僕たちはまだ人間のまま

ヒャク

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第97話「連れて行こうか」

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その日の夜に鷹夜が家に帰ってくると、「もう家?」と連絡が入った。
またコンビニで買ってきた弁当をテーブルに広げ、テレビをつけて動画配信サービスに接続したところで、彼は携帯電話のバイブ音だけで芽依からの連絡だろうなと予想ができていた。

「帰って来てるよ~、と」

「いただきます」と言う前にメッセージを送っておくと、食べ始めと同時にまたテーブルの上の携帯電話がブブッと震えた。

「、、ん」

箸を咥えて返信を打つ。
数秒後には電話がかかってきた。
鷹夜は通話ボタンを押すと素早くスピーカーモードに切り替え、テーブルの上に機体を寝かせる。

「どしたー」
《おかえり~》
「はは、ただいま」

呑気そうで眠そうな声に笑いが漏れた。

「何してんの?」
《まだ撮影~、今日あんまりスムーズじゃなかったから押しててさ》
「おーおー、頑張ってんなあ。お疲れ」

どうやら撮影現場から電話をかけて来ているようだ。
時刻は0時を過ぎている。

《鷹夜くんは少し早めに終わったの?》
「いつもよりはね」
《夕飯、またコンビニ弁当?》
「んー」

スイッチを入れておいたケトルのボタンがポコッと可愛い音を立てて跳ね戻った。
沸いたお湯を取りに立ち上がり、キッチンのワークトップに置いておいたケトルを持って帰ってくる。
テレビは好きな芸人が出ているバラエティ番組を垂れ流すことにした。

《身体壊すよー、鷹夜くん》
「じゃあ芽依くん作りに来てよ」
《いいんですか!?かっ、通妻!?》
「うるさっ」

機体を耳に押し当てていなくて良かったと思うくらいに芽依は大きな声を出した。

「あ、そう言えばさあ!今年はうちの会社、夏季休暇あるんだよ!」

それはさておき、と鷹夜は今日1番のビッグニュースを芽依にるんるんしながら報告する。
明らかに声が嬉しそうだった。

《マジ!?夏休み!?》
「お盆休みだな」
《えー!!じゃあ遊べるじゃん!!》
「あ、俺、実家帰る」
《えっ!?》

鷹夜の今日の夕飯は豚カツ弁当とサラダ、インスタントの味噌汁だ。
彼は細い割にはガッツリ食べる方で、好き嫌いはあまりない。
ちなみに割り箸を割るのが苦手で、大体が割った片方の持ち手辺りが裂けて細くなってしまう。
今日もそうだ。

《実家帰っちゃうの!?》
「芽依くんて帰らないの?」
《帰るとか考えてなかった、、鷹夜くんと旅行行けたら良いなあって、実は2日くらい無理矢理休みもらったけど、、》
「勝手にどこ連れてこうとしてたんだよ」
《草津、、裸の付き合い、、からの~?》
「からの~?じゃないッ!!」

明らかに不埒な思いが篭った台詞を蹴り飛ばすと、鷹夜は豚カツをひとつ頬張る。
サクサクの衣と少し湿気を吸った衣が実に弁当の豚カツと言う味わいだが、不味いわけではない。

(天仁屋の豚カツ食いて~)

不味いわけではないが、帰省話しで思い出した地元の揚げ物屋のカツの味にはやはり劣る。

《浴衣の鷹夜くんとまったりお泊まりの夢が、、》
「あ」
《あはんうふんな一夜が、、ん?ごめんなに?》
「芽依くんもうち来れば?」
《、、、え?》

ズルルル、と味噌汁を胃に流し込む。
無論まだまだ外は熱いが、冷房を効かせた部屋で飲む熱々の味噌汁はインスタントであっても最高に美味い。
ナスと油揚げが入っていると尚更に最高だった。

「俺の実家、一緒に来る?旅行したかったんだろ?」

鷹夜のそんな誘いに、芽依は撮影現場で動きを止めていた。

(鷹夜くんの、、ご実家、、ご両親に挨拶!?)

そして一気にいらぬところまで想像した。

《まだ早くない!?まだ付き合ってない!!》
「まだってなに」
《ご両親に挨拶かあ~~、待ってドキドキしてきた、深呼吸させて、》
「ふはっ!待て待て待て待て!あははっ!」

電話の向こうの芽依の様子に鷹夜は一旦箸を置き、落ち着くまでひたすらに笑う。
狼狽えるだろうと思ってはいたものの、テンションが上がっているのか下がっているのかよく分からなさが面白かった。
テレビの中の芸人の声はもう全然聞こえない。

「はあ~~、もうさあ、馬鹿じゃないの。友達として紹介するに決まってるじゃん」
《ええーー》
「ダメ。普通に友達として紹介する」
《えー》

ぶーたれる芽依の声に口元を緩める。
あまりにも穏やかで、男に迫られていると言うのに鷹夜には下手な落ち着きがあった。

「、、今はまだな」

ボソ、と聞こえるか聞こえないかの大きさで囁いた。

《、、絶対俺のこと好きにさす》

それに対して、芽依はハッキリと返事をした。

「ふふっ、はいはい。仕事は?電話もうそろそろ切る?」
《え、待ってもう少しだけ!》

切れることなく話してしまっていて、せっかく電子レンジで温めた豚カツ弁当が冷めていく。
鷹夜は電話が終わるまで箸を握らなかった。
何となくこの時間が大切に思えたのだ。

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