僕たちはまだ人間のまま 2

ヒャク

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第5話「想い想われ」

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明日が休みだと考えるとダラダラしてしまう2人の癖が出て、入浴時間はやたらと長くなった。

「のぼせた、水、水」
「待てーい。ちゃんと身体拭いて、鷹夜くん」

芽依に呼び止められ、脱衣所のドアを開けたままドアの一歩内側で立ち止まる。
鷹夜の白い肌は熱さで真っ赤になってしまっており、体温の高さが伺える。
芽依は彼の後ろから「拭き終わった!」と言って投げ捨てられたバスタオルを再び鷹夜の身体にかけ、ゴシゴシと背中を拭いて行く。
ついでにもうひとつタオルを取ると、彼の頭に被せた。

「あっっつい」
「ちゃんと拭かないと風邪引くよ。鷹夜くん身体弱いんだからちゃんとして」
「芽依はホントに面倒見が良くなったね」
「貴方がそそっかしいからね」

そんな冗談を言い合っているが、芽依の面倒見が良くなった理由は鷹夜の別の部分が理由だった。
彼らがまだ一般人と芸能人のただの友人関係だった頃、芽依が鷹夜への想いを拗らせ、散々に迷惑を掛けて拒絶された事があった。
鷹夜は普段はお人好しで優し過ぎるくらいに何をされても人を許す。
気遣い上手な面もあり、誰より人の変化に気が付いて気を回す癖もある。
けれどある一線を越えた瞬間に、鷹夜の中ではその一線を越えた相手が「自分の人生に必要のない人間」となってしまう。
鷹夜にそう認識された瞬間に、その人間は彼からの優しさに触れる事はなくなり、また、全くの無関心の対象として処理されてしまうのだ。

「俺、良い彼氏でしょ?」

芽依はその「鷹夜の人生に必要のない人間」になりかけた時期があった。
そこに片足を突っ込んだ状態で、それでも鷹夜といたいと願い、自分が彼を恋愛対象として好きなのだと自覚した。
這い上がる為にずるい事をやめ、鷹夜に1番優しくする人間として帰って来た。
彼の面倒見がやたらと良くなったのは、無理矢理に自分を大人に押し上げなければならないそんな出来事があってからだった。

「良い彼氏だよ」
「んふふ~」

上機嫌に鷹夜の背中を拭き終わり、しゃがみ込んで脚も拭く。
その際目の前にあったぷりぷりの尻を見つめ、脚を拭きながら左の尻たぶに思い切り顔を押し付けてキスをしておいた。

「セクハラしない」
「そこにお尻があったんだもん、、はい終わり」
「ん。次、芽依」
「え?」
「ほれ」

ただ、芽依はまだ無理矢理背伸びをして大人ぶっている部分があるのは事実だ。
こうして真の大人である鷹夜に甘えられる瞬間を見つけると、どうしても飛び付いてしまう。

「拭いてくれるの?」
「してくれたんだから俺もやるよ。後ろ向いて、背中拭く」
「うん、、うんっ!」

腹や胸を自分用のバスタオルで拭きながら、背中は鷹夜に拭いてもらう。
彼よりも20センチ近く背の低い鷹夜からすると実に拭きにくい身体だが、そこは強がって「しゃがめ」等とは言わなかった。
彼は強がりが得意だし、これは意地だ。
あまりにも恵まれた体躯をしている芽依に度々感じるコンプレックスを誤魔化しているのだ。

「鷹夜くんも俺のお尻見てる?」
「んー。硬そう」
「硬いよ~!力入れると、こうッ!」
「ブッ!!あははは!!やめろよ、めっちゃヒップアップされた!!ふはっ、ヤバ!面白いなあ!」

芽依は鷹夜を振り返りつつ、自分の尻にグッと力を入れて見せる。
元から鷹夜のようにプリン、と言うよりかはモギュッと筋肉質な尻をしているが、わざと筋肉に力を入れると余計にくびれができて見事な硬い尻になった。

