僕たちはまだ人間のまま 2

ヒャク

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第28話「準備万端」

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疲れ切っていた鷹夜は、パスタを茹で、それに買ってきたパスタソースをかけて夕飯を終わらせてしまった。

「ふはぁ、、」

芽依の家にも入り慣れたものだ。
最初はややこしかった施錠を解除するときのパスワードも打ち慣れた。
自分が住んでいるマンションよりも幾分も高い家賃であるこの部屋にも居心地の良さを感じているし、愛着だってある。

「、、、」

改めて、鷹夜は芽依と恋人として付き合っているのだなあ、と1人でぼんやりと考えた。
こうして何とか会おうと時間を作るし、お互いの生活や仕事を考えながら想い合っていると言うのは、中々に恋人想いな者同士なのではないだろうか。

「、、んーっ!疲れたなあ。ちょっと眠い」

伸びをして、大きく息を吐き出した。
夕飯は、いつもよりは少なめにしておいた。
最近になって、少しでも後ろの穴をいじられると分かっているときは大体夕飯を少なめにしている。
何故ならば、致している最中にもよおしたり、腹痛になりたくないからだ。

「トイレ行って、風呂入って、、あ、風呂は芽依と入ればいいか。いやでも絶対アイツ、入る前に触るし、先に洗っとく?うーん」

芽依の分のパスタソースももちろん買っておいた。
ポルチーニ茸と言う聞き慣れないきのこのクリームソースと、アラビアータソースだ。
その箱2つをキッチンに並べて立てて置いておいた。
鷹夜は今夜、芽依が戻ってきてからの事をぼんやりと考え、またソワソワし出している。
どの辺から、どこまで準備しておくべきだろうか、と。
時刻は22時半を過ぎた。
芽依からメッセージアプリへの返信はない。
まだ仕事なのだろう。

「いや、心配だし、ちょっと洗っとこ」

かけていたソファから立ち上がり、洗い物が済んだキッチンのシンクの横を通って、そそくさと風呂場へ向かっていき、脱衣所のドアを開けた。

(どうせなら、あのパンツ履くか)

ギリギリの面積で局部を隠す布があり、そこからグルリと腰にフィットするゴム、両側の太ももをそれぞれ通して根本にフィットするゴムと何やらやたらと布面積がないパンツ。
もはや、尻たぶは丸出しだ。
隠す布はないし、尻の割れ目に沿わす布もゴムもない。
ただただ、尻が丸出しのスポーティな感じのそのパンツを、とうとう履くときがきたのだ。

(コレかー、、芽依が俺に履かせたいって言ってたのコレだよなー)

買ってから一度家で見ていて覚悟を決めた気でいたが、芽依の家の脱衣所で改めてまじまじと見ると中々に辛い。
こんなものを履いて芽依に見せて、本当に引かれないだろうか?
確かに芽依が鷹夜に履かせたいと言っていた尻が丸出しのセクシーな男性用パンツだが、実際に鷹夜が身に付けて、芽依が「うわ」と笑顔を引き攣らせない保証はない。

(いやでも、今日ヤる。今日こそヤりたい、俺は、!!)

脱衣所で謎のガッツポーズを決め、フンッと鼻息を吹き出してから服を脱いでいく。
三十路の決意は固かった。
今夜こそは、と、心に決めている。

芽依が帰ってきたのは数時間後、午前0時半近くになってからだった。
こうなる事は予想できていたし、バラエティ番組の撮影できっと夕飯の弁当も食べているだろうと思っていた鷹夜は、だからこそとっておけて日持ちするパスタソースだけを買っておいたのだ。
今更、「夕飯食べてきちゃった」と言われても別に構わない。
軽めにシャワーを浴び、風呂場を出て例のパンツを履いた鷹夜は、エッチな事に対して準備万端な状態でテレビの前のソファに座り、少しうとうとしていた。

ガチャッ

「んっ?」

ドアの取っ手を下げる音がした。
芽依が鍵が開いているかどうかを確認したようで、その後直ぐにドアに鍵が差し込まれる音がする。
鷹夜は眠くなってしまっていたが何とか立ち上がると、ふらふらしながら玄関へと向かって行った。

「よっと、、ただいまー、あ。鷹夜くん」
「ん。おかえり」

目が半開きでいかにも眠そうな鷹夜。
玄関のドアを閉めて振り向いた芽依は、目の前に彼がいる事が嬉しくて堪らなくて、すぐさまパッと笑顔になった。

「ただいま!どしたの?寝てた?」
「んー、テレビ見てた。ちょっと眠い」
「待っててくれたの?ごめんごめん、寝てて良かったのに」
「んん、、まあ、うん」

いや、寝るわけにはいかない。
今日はヤる日なのだぞ。
鷹夜は頭にそう浮かぶなり、ハッとしたように目を見開き、芽依が下ろしたリュックに手を伸ばして受け取る。
普段はしない、まるで新妻のような対応に違和感を覚えた芽依は、うん?と首を捻って鷹夜を見下ろした。

「疲れただろ。中入れよ」

ここは決して鷹夜の家ではないのだが。
どこかよそよそしいようなよく分からない動きや喋りを不信がりつつ、芽依は言われるがままに部屋の中に踏み込んでいく。
いつもと変わらない自分の家だ。
おかしいのは鷹夜1人だった。

(芽依が履いて欲しいって言ってたパンツだけど、やっぱり自分から履くのって変だったかな。こんないい歳した、三十路のおっさんが、、)

そうなのだ。
鷹夜は風呂から上がるなり、あのパンツを履いてしまっている。
先程から何のガードもない尻たぶが、履いているスウェットのズボンの内側に擦れて変な感覚がする。

(脚曲げるとゴムが気になるな)

それに、腰と太ももに通されたゴムが何とも言えない違和感を生み出していて思わずズボンの上から引っ張ってしまった。

ぱちんっ

「いてっ」
「ん?どしたの?」

位置を直したゴムを離した瞬間、勢い良く肌をぶってきた。
鷹夜の痛がる声に前を歩いていた芽依が振り返る。

「あ、いや。違う、何でもない!」

冷や汗が出た。
まだまだエッチな雰囲気になんてなっていないのに、「芽依が俺に履いて欲しいって言ってたエッチな下着履いててさ、、」なんて会話を振れるわけがないからだ。
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