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decisive battle day (決戦の日)
しおりを挟むあくる日の夕方。
カランコロン。
カランコロン。
木製の扉に下がったカウベルがひっきりなしに鳴り響く。
物見高いキャストの面々はタウンのウェスタン牧場直営ステーキハウスに続々と集まっていた。
ステーキハウスはアメリカン・カントリー調のウッディーな内装で広々とした6人掛けのテーブル席だ。
分かりやすく言えば『びっくりドンキー』に似た店内である。
「お腹減った~」
メラリーはテーブルにグタッと顎をのせて、目の前に立てたメニューのステーキの写真をガン見していた。
ショウとパレードが終わってから何も食べていないので腹ペコだった。
いつもは4時頃には早めの夕食だというのに、もう5時半なのだ。
「――」
ジョーはかしこまって座っている。
コスチューム担当のタマラにジョーのウェスタン・ファッションはすべてチンピラ風だと却下されて、タウンの貸衣装屋で借りたオールド・ウェスタンの黒い三つ揃いを着せられていた。
「なんだかガンマンのコスチュームとあまり変わり映えしなかったかしらね~」
「いいんじゃない?」
「そうそう」
タマラ、マダム、サンドラはバツイチ美魔女トリオで同じテーブルに並び、その向かい側にはマーティ、ヘンリー、ハワードが並んでいる。
カランコロン。
「うおっ、こりゃ、盛況だね~」
「あ、まだテーブル1つ空いてるわよ」
アンとリンダがガンマン会の爺さん2人と連れ立って入ってきた。
美豆里寿司の爺さんとアラバハ薬局の爺さんだ。
アンとリンダはお見合い見物に爺さんを誘って、ちゃっかりステーキを奢らせようという魂胆なのだろう。
カランコロン。
「ああ、草履でしずしず歩いてたら遅くなっちゃったよ。根馬田屋さんはまだ着いてないね?ああ、良かったぁ」
マーサが浮き立った様子で入ってきた。
「なんせ和服を着るのは息子の結婚式以来なんだから。ああ、足袋が新しい草履に滑って歩きづらいったら、エナメルの草履なんざ履くもんじゃないよ」
そわそわと店内の鏡の前に立って襟元と裾を直す。
お見合い相手は和服を着慣れている温泉旅館の旦那と娘なのでマーサとしても見栄があるのだ。
「マーサさん、似合うっ」
「着物も帯もバッチリだよっ」
バミーとバーバラが後ろに回ってマーサの帯のお太鼓結びを整える。
「ああ、美容院で着付けからヘアメイク、マニキュアまでフルコースだからねっ」
マーサは得意げに桜色に塗られたネイルカラーの両手をヒラヒラさせた。
仕立て下ろしの高価な銀鼠色の訪問着、真新しい草履に和装バッグで抜かりない。
どんなド田舎のオバサンでも和服を着るとシャキッと背筋が伸び、胸を張って姿勢良く、それなりに堂々と立派に見えるものだ。
荒刃波の大地主のマーサは今まで銀行にただ眠らせていた10桁もの預金の有意義な使い道を70歳近くになってようやく知ったのだった。
カランコロン。
「ま、まだ、始まってない?」
「はぁはぁ、間に合ったぁ」
アランとクララが猛ダッシュで飛び込んできた。
クララはスイーツ・ワゴンの仕事を終えてからアランをロビーに待たせて素早く私服に着替えて走ってきたが、お見合い見物に来たキャストでどうやら2人が最後だった。
「クララちゃん、こっち来ない?」
「テーブル席、ここしか空いてないわよ」
アンとリンダが相席に誘ってくれる。
この2人はクララにずいぶんと優しいが、自分達の小学6年生の娘と同様に思ってクララを子供扱いしている節がある。
「ありがとうございます~」
クララはお見合いのテーブルに背を向けるカウンター席はイヤなので有り難くアンとリンダと爺さん2人のテーブルに着いた。
「はぁ」
アランはクララとデート気分で来たので相席にガックリという嘆息だ。
カウンター席にはロバートと息子のタイガーとウルフ、ロバートの母親の佳代が並んでいる。
このファミリーはウルフがステーキハウスは初めてなので貸し切りついでに食べに来たのだろう。
「う~ん、ちょいと、みんな、席替えだよっ」
マーサはやおら周囲のテーブルを厳しい目で見渡し、指示を出した。
「妙齢の美男美女はこっちのテーブルから顔が見えないように背中向きの席に座るんだよ。お見合いなんだから、ジョーちゃんと根馬田屋のお嬢さんが引き立つようにねっ」
そういう配慮で、根馬田屋のお嬢さんから顔が見える席にはトム、フレディ、太田、ガンマン会の爺さん2人、顔が見えない席にはアラン、ヘンリー、ハワード、マーティ、ケントという配置になった。
アンとリンダは爺さん2人の向かい側、リンダの隣にアラン、その向かい側にクララだ。
クララは自分がマーサに妙齢の美男美女に認定されないのは不満だったが、(このグラマー美女2人と並んで座るよりは良かったわ)とアンとリンダの胸の谷間を恨めしげに見やった。
ほどなくして、
カランコロン。
「どうもお待たせを致しまして――」
ついにキャストが待ちに待った根馬田屋の旦那と娘が到着した。
「ええ、今日はわざわざ、お運びいただきまして有り難う存じますっ。こちらは根馬田屋のご主人の根馬田さんっ。こちらはご長女の楓さんですっ」
お見合いを仕切るマーサは柄にもなく緊張し、まるで学芸会のセリフをハキハキと棒読みする小学生のようだ。
「根馬田でございます。どうぞよろしくお願い致します」
「楓でございます」
風格ある和服の根馬田屋の旦那に楚々とした振り袖の楓が揃って一礼する。
「どうも、ご丁寧に。ええ、こちらはガンマン・ジョーでお馴染みの、にししらさら、にししららわ、にしし――もうっ、ジョーちゃんの苗字、言いづらくて舌噛みそうだよっ」
マーサは紹介が噛み噛みでついイラッと普段の口調が飛び出す。
「西平原譲です」
ジョーは澄まし顔して一礼する。
「えへ、付き添いです~」
メラリーは緊張感もなく楽しんでいる。
「メラリーちゃんだね。ようく知ってますよ」
根馬田屋の旦那は客商売らしく愛想の良い笑顔で場を和ませる。
「お、おい、たまげた美女だよ」
「ああ、こうしてアンちゃんとリンダちゃん越しに見ても引けを取らないよ」
爺さん2人は目を見張り、感動の吐息を漏らした。
「ホ、ホントにビックリするほど綺麗」
クララはお見合い写真を見ていないので、まさか、これほどの美女が現れようとは予想だにしなかった。
「ええ?そんなに美女?見たいけど、あからさまに振り向くとマーサさんに怒られるし」
アランは背後のテーブルの美女が見たくてムズムズしている。
「どーれ?」
アンとリンダは小さな手鏡を開いて背後を映した。
「まあ、陶器みたいな美肌よ」
「どんなスキンケアしてるのか気になるわね」
2人は美女の観点で美女に興味津々だ。
「俺も見たい。クララちゃん、手鏡、貸して?」
アランが美女を見たさにウズウズしながらクララに懇願する。
「貸さないわよ。アランは見なくていいのっ」
クララは邪険に突っぱねた。
アンとリンダの胸の谷間も、楚々とした振り袖の美女もアランの視界に入れてなるものか。
自分がこんなにも嫉妬深いのだとクララは22歳にしてようやく知ったのだ。
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