9 / 142
第9話「人間の病」
しおりを挟む荘次郎がテキトーに開いたメッセージは、Oと言う登録名の32歳のサラリーマンとのやりとりだった。
ミミ[会いたいなあ~!Oさんは都内住みなんだよねー?]
O[そうだよ。今度の休みにレストランに行かない?いいお店予約するよ!]
ご丁寧に可愛らしい絵文字まで使い、泰清はアプリの中では完全に「ミミちゃん」になりきっている。
相手の男から多種多様なハートマークを送られており、Oにしろ泰清にしろ何とも趣味が悪かった。
「へえ。これも行くって返事するの?」
「するする!そいつのSNS見たら、めちゃくちゃ男アイドルとか叩いてんだわ。めっちゃキモかった」
「ふうん。この人が提案してるお店、麻布とか恵比寿の店ばっかだよ。銀座もある。すごいねー、仕事何してんの?」
「忘れた。でも金余ってるらしいよ。ミミちゃんには結婚したらすぐ仕事辞めて家庭に入って欲しいんだって。どうなるか楽しみだなあ。予約した店に一向に女が来なくて、結局2人分飯食べたりしてな!!」
「ふふ。お前、性格悪いなあ」
未だにテーブルに胸から上を乗せて項垂れている芽依の上で、2人は顔を見合わせてケタケタと悪びれて笑っている。
VIPルームには香水のような強い人工的な「いい匂い」がふわふわと漂っていて、初めに店に入ったときは頭がクラクラしたが、今はもう慣れて匂いが分からなくなっていた。
こんな事をして本当に何になるのか、と考えながらも、芽依もとうとう泰清の携帯電話の画面を触り、色んな人間とのメッセージのやり取りを眺め始めてしまった。
(うわ、泰清の悪口吹き込んでる奴もいる、、芸能人も大変なんだっつーの。表に出さないだけで苦労してるやつも多いのに、、ん?)
「あ、メイ、それは」
ケンスケ、と言う23歳の若い男とのやりとりが目についた。
「何だこれ!!俺の悪口じゃねえかよ!!」
「わあ、びっくりした」
「あー、、だから見るなってそいつのは、もう切ったやつだし」
たまたま見つけてしまったケンスケとミミちゃんのやりとりには、泰清の悪口から始まり、話が逸れ始めて「竹内メイはもう終わりだと思う」などと言うメッセージが来ていた。
泰清の手から携帯電話を奪い取り、飛び起きて立ち上がった芽依は立ったままそのやりとりを読み始めた。
「なんっだこれ、、な、!!」
物凄い速さで芽依の目が文章を追っていく。
ケンスケ[ドラマで見たときから思ってたけど、正直あんまり格好良くなくない?ああ言うのがタイプだったりする?趣味悪いよ~??それに男は見た目じゃないんだよ]
ケンスケ[あれ?図星?人の中身見ないとかどうかと思う。俺の友達に竹内メイの友達いるんだけど、あいつめちゃくちゃ性格悪いって言ってたよ?中学のときに同級生の女の子を妊娠させたとか言う噂もあるし]
ケンスケ[怒ったの~?返事ちょうだいよ~!ヒマだよ~!]
「こいつプロフに好きなタイプ・菊田美寿って書いてあんじゃん!!性格クソ悪い枕営業アイドルだぞ!!何が見た目じゃないんだよ!!友達って誰だ!!妊娠させたことねえよ!!知らねえぞ俺は!!」
「おーちついてーメーイ」
どうどう、と荘次郎が芽依の背中に手を伸ばして叩くが、興奮した彼は歯軋りしながら顔を歪めて画面を睨み、更に他の人間達とのメッセージにも目を通している。
(エゴサ始めると止まらなくなるタイプだもんね、メイ、、)
呆れた荘次郎は芽依を止める事を諦め、またカクテルを飲んでソファの背もたれに寄り掛かると、テーブルに置いていた箱からタバコを取り出して口に咥え、先端に火をつけた。
「メーイー、やめろって。もういいって、な?ごめんごめん、俺が悪かっ」
「俺もやる、これ」
「え?」
泰清が目を見開く。
芽依のひと言は予想できていなかったらしく、荘次郎もタバコを咥えたまま目を丸くして彼の背中を見上げた。
「あ、、いや、まあ最初から一緒にやろうぜって進めようとはしてたんだけど、マジで?」
「やる」
苛立った芽依は目元をひくつかせながら泰清を見下ろし、低い声で返事を返した。
(頑張ってんのに俺ばっかりこんなこと言われるのはマジで許せねえ!!表舞台に出る勇気もないくせに、人の悪口ばっかズラズラ並べやがって!)
普段、もう少し余裕があれば彼自身こんな事をしようとは思わなかった。
しかし、スキャンダル後にやっと取って来てもらえたドラマの仕事ですら周りに迷惑をかけ続け、現場で怒られ続け、影では「ほら、あのグラドルに裏切られた可哀想な俳優」「一緒にアイドル活動してた相方にも捨てられたんでしょ?」とたびたびコソコソ話しをされている。
もう何も楽しくなかった。
(俺はこいつらの悪口言ってないっつうの!!)
