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A fact I just realized (今、気付いた事実)
しおりを挟む今回は70代半ばの爺さん2人が加わって年齢層が高いので、いつもの無駄話タイムとは一味、違っていた。
「ねえ?俺、前から思ってたんだけど、ガンマン会ってさ、何で爺さんばかりなの?婆さんは来ないの?」
メラリーが唐突にケロッと訊ねた。
「商店のヒトは四六時中、お店で奥さんと顔を突き合わせてるから、お互い飽き飽きしてるのよ」
「それで、遊びに出る時くらいは別行動なんじゃないの?」
アンとリンダが勝手にそう決め付けて爺さん2人を見やる。
「あ、わし等2人、女房には10年以上も前に死に別れちゃって独り身だから」
「そうそう、再婚だって出来ちゃうんだから」
爺さん2人はメラリーに答えてから、意味ありげな笑顔でアンとリンダを見返す。
男は幾つになっても馬鹿なのでグラマー美女と再婚などという淡い期待を抱いているのだろうか。
「ああ、フツーは女のヒトのほうが長生きなのにね、商店の奥さんって旦那より先に逝っちゃうパターン多いのよね」
「やっぱり~?夫婦で一緒にお店をやってるのに、さらに奥さんのほうは家事、出産、育児でしょ~」
「それだけ消耗が激しいんだわよ」
サンドラ、タマラ、マダムが口を挟む。
「うん、うちの女房はさ、跡取りの長男が結婚して、店の仕事も長男の嫁さんに引き継いで、ようやっと第二の人生とか言って嬉しそうに女学校時代の友達とあちこち旅行に行くようになってさ、――それが、北海道へ旅行中にホテルの風呂場で脳梗塞で倒れて、そのまんま逝っちゃったんだよ」
美豆里寿司の爺さんがしんみりと語る。
「なにせ北海道だし、遠いし、忘年会の予約ビッシリで、わしも倅も店を抜けられないし、そいで、娘夫婦が北海道まで行ってくれてさ。うぐ、うぐっ」
「そう。そういうことがあったからさ、わし等、商店街の慰安旅行でも地元の温泉旅館でしか泊まらないことにしたんだよな」
今、アラバハ商店連合会の慰安旅行が地元という真の理由が明かされた。
「うちの女房はやたら寒い日の朝、薬局のシャッターを開けたとたんバッタリ。心筋梗塞であっという間でさ、早過ぎだよ。う、ぐぐぅ」
爺さん2人は男泣きにおいおい泣き始めた。
ステーキを食べつつビールも飲んだので酔いが回って泣き上戸か。
(ちょっと、一応、結婚についてが今回の無駄話のテーマなんだろうけど、こちとら結婚前だってのに何でそういう辛気臭い話をっ)
アランは苦り切った顔でお代わりのコーヒーを啜っている。
(ど、どうすればいいの?こんな時は?)
クララは困り顔で爺さん2人を横目でチラチラと盗み見る。
すると、
「あらぁ、どちらの奥さんもピンピンコロリで理想的な最期じゃないの?」
「そうよ。それに10年以上も前に亡くなったなら、もう今頃、生まれ変わってるくらいじゃない?ホントに第二の人生が始まってるわよ」
アンとリンダがあっけらかんとした口調で言った。
そのカラッとドライな言葉は爺さん2人の涙を乾かすのに充分だった。
「あ、ありがと。わしさ、『亡くなった奥さんはいつまでも傍にいて家族を見守ってる』なんて慰められると、少しも嬉しくなくてさ」
「そうだよ。わし等のことはとっくに忘れて可愛い女のコに生まれ変わってさ、明るく楽しく暮らしていて欲しいんだよな」
爺さんも奥さんも戦時中に子供時代を過ごした焼け跡世代だから尚更にそう思うのかも知れなかった。
「もぉ、あんまり泣くと喉が枯れるわよ。この後、カラオケに行くんだからね」
「ほらぁ」
アンとリンダがネイルアートの長い爪で摘まみ出したティッシュで爺さん2人は「うん」「てへへ」と照れ笑いして涙と鼻水を拭いた。
(――あ、聖母マリア?)
太田はハタと気付いた。
この母性的ながらも生活感のなさ。
アンとリンダこそジョーの理想の聖母マリアではないのか。
そこへ、
カラン、コロン。
ステーキハウスの扉が開いて、ジョーがフラッと入ってきた。
もうお見合い相手の楓は帰ったのだろうか。
「――」
どことなく途方に暮れたような目をしている。
「――ジョーさん、どうしたんですか?」
太田は扉の前に茫然として突っ立っているジョーを怪訝そうに見やった。
「お、俺よ、今日、生まれて初めてお見合いなんてもんしてみて、恐ろしいことに気付いちまった――」
ジョーが当惑した表情で呟いた。
「な、何?」
「何ですか?」
メラリーと太田はただならぬ様子に息を詰めてジョーの言葉を待つ。
「――俺、女のコと1対1で会話が1分も続かねえっっ」
ジョーは言い放つなりバッタリと床にうっ臥した。
「えええ~~~っ?」
店内のキャストは一斉にどよめく。
「そ、そんな、モテない中坊じゃあるまいし~」
メラリーは半笑いする。
「今まで女のコと1対1でエロ以外のコミュニケーションなかったんですか?」
「――うん」
太田の問いにジョーは床に臥したまま頷く。
今まで一言二言でベッドへ直行だったので女のコとデートはおろか会話らしい会話もしたことがなかった。
「どうりで乙女心の分からなさといい、短絡的な女性との付き合い方といい、ジョーさん、表面的にはモテモテのイケメンのスケコマシでも中身はダサダサのモテない童貞と紙一重なんですね?」
「うっ」
太田の単刀直入な言葉がジョーの胸をグサッと貫く。
「モテモテが災いしたんですかね?その年齢まで気付かなかったことも驚きですが――」
太田はそれが深刻な致命傷であるかのように難しい顔をする。
「――俺、ヤバい?」
ジョーは顔を起こして哀れっぽく訊ねた。
「う~~~ん」
店内のみながみな一様に首を捻った。
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