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everyone speaks the way they like (誰もが好きなようにしゃべる)

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「くわぁ~、終わった、終わった」

「見てるこっちが肩凝った~」

「は~、キャストだけになって伸び伸びする~」

 店内のキャストはみなステーキを黙々と食べながらお見合いのテーブルに耳目を集中させていたので、お見合いのテーブルが空になるとたちまちリラックスして一斉に口を開いた。


「まあまあ美人だけどツンツンして感じ悪かったよな」

「ああ。いっぺんもニコリともしなかったぜ」

「けど、緊張していたのかもだし」

 ヘンリー、ハワード、マーティ。


「メラリーじゃなくてもステーキ残したのは許せねえなっ」

「だなっ」

 トム、フレディ。


「ダイエットでもしてるのかしら~?」

「痩せ気味なくらいなのにね」

「わたし達、ステーキ500gくらいペロリよね」

 タマラ、マダム、サンドラ。


「なんか、ああいう取り澄ました美人よりもアニタのほうが100倍も魅力的だなって改めて実感したっていうか」

「やだぁ、もう、ケントってばぁ」

 ケント、アニタ。


「あのお嬢さん、ジョーちゃんにまるで関心ないみたいよね」

「ジョーちゃんに一瞥もくれなかったのはちょっと憎らしいけど」

 アン、リンダ。


「え~と、『今日はお祖母ちゃん、父ちゃん、弟のウルフとウェスタン・タウンのステーキハウスで夕飯を食べた。ジョーさんがお見合いしていた。相手の女のヒトは美人だけどツンツンしていた』と――」

「あ、タイガーくん。漢字の『母』の書き順は真ん中の横棒が最後ですよ」

「え?ホント?オレ、今までずっと点々を最後に書いてたっ」

「それと『女』の書き順はくノ一です」

「え?オレ、ずっと一を最初に書いてたっ」

 タイガー、太田。


「タイガー、こんなとこで日記つけるなよ」

「英会話教室の他にお習字も習ったほうが良さそうねぇ」

「メロン、もっとたべたいーっ」

 ロバート、佳代、ウルフ。


「コーヒーのお代わりくださ~い。そーいや、ここの貸し切りって何時までだろ?」

「ねえ?訊いてみるわ。――あ、マイケル~」

 アラン、クララ。


 ――と、各々がここまでの会話をほとんど同時にしていた。


「ああ、貸し切りは8時までだから、まだまだ時間あるよ」

 マイケルと呼ばれたウェイターがやってきてタメ口で答えた。

「クララちゃん、結婚するんだって?今度、お祝いにみんなで集まろうよ」

「ホントぉ?嬉しいぃ」

「じゃ、俺が幹事するから。みんなの都合を訊いてタウンのゲストルーム予約するよ」

「うん。ありがと~」

 マイケルとクララはしばし談笑する。

「ちょっと、コーヒーのお代わりはっ?」

 アランの咎め声の催促にマイケルはやれやれと肩をすくめてみせて、「はい~。今すぐお持ちします~」と厨房のほうへきびすを返した。

「何?アイツ、ずいぶん馴れ馴れしいけどっ」

 アランはマイケルの後ろ姿を睨み付ける。

「あら、だって、マイケルは同じ食品部のフードサービスだもの。同期入社なのよ」

 実はクララは自分もちょっとアランにヤキモチを妬かせようとマイケルにわざと親しげな態度を取ったのだ。

「ふうん」

 ステーキハウスのウェイターといえどタウンの正社員だったのかと知るとアランはますます気に食わない。

(だいたい見た目はまるっきり日本人だけどマイケルってどういう本名から付けたんだ?)

 そう思った矢先、

「あ、マイケルの本名は丸池まるいけ順三じゅんぞうっていうのよ」

 クララが何の気になしに言った。

「えっ?クララちゃん、今、俺の考えたこと分かった?今、まさに、マイケルってどういう本名だろうって思ったんだっ」

「嘘っ?ホントに?スゴイ。以心伝心?」

 アランとクララは「2人の心は通じ合っている」とばかりに嬉々として声を弾ませた。


 だが、

「いや、今、わしもマイケルの本名って何だろう?って思ったな」

「わしも」

 ガンマン会の爺さん2人。


「わたしも思ったっ」

「わたしもっ。ねっ?みんな思ったよねっ?」

 バミー、バーバラ。


「ああ、思ったよな」「思った。思った」「タウンのキャストあるあるじゃね?」「だよな」

 みな一様に頷く。

 どうやら店内のキャストのほとんどがそう思ったようだった。


 そこへ、

「ただいまっと~。根馬田屋の旦那を駐車場までお見送りしてきた~。マーサさんは和服を見せびらかしたいから『お見合いの次はお見舞いだよ~』って病院へ回るってさ~」

 メラリーがドーナツの箱を抱えてルンルンと戻ってきた。

「あ、ドーナツは根馬田屋の旦那が『皆さんでどうぞ』って買ってくれたんだよ~。お礼に旦那をガンマン会の特別顧問にお迎えしたんだ~。そしたら、旦那が今度、根馬田屋でガンマン会の会合を開こうって。楽しみ~」

 さすがにジジババをたらし込むのが得意なメラリーだ。

「おおっ、温泉旅館で会合かぁ」

「でかしたっ。メラリーちゃんっ」

 ガンマン会の爺さん2人も大喜びする。

「俺、オールドファッションなっ」

「俺もっ」

「シュガー」

「チョコ、チョコ~」

 ステーキの後にドーナツまで食べられるのは何もメラリーに限らず、次々とドーナツの箱に手が伸びる。

 そんなこんなでステーキハウスの店内は貸し切りの時間いっぱいまで無駄話タイムに突入した。
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