「あはは、可愛い可愛い。硬い桃って感じ」
「え?例え分かりづら」

芽依の硬くした尻をペシンペシンと軽く叩いてから、鷹夜は彼の脚まで拭き終わり、立ち上がってバスタオルを洗濯機に放り込む。
洗濯機の上にある備え付けの棚に入れてあるパンツを取り出すと、2人ともそれを履いてゆったりとリビングへ向かった。
脱衣所の目の前にある玄関の全身鏡が風呂場から漏れた湯気を浴びて真っ白に曇っている。

「鷹夜くん」

芽依はリビングへ向かいつつ、また鷹夜の後ろを歩いて彼の尻を凝視した。

「んー?」
「今度さあ、お尻丸々見えちゃってるセクシーなパンツ買わない?」
「はあ?そんなのあんの?てか履く意味ないじゃんそれ」
「あんのあんの」
「芽依、好きだよね。そう言うの」

鷹夜はリビングの手前にあるキッチンへ立ち寄り、冷蔵庫の取っ手に手を掛けながら芽依を振り返って言う。
芽依は彼のすぐ隣に立つと、うーん、と低い声で考えるように唸って聞かせた。

「だって、大好きな鷹夜くんのエッチな格好見たいじゃん?」

ごきゅっごきゅっと喉を鳴らし、冷蔵庫から取り出した天然水のペットボトルから直に水を飲む。
満足するまで飲むと、口を離したペットボトルを芽依に突き出す鷹夜。
完全に呆れた顔をしていた。

「俺ももう一回、芽依のメイド服姿見たいなあ」
「ああー!!それ見ないでって言った番組じゃん!約束破ったの!?」

数日前に放映されたバラエティ番組に出演していた芽依は、その番組を撮り終わった瞬間に番組名を教え、「絶対見ないで」と鷹夜に連絡をしていた。
と言うのも、幻の温泉を訪ねて行って、入浴して出た瞬間に衣装がメイド服とすり替わっている、と言うドッキリを仕掛けられていたのだ。
それを着てホテルまで帰らなければ元の衣装を返してもらえないと言うミッションまであり、移動中も常にメイド服を着ていた。
身長190センチ越えの筋肉質な芽依がメイド服を着る事自体がかなり無理があるのだが、服だけでなく靴も黒いエナメルのつま先に丸みのあるヒールにされてしまい、更に途中から金髪がツインテールに結われたウィッグまで追加され、もはや地獄絵図と化していたのだ。

「見ないとは言わなかったよ、俺」

「ヒドイ!嘘つき!」と喚き立てる芽依にニヤつきながら、鷹夜は腕組みをしてキッチンに寄りかかる。

「ええ!?そうだっけ!?」

確かに、あのときの鷹夜からの返事は「何してんの笑」と言うただ一言だった気もした。

「ねえー、あれ見たなら買って良いでしょ、鷹夜くんのお尻丸見えパンツ」
「おっさんの尻見て何がしたいの」
「鷹夜くん自分のことおっさんおっさん言うのやめてよ。俺のカッコいい鷹夜くんなんだから」
「癖になってんの。治らないの」
「治して。大体さあ、そのおっさんのお尻に毎回盛ってる俺はどうなるの。コアな変態ってこと?」
「そうなんじゃない?」

水を飲み終わると、今度は芽依がペットボトルを冷蔵庫の扉の内側に戻す。
中身は1人でいたときよりも物が詰まっている。
鷹夜と芽依はお互いに余裕があるなと思った方が一緒にいられるときは食事を作るようにしているからか、ここのところどちらも忙しかった為に食材が溜まってしまっていた。
手付かずで腐らせてしまったものもあり、明日は冷蔵庫の掃除もしなければならない。

「ハメ撮りしてあげようか」
「は?」

バタン、と冷蔵庫のドアを閉め、芽依は割と真顔で鷹夜を見下ろした。

「鷹夜くん、一回どれだけ自分のお尻が可愛いか見た方が身の為だよ。銭湯とか行けなくなるけど」
「何で」
「この尻を振り乱して俺以外の男の前に出るのは危険だなって分かるから」
「振り乱してねえよ」

そんなにか?と思いつつ、リビングに置きっぱなしになっていたドライヤーに手を伸ばした。

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