60年生きてきて、何があったかというと何もない。

生け花

　会社には福利厚生の一環として、いろいろな部・同好会があった。活動内容を申請→了承→活動→領収書を提出→了承となれば、会社が費用を負担してくれていた。部と同好会の違いは知らない。（たぶん所属人数）
　今覚えているだけでも　野球　サッカー　卓球　剣道　・・・　／　俳句　生け花・・・
　僕は興味が無かったので、先輩に頼まれたら名前貸しだけしていた。気がつけば複数の部・同好会に所属していた。が、実際に参加したのはボーリング同好会に数回と原付ツーリング同好会に１回参加しただけだった。ツーリング同好会に原付（50cc）の縛りがあるのを知らず、ナナハン（750cc）で集合場所に乗りつけたら、「帰れ」と言われたので参加１回にはカウントされないかもしれない。

　来客室・社員食堂・休憩室　等に　生け花は展示されていた。

　昼休みに休憩室のソファーに座って自販機の缶コーヒーを飲みながらダラダラしていたら、清掃員のパートのおばちゃんが急に話しかけてきた。
　僕は何故か、面識はあるが今まで話をしたことがない人に、いつも急に話しかけられる。
面識はあるが名前は知らない。でも向こうは僕の名前を知っている。このパターンが非常に多い。

「人見さん。あたしは、学が無く、いろいろな仕事を経験してきたけど、何ひとつとして人並みにできず、全部クビ（解雇）になってきた。結局あたしができるのは、ごみ捨てとか、トイレ掃除とか、雑草抜きとか　清掃員の仕事しかなかった。トイレ掃除をしていたら、トイレに入ってきた人に　早くしろ！ババア　と罵られ、虫けらのような扱いを受け続けてきた。どんな仕事にも誇りを持って・・・と言われても、そんなもの持てる筈もなかった。でもここは違った。職場のゴミは終業時に、社員さんがビニール袋にまとめてゴミ庫まで運んでくれる。トイレ掃除をしてたら、（入って）いいですか？と、声をかけてくれる。こんなあたしに人として接してくれる。パートなのに生け花まで先生のもとで教えていただける。あたしは死ぬまでここにいる」

　目は少し潤んでいた。

「この生け花、キレイですよ」

　嗚咽された。近くにいた女性社員が、僕に会釈し、おばちゃんの腰に手を添え、一緒に消えた。

　『普通』ではダメだと思っていた。抜きん出なければダメだと思っていた。『普通』がスゴイことだと教わった。

　生け花を見るたびに【 憂歌団 】の切ないブルースが頭の中を流れる。

【 お掃除オバチャン 】　　　　　　歌：憂歌団　作詞：沖てる夫　作曲：憂歌団
あたしゃビルのおそうじオバチャン
あたしゃビルのおそうじオバチャン
モップ使って仕事する

朝・昼・晩と便所をみがく
朝・昼・晩と便所をみがく
ウチの便所はもうイヤヨ

一日働いて、2000円！
今日も働いて、2000円！
明日も働いて、2000円！
クソにまみれて、2000円！
あたしゃビルのおそうじオバチャン

こんなあたしもユメはある
こんなあたしもユメはある
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今日も歌って仕事する

ワッシュビ、シュビ・ドゥ・ワッパ
ワッシュビ、シュビ・ドゥ・ワッパ…
今日も歌って仕事する
今日も歌って…