番外編 ガンマン、お江戸の町へ行く

薔薇美

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I want to eat donuts (ドーナツが食べたい)

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「オレ、シュガーとシナモン。ウルフもシュガーだよな?」

「うんっ」

 タイガーとウルフがカウンター席からメラリーのいるテーブルへ飛んできた。

 メラリーは空になっていたお見合いのテーブルにドーナツの大きな箱を置いて1人で陣取ったので向かい側にタイガーとウルフが並んで座った。

「え~?ウルフも?ドーナツまで食べられんの?」

 メラリーは自分は3個目のドーナツを手に取りながら信じられないように目を丸くした。

「だって、甘いもんは別腹だろ?この間、ウルフ、回転寿司で10皿もペロッと食べた後でパフェとケーキ2個もペロッだよ。オレは20皿だったけどさっ」

 みな5歳と10歳の大食らいに舌を巻く。

「育ち盛りだもの。きっと2人とも大きくなるわねぇ。とおるの小さい頃にそっくりで見分けが付かないくらい」

 ロバートの母、佳代が目を細める。

「えっ?似てる?どこが?」

 メラリーは率直に異議を唱えた。

 悪役ガンマンの強面のロバートに反してタイガーとウルフは五月人形の金太郎のように勇ましげに目のクリクリとした可愛い顔だ。

「おいおい、俺だって小さい頃は可愛かったんだぜ?」

 ロバートが顎をしゃくるとタイガーは「ほらっ」とケータイの画面を開いた。

「ん?――ああ、ウルフの七五三の時の?」

 メラリーがドーナツをモグモグしながら画面に目を凝らす。

「うん。で、こっちがオレの七五三。で、これが父ちゃんの七五三の写真」

 タイガーは1枚の写真を取り出して、ケータイの画面と並べた。

「わたしがアルバムから剥がして持ってきたのよ。あんまり似てるからタイガーとウルフに見せてあげようと思って」

 佳代がさも愉快げに笑う。

 写真の5歳のロバートは坊ちゃん刈りで赤い蝶ネクタイに濃紺の半ズボンのスーツ姿で昭和の男児に定番の厚地の白いタイツを穿いている。

 千歳飴の細長い袋を手に提げて、神社の本殿の前に「気を付け」の姿勢でピシッと立っている。

「うひゃひゃ、そっくり~」

 メラリーが馬鹿笑いしながらロバートの写真をバツイチ美魔女トリオに回した。

「ホント、ウルフの写真だと言っても通じるくらいよ」

「ロバート、小さい頃は可愛かったのね」

「あら~、ロバートのスーツも佳代さんのお手製~?」

「ええ。タイガーのスーツも徹の時の型紙で作ったから生地違いのお揃いなのよ」

 見分けも付かないほど似ているのだからウルフを引き取った時にロバートは自分の子供だと、佳代も自分の孫だと、まったく疑いもしなかったのだろう。

 周りのヒトはDNA鑑定でもしなければ母親のジェーンが二股していたジャックとロバートのどちらの種か分からないなどと取り越し苦労をしてしまったのだが。

 なんとなく、みなホッと一安心という気分だった。



「残りのドーナツ、箱ごと貰うねっ。ギリーとリラとルナにも持ってってやるんだっ」

 タイガーがドーナツ6個の残った箱の蓋を急いで閉じた。

(リラとルナ?)

 メラリーはゴードンの息子のギリーは知っているが、リラとルナは初耳だった。

 名前からして可愛い女のコだろう。

(タイガーにまさかガールフレンド?)

 指についた砂糖を舐め舐め、メラリーは苦々しい顔になる。


「ねえ?リラルナのママ~?ピアノのレッスン、何時まで?」

 タイガーがアンとリンダに振り返った。

「ん~?何時までだっけ?」

「ケント?レッスン8時までとか言ってた?」

 アンとリンダはケントに訊ねる。

 どうやらリラとルナはアンとリンダの12歳の娘のようだ。

「あ、『アンの娘リラ』ですね?」

 太田がパチンと手を打ったが、

「ブブー。みんな、そう思いがちだけど、リンダの娘がリラ」

「アンの娘がルナよ。この間、ケントに楽団の女のコ紹介してもらって今日からピアノのレッスンなの」

 リラ(林田璃等)とルナ(安藤留名)は楽団のキャスト宿舎の練習室で女子団員からピアノのレッスンを受けることになったのだ。

「そーいや、美豆里寿司でピアノのこと言ってたっけね」

「うん。覚えてる、覚えてる」

 ガンマン会の爺さん2人がうんうんと頷く。


「俺、2歳の頃からギリーとリラとルナとタウンの託児所で一緒だったんだっ」

 タイガーにとってはセクシーなカンカンの踊り子のアンとリンダも2歳の頃から知っている幼馴染みのママなのだ。

「ああ、なるほど~」

 太田はあのゴードンがアンとリンダには立場が弱そうなのは何故だったのか合点がいった。

 アンとリンダがゴードンの息子ギリーとは幼馴染みのリラとルナの母親だからなのだ。

「じゃ、ちょうど今のウルフとカレンちゃんみたいだったのねぇ」

 ロバートの母、佳代がまた目を細めた。


「このタウンは託児所が充実しているから結婚して子供が出来ても安心だね?クララちゃん?」

 アランがここぞとばかりに自分達の結婚話に持っていく。

「そうね。それに子供がミーナのお腹の子と同級生になるかも知れないもの」

 クララもウキウキと笑顔で返した。

 自分達の子供もタイガー、ギリー、リラ、ルナやウルフ、カレンのようにタウンの託児所で一緒に仲良く育つのだろう。

 だが、しかし、

 まだアランとクララにはその前に突破しなくてならない関門がある。

 それも数日後に迫っているのだ。


「あ、そっか。ここのキャストの離婚率の高さってさ、託児所が充実してるせいもあるんじゃね?」

「そーいや、そうだな。離婚しても託児所あるから困らねえもんな。ロバートさんみたくシングルファーザーだっているしよ」

 ヘンリーとハワードが余計なことを言った。

「――」

 その時、マーティが「シングルファーザー」という言葉にちょっと気になるような反応をした。

 マーティの視線はドーナツを頬張るタイガーからウルフへと順に移った。

 自分にもマットという男児がいるので他人事ではないと思ったのだろうか。

 マットはまだ生後4ヶ月半の赤ん坊だが、2歳になれば当然のようにタウンの託児所に預けるつもりだ。

 マットはマーティがあやすとキャッキャッと声を上げて笑うほどに成長して、ますます可愛くなっている。

 シングルファーザーでも困らずにやっていける。

 それは前途に光明が差したように感じられた。

 しかし、そんな自分に我慢が足りないとも思った。

 そう、マーティはずっと我慢していた。

 マーティは今の生活にどうしても馴染めなかったのだ。
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