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二度の離婚歴がある方へと嫁ぐことになりました
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システィーナは資産家として名を馳せるベロア侯爵家の娘として生を受けた。
この度、縁あって……というか父親から強制的にひと回り年上のフレン伯爵へと嫁がされることが決まった。そう、過去二度に渡って嫁に逃げられているといういわくつきの男のもとへ。
「なんでそんな事故物件との縁談をもってくるんですか! お父様はわたくしに何か恨みでもあって?」
とんでもない縁談を強制する父親にシスティーナは激高して詰め寄った。
「そんな! 愛しい娘に恨みなどあるはずないじゃないか? それにほら……彼の外見はお前の好みだろう?」
釣書には確かにシスティーナ好みの容姿端麗な男の姿が描かれている。
柔和な雰囲気の金髪碧眼の美男子は好みど真ん中だ。しかし、それはそれとしてこの外見で過去二回嫁に逃げられているなんて、どう考えても正確に難有りと勘繰ってしまうではないか。
「外見が好みで中身が最悪より、外見は好みじゃなくても中身が良い人の方がいいですわ……」
「まだ中身が最悪だなんて分からないじゃないか? 会ってみたが中々の好青年だったぞ」
「……じゃあ、どうして二度も奥様がお逃げになったのですか? しかも結婚生活が一年未満……これが一度であったならやむを得ない理由があったと思います。ですが二度もそうなら、もはやフレン伯爵様に何か問題があるとしか思えないでしょう!?」
「いや……過去の嫁は二人共下位貴族の令嬢だったらしく、高位貴族の作法に耐えられなかったと聞いた。だからお前なら大丈夫だ! 立派に伯爵夫人を務め上げるだろう!」
「高位貴族って言っても……伯爵家ですよ? いくら下位貴族といっても淑女教育を受けた令嬢が耐えられない作法があります? これが公爵家に嫁いだとかならまだ分かりますけど……。」
高位貴族といっても伯爵家程度の作法に耐えられないとは考えにくい。
基本の淑女教育を受けていたら伯爵夫人としての礼儀作法は普通に習得できるはずだ。
どう考えても穏便に離婚するための嘘だとしか思えない。
フレン伯爵本人もしくは伯爵家に絶対何かある。
嫁が立て続けに逃げるような何かが。
「……跡継ぎとなる子供さえ産んでくれたら、始末してもいいから。……とりあえず嫁いでくれないか?」
「始末って……夫をですか!?……お父様、一体何を目当てに娘を嫁がせるおつもりなの?」
とんでもない発言に驚いたシスティーナはじろりと父親を睨みつけた。
しばらくは口を噤んでいた侯爵だが、娘の絶対零度の視線に段々と耐えられなくなる。
「実は……フレン伯爵家所有の鉱山から希少な鉱石が見つかった」
侯爵の話はこうだ。
何かあの鉱山からイイのが採掘出来そう、という勘で間者を鉱夫の中に潜り込ませたところ希少な鉱石が見つかったとのこと。
だが伯爵領の鉱夫はその価値が分かっておらず、伯爵自身も気づいてない。
ならば、他の貴族達に感づかれないうちに娘を嫁がせ、縁者として上手い具合に鉱山を牛耳ってしまおうと考えたらしい。
「……相変わらず、お父様の勘は物凄いですわね。流石は一代で侯爵家を富豪へと成し得ただけありますわ」
父の勘はもはや神がかっている。根拠も無しに他家所有の鉱山に間者を潜り込ませるなんて正気の沙汰とは思えない。まあ、そのおかげでシスティーナ達家族は何不自由なく贅沢な暮らしが出来ているのだが……。
「そういうことでしたら早々に嫁いだ方がよろしいですわね。他の家に鉱石の匂いを嗅ぎつけられては厄介ですもの」
「流石は我が娘、話が早くて助かる。なあに、婿殿にどんな瑕疵があろうが全て対処すればどうってことはない。金も人も好きに使って構わん。お前なら対処できるだろう?」
対処とはつまり“障害を始末しろ”ということだろう。
それが夫本人だろうと別の何かであろうと金と権力でねじ伏せろというわけか。
まったく、この父は16の乙女になんて恐ろしいことを言うのだろう。
だがまあ、そういう理由ならば嫁いでも構わない。
