僕たちはまだ人間のまま

ヒャク

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第93話「少し変わった関係」

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4時頃だったと思う。

「ん、、」
「あ、ごめん。起こした?」
「んー、大丈夫」

ベッドの上で眠っていた鷹夜とカーペットの上で眠っていた芽依の目があった。
芽依は少し前に起きたらしく、手元にブランケットをかぶせながら携帯電話をいじっている。

「寝ないの?」

少し眩しそうにそちらを見てから、鷹夜はうつ伏せに寝返りをうった。

「寝る、、さっき連絡入って起きた。通知切り忘れた」
「んー」

晴れて微妙な関係になった2人は絶妙に距離を空けている。

「誰から」
「え?」
「誰から、連絡」

ズリ、とベッドのきわに酔った鷹夜はダランと左腕を下に垂らす。
芽依は目が慣れた薄暗い部屋の中でしっかりと鷹夜の目を見つめていて、その眠そうな顔も鮮明に見て取れる。
意識がぼんやりしているのだろう。
誰から?なんて、普段の彼は聞いてこない筈だった。

「泰清。覚えてる?」
「んー、、友達、だっけ」
「そうそう」

芽依は起き上がって、鷹夜のいるベッドのそばにブランケットごと移動した。
ズルズルと近寄ると、鷹夜は眠たそうにぼやっとした顔で微かに笑い、そばに来た芽依の頭を垂らしていた左手でポンポンと撫でた。

「寝なよ」

照れたように目を細めて、撫でられながら彼は言った。

「お前も寝ろ」
「鷹夜くん見ながら寝ていい?」
「いやだ。夢に呼ばれそう」
「えー、来てよ。俺の夢」

会話の間を空けると途端にまぶたを閉じそうになりながら、鷹夜はいたずらっぽく笑う。
今度はそれを見て愛しそうに視線を細めると、芽依は彼のいるベッドに腕を上げて置き、そこに顎を乗せた。

「めっちゃ近い、ドアップの竹内メイじゃん」

顔同士はすぐそこで、至近距離にある。
まばたきすらよく見えるくらいだ。

「ドキドキする?」
「しない」
「何だよ」

クスクスと芽依が笑った。

「あのさあ」
「なに」
「手、繋いでもいい?」

微睡む鷹夜にそう言うとベッドの下まで垂れていた左手が再びフラフラしながら上がってきて、芽依の目の前でトン、と力尽きる。
「どうぞ」と言う事らしい。

「、、、」

正直、ドキドキしているのは芽依の方だった。
鷹夜の無防備な手に手を伸ばし、指を絡める。
いつも見ているゴツゴツした白く細い指は温かくて、何だか安心した。

「ありがとう。おやすみ」

そのまま目を閉じる。
携帯電話は移動する前にいた所に置いてきてしまっていた。





(可愛い顔、、何してんだこいつ)

まさか手を握ったまま眠るとは思っていなかった。
朝、目が覚めても繋いだままの手の違和感で頭の少し上を見ると、昨夜同様に芽依がベッドの上に胸から上を置き、スヤスヤと眠っている。
ガッチリと指を組んだ手は熱いくらいで、鷹夜は欠伸をしながらそれを眺めて口角を緩く上げた。

「可愛いなあ」
「、、フゴッ」
「ブフッ!!」
「んっ、ん?あれ??」
「ふはっ、うはははは!!」

目覚める直前、芽依が盛大に鳴らした鼻に笑い転げる鷹夜。
芽依の方は何が起きたのかも分からず、朝から爆笑してベッドを転げ回る想い人を見て目を擦り、何のこっちゃと首を傾げた。

「はあ、、はあ、笑った。死ぬかと思った」
「1人で何してんの」
「あ、おはよ」

ニヒ、と笑う鷹夜を見つめて、芽依はボーッとしている。
時刻は11時30分を過ぎていた。

「おはよ。鷹夜くん、体調は?」
「全然大丈夫!!ありがとな~色々~」
「良かった。ふあ、、、ぅ。眠い」

欠伸をしても様になるな、と鷹夜は芽依が開けた大きな口を眺める。

「まだ寝てたら?」
「やめとく、、くあ、ん。昼飯食べいこーよ、こないだのカフェ」
「あ。それいいね」

芽依は欠伸が止まらないらしい。
とりあえず順番でシャワーを浴びる事になり、先に鷹夜、次に芽依でさっさと支度を始めた。
「一緒に入る?」なんて調子に乗って鷹夜が言ったものだから、芽依は悪ふざけで目の前でTシャツを脱いだりしたが、途端に真っ赤になった彼に風呂場まで逃げ込まれて鍵をかけられたので一緒にシャワーは浴びれなかった。

「俺これにする」
「どれ?」

八百屋と、少し前に水鉄砲で遊んだ公園を通り過ぎ、通りを渡って右に進んだところにあるカフェに訪れた。
約束通り昼飯にする。
店の奥の2人掛けの席に通された2人は前と同じように鷹夜が壁側のソファに座り、芽依が椅子に座っている。
1つしか置かれていなかったメニューを2人で眺めながら、鷹夜がランチセットを指差した。

「これ、パスタ」
「鷹夜くんて麺類好きだよね」
「好き。ラーメンもパスタも蕎麦もうどんも」
「俺、ラーメンめっちゃ好き」

ミートソースパスタのランチセットと、芽依が決めたのはハヤシライスとサラダのセットだった。
こじんまりしているように見えて、中々に食べるものも揃っている店だ。
相変わらず真っ黒な服装の芽依を目の前にしながら、店員への注文は全て鷹夜がした。
無論、セットのドリンクは鷹夜がアイスコーヒー、芽依はジンジャーエールにした。

「帽子取ったら」
「そだね」

昼どきで、店内は人が多い。
芽依は被っていた黒いキャップとマスクを取ると、いつもと違って黒縁が太い眼鏡をグッと押し上げた。

「バレないもんだな」

埋まり始めた周りの席を見回して言った。
鷹夜はテーブルに頬杖をついていて、芽依も真似するように頬杖をついた。

「オーラ消してるんで」
「ふはっ、何言ってんの?」
「真面目に~。芸能人オーラって消せるんだよ」
「んっふふ、じゃあオーラ出してよ。バレるかどうか」
「イヤだよ。邪魔されたくねーもん」
「ふーん」
「好きな人といるときくらい、芸能人お休み」
「勝手にしてくれ」

クスクスと笑い合った。
その日はまた散歩したり本屋に行ってみたりして、穏やかに、夏の風に吹かれながらただゆっくりと過ぎて行った。

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