悪犯に対する扱いのようではないか。
「―――――――っ!!」
自分は無実だというのに、まるで凶悪な犯罪者のように扱われていることにアニーは激高した。
怒りのままに目の前の憲兵に喚き散らしたが、彼は可哀想な者を見るような眼を向ける。
「まず初めに伝えておく。ライアス隊長は一命をとりとめた」
「え!? 本当? ああ、よかった~……!!」
「なのでお前さんの罪は殺人じゃなくて殺人未遂になる。殺人よりも処罰は軽いものになるぞ」
「だ・か・ら! 違うって言ってんでしょう!? 犯人はアタシじゃなくてあの女よ! ライアス隊長の嫁! アタシを捕まえるよりもあの女のこと調べなさいよ! ほんっとうに無能ねアンタ達は!! 罪を明らかにしないで何が憲兵よ! 馬鹿じゃないの!」
アニーの口汚い罵りに対し、憲兵は呆れた表情を向ける。
何故自分がそのような顔をされねばならないのかと再び激昂するアニーだが、憲兵の口から出た予想外の言葉に驚愕した。
「馬鹿はお前さんだろう? 真犯人は全く別の人物だ。お前さんはそいつに嵌められたんだよ……」
「はあ!? 嵌められた? なんでアタシが……?」
憲兵の口から直接「嵌められた」と聞きアニーは困惑した。
それが分かっているならどうして自分はここに収容されたのか、訳が分からない。
「順を追って説明してやる。まず、今回の毒殺未遂事件だが、黒幕は貴族だ。菓子から検出された毒は平民が手に入れられるような代物じゃない」
「貴族ですって!? ならやっぱりあの女が犯人なのね!」
「だから違うって言ってるだろ? ロザリンドお嬢様でなく、団内部の者だ。さらに言うと、東方師団内の貴族全員が容疑者になる」
憲兵の話にアニーは困惑した。
東方師団内に貴族はごまんといる。それこそ高位貴族から低位貴族まで大勢だ。
なぜ彼等が自分の作った菓子に毒を盛られねばならないのか理解できない。
「囚人アニー、君の刑が確定した。取調室で話すからここを出てもらおう」
刑の内容を伝えるのにわざわざ取調室に連れていくという憲兵の対応に看守は首を傾げた。
こういう場合は牢屋越しに刑罰を伝えることがほとんどで、わざわざ個室に移動することなど滅多にない。
唯一の例外は上層部の意向が関わっている時のみ。
おそらくこの件はそういうことなのだろう。
そう納得した看守は黙ってアニーの牢屋の鍵を開け、彼女を憲兵達に引き渡した。
「刑って何よ!? アタシは無実だって言ってんでしょう! アタシじゃなくてあの女が犯人に決まっているじゃないのよ!!」
「騒ぐんじゃない! いいからさっさと歩け!」
噛みつかんばかりに喚くアニーを若い憲兵が拘束し、早く歩けと促す。
抵抗しようにも、力の弱い彼女が鍛えられた憲兵に敵うはずもない。
渋々彼等に着いて行き、向かった先にあるのは初日とは違う取調室だった。
「ここだ。入れ」
彼等の中でも一番年嵩の憲兵に促され、アニーはその部屋に入った。
窓が一つもない閉塞的な部屋に椅子が二つと簡素なテーブルが一つだけあり、そこにアニーと年嵩の憲兵が座る。
残りの憲兵は部屋の中には入らず、そのまま扉を閉めて出て行った。
扉にはめ込まれている硝子窓から見えたのは、彼等が部屋に誰も侵入しないように見張る姿であった。
「………………?」
アニーはこの厳重とも言える状態に疑問を抱く。
初日の取り調べはもっと軽い警備態勢で、部屋に窓もあったはずだ。
なのに、これではまるで凶悪犯に対する扱いのようではないか。
「―――――――っ!!」
自分は無実だというのに、まるで凶悪な犯罪者のように扱われていることにアニーは激高した。
怒りのままに目の前の憲兵に喚き散らしたが、彼は可哀想な者を見るような眼を向ける。
「まず初めに伝えておく。ライアス隊長は一命をとりとめた」
「え!? 本当? ああ、よかった~……!!」
「なのでお前さんの罪は殺人じゃなくて殺人未遂になる。殺人よりも処罰は軽いものになるぞ」
「だ・か・ら! 違うって言ってんでしょう!? 犯人はアタシじゃなくてあの女よ! ライアス隊長の嫁! アタシを捕まえるよりもあの女のこと調べなさいよ! ほんっとうに無能ねアンタ達は!! 罪を明らかにしないで何が憲兵よ! 馬鹿じゃないの!」
アニーの口汚い罵りに対し、憲兵は呆れた表情を向ける。
何故自分がそのような顔をされねばならないのかと再び激昂するアニーだが、憲兵の口から出た予想外の言葉に驚愕した。
「馬鹿はお前さんだろう? 真犯人は全く別の人物だ。お前さんはそいつに嵌められたんだよ……」
「はあ!? 嵌められた? なんでアタシが……?」
憲兵の口から直接「嵌められた」と聞きアニーは困惑した。
それが分かっているならどうして自分はここに収容されたのか、訳が分からない。
「順を追って説明してやる。まず、今回の毒殺未遂事件だが、黒幕は貴族だ。菓子から検出された毒は平民が手に入れられるような代物じゃない」
「貴族ですって!? ならやっぱりあの女が犯人なのね!」
「だから違うって言ってるだろ? ロザリンドお嬢様でなく、団内部の者だ。さらに言うと、東方師団内の貴族全員が容疑者になる」
憲兵の話にアニーは困惑した。
東方師団内に貴族はごまんといる。それこそ高位貴族から低位貴族まで大勢だ。
なぜ彼等が自分の作った菓子に毒を盛られねばならないのか理解できない。
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