60年生きてきて、何があったかというと何もない。

雨のバス停

　今にも降り出しそうな空の下、バスを待っていた。傘は無い。乗り込むと同時にポツポツと音がし、やがてザーッに変わった。
　同じバス停から老夫婦も乗車し、僕の前の席に並んで座った。
「雨が降る前に乗ることが出来て良かったよな」
「そうですね」
　おばあちゃんが可愛らしい笑みと一緒に返した。
　終点の○○駅まで、バスの中はずっとそのやり取りのみが続いた。
「雨が降る前に乗ることが出来て良かったよな」
「そうですね」
「雨が降る前に乗ることが出来て良かったよな」
「そうですね」
　
　うるさい！クソじじい！同じことを何十回も繰り返すな！
と声を荒げるのが本来の僕なのであろうが、おばあちゃんのおじいちゃんを見る眼と笑みがそれを阻み、逆に羨ましくさえ思えた。

　あんなおばあちゃんになりたいな・・