できればこんな欲望の匂いしかしない結婚はしたくなかったが、貴族の娘として家の利益のために黙って受け入れる覚悟はある。
こうして打算しかない婚姻は結ばれ、フレン伯爵家へとシスティーナは嫁いでいった。
希少な鉱石を手に入れる。ただそれだけの為に。
この度、縁あって……というか父親から強制的にひと回り年上のフレン伯爵へと嫁がされることが決まった。そう、過去二度に渡って嫁に逃げられているといういわくつきの男のもとへ。
「なんでそんな事故物件との縁談をもってくるんですか! お父様はわたくしに何か恨みでもあって?」
とんでもない縁談を強制する父親にシスティーナは激高して詰め寄った。
「そんな! 愛しい娘に恨みなどあるはずないじゃないか? それにほら……彼の外見はお前の好みだろう?」
釣書には確かにシスティーナ好みの容姿端麗な男の姿が描かれている。
柔和な雰囲気の金髪碧眼の美男子は好みど真ん中だ。しかし、それはそれとしてこの外見で過去二回嫁に逃げられているなんて、どう考えても正確に難有りと勘繰ってしまうではないか。
「外見が好みで中身が最悪より、外見は好みじゃなくても中身が良い人の方がいいですわ……」
「まだ中身が最悪だなんて分からないじゃないか? 会ってみたが中々の好青年だったぞ」
「……じゃあ、どうして二度も奥様がお逃げになったのですか? しかも結婚生活が一年未満……これが一度であったならやむを得ない理由があったと思います。ですが二度もそうなら、もはやフレン伯爵様に何か問題があるとしか思えないでしょう!?」
「いや……過去の嫁は二人共下位貴族の令嬢だったらしく、高位貴族の作法に耐えられなかったと聞いた。だからお前なら大丈夫だ! 立派に伯爵夫人を務め上げるだろう!」
「高位貴族って言っても……伯爵家ですよ? いくら下位貴族といっても淑女教育を受けた令嬢が耐えられない作法があります? これが公爵家に嫁いだとかならまだ分かりますけど……。」
高位貴族といっても伯爵家程度の作法に耐えられないとは考えにくい。
基本の淑女教育を受けていたら伯爵夫人としての礼儀作法は普通に習得できるはずだ。
どう考えても穏便に離婚するための嘘だとしか思えない。
フレン伯爵本人もしくは伯爵家に絶対何かある。
嫁が立て続けに逃げるような何かが。
「……跡継ぎとなる子供さえ産んでくれたら、始末してもいいから。……とりあえず嫁いでくれないか?」
「始末って……夫をですか!?……お父様、一体何を目当てに娘を嫁がせるおつもりなの?」
とんでもない発言に驚いたシスティーナはじろりと父親を睨みつけた。
しばらくは口を噤んでいた侯爵だが、娘の絶対零度の視線に段々と耐えられなくなる。
「実は……フレン伯爵家所有の鉱山から希少な鉱石が見つかった」
侯爵の話はこうだ。
何かあの鉱山からイイのが採掘出来そう、という勘で間者を鉱夫の中に潜り込ませたところ希少な鉱石が見つかったとのこと。
だが伯爵領の鉱夫はその価値が分かっておらず、伯爵自身も気づいてない。
ならば、他の貴族達に感づかれないうちに娘を嫁がせ、縁者として上手い具合に鉱山を牛耳ってしまおうと考えたらしい。
「……相変わらず、お父様の勘は物凄いですわね。流石は一代で侯爵家を富豪へと成し得ただけありますわ」
父の勘はもはや神がかっている。根拠も無しに他家所有の鉱山に間者を潜り込ませるなんて正気の沙汰とは思えない。まあ、そのおかげでシスティーナ達家族は何不自由なく贅沢な暮らしが出来ているのだが……。
「そういうことでしたら早々に嫁いだ方がよろしいですわね。他の家に鉱石の匂いを嗅ぎつけられては厄介ですもの」
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だがまあ、そういう理由ならば嫁いでも構わない。
できればこんな欲望の匂いしかしない結婚はしたくなかったが、貴族の娘として家の利益のために黙って受け入れる覚悟はある。
こうして打算しかない婚姻は結ばれ、フレン伯爵家へとシスティーナは嫁いでいった。
希少な鉱石を手に入れる。ただそれだけの為に。
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