僕たちはまだ人間のまま 2

ヒャク

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第25話「購入済み」

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次の土日も芽依の休みは取れなかった。
抱えている案件が落ち着いてきて余裕のできた鷹夜は、先週とは逆で、自分が芽依の家に行くと伝えた。
金曜の夜から土曜、日曜と芽依と過ごす時間にしたかったのだ。

芽依[待ってるね!ちょっと話したいことあるから、それも聞いて]

金曜日の昼休憩に、芽依からそんなメッセージが届いた。

(話したいこと?)

いつものように若手だけが集まる休憩室で、コンビニで買ったカップ味噌汁とおにぎり2つを食べようとしていた鷹夜は首を捻る。
芽依は基本的に隠し事や嘘、回りくどい事ができない性分なのが充分に分かっている彼としては、珍しく「話したい事」と濁した言い方が少し気になったのだ。

(え。別れたい、とか?)

そして、この男は大体の事をネガティブに捉える厄介な癖がある。

「ぇ、、」
「え?」

いつも通り向かいの席にいた駒井が鷹夜の小さく漏らした声を拾ってしまった。
訝しげな表情の鷹夜と、携帯電話の画面から視線を上げてポカンとした顔の駒井がお互いを見つめ合う。

「何だよ、気持ち悪いな」

駒井も眉間に皺を寄せた。

「いや、、え?」
「え?なに?」
「いや、、、何でもない」
「え。何だよ。どした。また彼女か」
「どした、鷹夜。風俗行くか?」
「長谷川さんそれホントやめて下さい」

鷹夜は6人がけの席の1番後方におり、部屋の前方に向かって、長谷川、今田と並んでいる。
向かい側の席は後方から駒井、一つ空けて1番大型テレビ側に油島がいる。
先程、珍しく油島自身が作ってきた弁当を皆んなで覗き込んで、ちゃんと野菜が入っている事を確認したところだった。
彼は少しぽっちゃりしていて早食いなので、もう半分は食べてしまっている。
羽瀬は外回りでおらず、大体羽瀬と一緒に昼食を取っている若手たちも今日はもっと大型テレビに近い方の席に座っていて、鷹夜たちの席の周りには誰もいなかった。

「いいじゃんかよ風俗。元気出るぞ。色んなところが」

独身で風俗大好きな長谷川は自分で弁当など作る訳もなく、また特定の相手もいないので、鷹夜と同じで毎日コンビニ食だ。
今日も大きいサイズのカップ麺と菓子パンを2つ、テーブルに並べている。
大阪に行く前からヤセの大食いだったが、今はもう、少し腹が出てしまった。

「めちゃくちゃ下ネタ言いますね、今日」
「溜まってんの」
「昨日行ったって言ってませんでした!?」

長谷川にかかると話題が全て風俗に持って行かれてしまう気がした。
鷹夜が話している様を見て、向かいから駒井がチョイチョイと長谷川との間に手を入れて「こっちの話しまだ終わってない」と話題を戻すように促す。

「あ、すまんすまん。何だっけ?また彼女?」

長谷川はこう言った事には慣れている上、自分がすぐ風俗絡みの話しをしたがる迷惑おじさんなのも承知しているので、気を悪くしたりはせずにすぐに話題を戻してくれた。

「彼女、、が、嘘とかあんまつけないし隠しごとも苦手なんですけど、何か、今日の夜に話したいことがあるって、濁した言い方してきて」
「そんだけ?いやいやいや、大丈夫だろ絶対!ははは!」

何だ、と肩透かしを食らった駒井は鷹夜の不安を笑い飛ばして行き、長谷川も「平気だよ。何もないよそんなの」と言いながら一瞬テレビの方を向いた。
アナウンサーが発した「風速」が「風俗」に聞こえたのだろう。

「え、そう?」
「ふっふっふっ。んん、大丈夫だよ。そう言いつつめちゃくちゃエロいサプライズかもよ」
「お前までどした」

鷹夜の不安がる姿がよほど面白かったのか、駒井は笑いを噛み潰しながら長谷川のような事を言い出した。

「アレかもよ。今日ね、、実は、めちゃくちゃエッチな下着着てきたの。みたいな?」
「えぇ、、」

変にシナを作った駒井の女の子喋りが気持ち悪く、鷹夜もウエッ、と変な顔をする。
先日、セックスレス?の悩みを駒井夫婦に相談したからか。
だからそんな冗談を言うのか。

「いやでもさ、ホントにそうかもよ」

ズイ、とテーブルに身を乗り出してきた駒井は、鷹夜の顔を下からジッと覗き込んだ。
彼は彼なりに、何かとすぐ落ち込んだりマイナス思考になって悩む鷹夜を元気づけようとはしているらしい。

(芽依、、、まあ、あるかもなあ。鷹夜くんに履いて欲しいエッチなパンツ買っちゃった!とか言ってきそうではある)

ネガティブに考え過ぎだな、と駒井の言葉に胸を撫で下ろし、鷹夜は「そうかもな」と返しておいた。
実際問題、よく考えてみれば芽依が深刻な話しを持ちかけてくると思えなかったのだ。

(と言うか、どうしよう。それはそれで困る)

油島が長谷川に風俗に連れて行かれた話しをしている周りから一歩引いて、鷹夜はカップ味噌汁に口をつけながらぼんやりと今夜の事を考えた。
そうなのだ。
芽依の話したい事、がもしもエッチな下着を買ってしまったと言う事なら、鷹夜からすれば少し困るのだ。

(買っちゃったんだよなあ、、)

セックスレスの事を考えて、鷹夜自身も努力をしようと思った。
そしてとうとう、エッチな下着とアダルトグッズを、先日自分で買ってしまっていたのだ。

(しかも今、全部カバンに入ってんだよなあ、、)

今夜彼の家に行くと決めてから、全部準備しておいた。
だから今日は、それらを全て詰め込んだリュックサックで会社に来ている。
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