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妻の忠告

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「旦那様、もうあの女性から差し入れをいただくのはお止めくださいませ」

 プラチナブロンドの美女は翡翠色の瞳に怒りを滲ませ、夫に苦言を呈した。

 だが彼女の夫は妻の苦言を軽く受け流す。
 ヘラヘラとした笑いと共に。

「嫉妬かい、ロザリンド? 大丈夫だよ、俺にはやましい気持ちなんかないからさ」

「そういうことを言っているのではありません。何が入っているかも分からない物を食すなど……毒でも混入されていたらどうしますの?」

「毒? ハハハッ!! 毒が混入されるだって!? ないない、そんな!」

「…………どうして“ない”と言い切れますの? 食物に毒を混入することは容易ですのに」

「はぁ~~~……。ロザリンド、も大概にしろよ? お前は妻なんだから、ドーンと構えてりゃいいんだって! 旦那が職場で女の子に菓子を差し入れされたからってそんな目くじらたてるもんじゃないぜ?」

 夫の見当違いの返答にロザリンドは唖然とする。

 彼は妻が嫉妬でこんなことを言っていると信じ込んでいるのだ。

 そんな危機意識の全くない夫の態度はロザリンドにとって理解しがたいものだった。

「そういうことではないのです、旦那様。とにかくもう差し入れは召し上がらないでください。菓子をご所望ならば料理人に作らせますので」

「う~~~ん……料理人が作った物と彼女が作った物は違うんだよね。料理人が作ると洗練されたものになるじゃん? そうじゃないんだよね、アレは。もっと素朴で田舎臭さがあるというか……」

 能天気に菓子の味について話す夫。

 ロザリンドはそんな彼の様子にこれ以上話を続けても無駄だと断じた。

「…………さようでございますか。ではもうお好きになさいませ」

 危機意識がまるでない夫。
 
 彼は口に入れる物に対して警戒心がまるでない。

 幾度となく忠告してきたが、彼はそれを理解しようとすらしない。
 ならばもう言うことはないとロザリンドは夫の対話を止めた。
 
 何を言っても聞き入れない人間に、これ以上説明しても無駄なのだから……。

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