そう言う仕事を選んだのだから仕方がないのは重々理解している筈なのに、このときの芽依は自分を止められなかった。
広く知られているかいないかの違いであって、同じように仕事をして飯を食っている人間同士の筈なのに。
彼ら一般人は自分に注目されない事を良い事に、こうやって芸能人を蔑んでくる。
何もいい事がなかった。
別れた彼女は結局、小さくて力のなかった元の事務所を辞め、どう言うツテが出来ていたのか知らないが、大きくて力の強い別の事務所に入り直し、最近はCMにも出始めている。
(俺ばっかり、、!!)
思い込み、被害妄想、客観視の欠落。
余裕のない芽依は何も考えず、怒り、焦り、悲しみを募らせ続け、いつからか自分を病気にしてしまっていた。
0
お気に入りに追加
303
あなたにおすすめの小説
必然ラヴァーズ
須藤慎弥
BL
ダンスアイドルグループ「CROWN」のリーダー・セナから熱烈求愛され、付き合う事になった卑屈ネガティブ男子高校生・葉璃(ハル)。
トップアイドルと新人アイドルの恋は前途多難…!?
※♡=葉璃目線 ❥=聖南目線 ★=恭也目線
※いやんなシーンにはタイトルに「※」
※表紙について。前半は町田様より頂きましたファンアート、後半より眠様(@nemu_chan1110)作のものに変更予定です♡ありがとうございます!
思い出して欲しい二人
春色悠
BL
喫茶店でアルバイトをしている鷹木翠(たかぎ みどり)。ある日、喫茶店に初恋の人、白河朱鳥(しらかわ あすか)が女性を伴って入ってきた。しかも朱鳥は翠の事を覚えていない様で、幼い頃の約束をずっと覚えていた翠はショックを受ける。
そして恋心を忘れようと努力するが、昔と変わったのに変わっていない朱鳥に寧ろ、どんどん惚れてしまう。
一方朱鳥は、バッチリと翠の事を覚えていた。まさか取引先との昼食を食べに行った先で、再会すると思わず、緩む頬を引き締めて翠にかっこいい所を見せようと頑張ったが、翠は朱鳥の事を覚えていない様。それでも全く愛が冷めず、今度は本当に結婚するために翠を落としにかかる。
そんな二人の、もだもだ、じれったい、さっさとくっつけ!と、言いたくなるようなラブロマンス。
ハルとアキ
花町 シュガー
BL
『嗚呼、秘密よ。どうかもう少しだけ一緒に居させて……』
双子の兄、ハルの婚約者がどんな奴かを探るため、ハルのふりをして学園に入学するアキ。
しかし、その婚約者はとんでもない奴だった!?
「あんたにならハルをまかせてもいいかなって、そう思えたんだ。
だから、さよならが来るその時までは……偽りでいい。
〝俺〟を愛してーー
どうか気づいて。お願い、気づかないで」
----------------------------------------
【目次】
・本編(アキ編)〈俺様 × 訳あり〉
・各キャラクターの今後について
・中編(イロハ編)〈包容力 × 元気〉
・リクエスト編
・番外編
・中編(ハル編)〈ヤンデレ × ツンデレ〉
・番外編
----------------------------------------
*表紙絵:たまみたま様(@l0x0lm69) *
※ 笑いあり友情あり甘々ありの、切なめです。
※心理描写を大切に書いてます。
※イラスト・コメントお気軽にどうぞ♪

僕の部下がかわいくて仕方ない
まつも☆きらら
BL
ある日悠太は上司のPCに自分の画像が大量に保存されているのを見つける。上司の田代は悪びれることなく悠太のことが好きだと告白。突然のことに戸惑う悠太だったが、田代以外にも悠太に想いを寄せる男たちが現れ始め、さらに悠太を戸惑わせることに。悠太が選ぶのは果たして誰なのか?
消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。
はじまりの恋
葉月めいこ
BL
生徒×教師/僕らの出逢いはきっと必然だった。
あの日くれた好きという言葉
それがすべてのはじまりだった
好きになるのに理由も時間もいらない
僕たちのはじまりとそれから
高校教師の西岡佐樹は
生徒の藤堂優哉に告白をされる。
突然のことに驚き戸惑う佐樹だが
藤堂の真っ直ぐな想いに
少しずつ心を動かされていく。
どうしてこんなに
彼のことが気になるのだろう。
いままでになかった想いが胸に広がる。
これは二人の出会いと日常
それからを描く純愛ストーリー
優しさばかりではない、切なく苦しい困難がたくさん待ち受けています。
二人は二人の選んだ道を信じて前に進んでいく。
※作中にて視点変更されるシーンが多々あります。
※素敵な表紙、挿絵イラストは朔羽ゆきさんに描いていただきました。
※挿絵「想い03」「邂逅10」「邂逅12」「夏日13」「夏日48」「別離01」「別離34」「始まり06」

俺の推し♂が路頭に迷っていたので
木野 章
BL
️アフターストーリーは中途半端ですが、本編は完結しております(何処かでまた書き直すつもりです)
どこにでも居る冴えない男
左江内 巨輝(さえない おおき)は
地下アイドルグループ『wedge stone』のメンバーである琥珀の熱烈なファンであった。
しかしある日、グループのメンバー数人が大炎上してしまい、その流れで解散となってしまった…
推しを失ってしまった左江内は抜け殻のように日々を過ごしていたのだが…???
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる