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get along well enough to fight (ケンカ出来るほど仲良くなる)

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 その日の特訓後。


「まったくメラリーの奴ぅ、アイツが戻ってきたら戻ってきたで、たちまちムカつくなっ」

「だなっ」

 トムとフレディがプンプンしながらキャスト食堂へやってきた。

 キャスト控え室でメラリーと何やら揉めたらしい。


「どうせ、メラリーの奴が『うまい棒はエビマヨ味しか食べないよ』とか抜かしてトムとフレディを怒らせたんだろ」

 ジョーはそう推測して、

「うまい棒なんか俺が100万本くらい買ってやるのによ――てか、うまい棒って1本いくら?」

 気軽にそう言うと何でもコイツに聞けば間違いない太田に見返った。

「たしか、駅前のスーパーマーケットだと1本12円なので100万本で1200万円ですね」

 太田がそつなく答える。

「――1200万円っ?嘘っ?買えねえじゃん――」

 ジョーは唖然と目を丸くした。

 うまい棒100万本で1200万円だと?

 貯金をはたいても1200万円などある訳ない。

 ショウの看板スタァなのでそれなりのギャラは貰っているのだが、ジョーは宵越しの銭を持たない江戸っ子なのであればあるだけ使ってしまうのだ。

「え~?ちょっと聞いた?うまい棒100万本も買えない男と結婚したい女なんている?」

「いないわよね~?」

 カンカンの踊り子のアンとリンダがせせら笑う。

 2人は筆頭ハニーだけにジョーに降って湧いたお見合い話が気に食わないのだ。

 おまけにメラロス期間のジョーはエロ活もご無沙汰だったのでアンとリンダは不満だった。

「ちょい待てよ。タウンの看板スタァの俺がうまい棒100万本も買えねえってのに、何で貧乏な絵描きが薔薇の花100万本も買えるんだよっ?」

 ジョーは憤懣やるかたなく加藤登紀子の架空の歌に文句を言った。

 薔薇の花100万本を買えた貧乏な絵描き、うまい棒100万本を買えない高ギャラなガンマン。

 貧乏の定義とは何ぞや。

「そもそもジョーちゃん、結婚する気はないとか言ってるけど、する気があったところでジョーちゃんと結婚したい女なんかいないってことよね?」

「そうそう、今が楽しけりゃいいじゃんって先の見通しテキトーで将来設計なんて皆無だものね?」

 小学6年生の娘のいるシングルマザーのアンとリンダはチャラチャラして見えても節約して子供の教育費にうまい棒100万本買えるくらいの預金はきっちりしている堅実派なのだ。

「――むぅ」

 ジョーは苦虫を噛み潰したような顔をする。


 そこへ、

「トム、ほらっ、これで文句ないだろっ」

 メラリーがバタバタと走り込んできて、トムにうまい棒4本を押し付けた。

 どうやらトムがキャスト控え室のロッカーに常備していたオヤツのうまい棒をメラリーが盗み食いしたのが喧嘩の原因だったらしい。

「なんだ。わざわざ駅前のコンビニまで行って買ってきたのかよ?」

 トムは拍子抜けしたようにうまい棒を手に取る。

「それにお前が食ったのはサラミ味だったのに、これはチーズ味じゃんか」

 フレディも横から覗き込む。

 常々、この2人は「サラミ味だけは美味くねえっ」「サラミ味いらねっ」とほざいてバラエティーパックで買うとサラミ味だけ残していたのだ。

「だって、やっぱりチーズ味のほうが好きだし~。エビマヨ味が一番好きだけどコンビニには売ってないし~」

 メラリーは自分の分のうまい棒チーズ味をエコバッグから取り出す。

 エコバッグはハロウィンイベントの売れ残り商品の半額をさらにキャスト割引で買ったキャラクタートリオとカボチャの柄だ。

 タウンのキャストはシーズンイベントの売れ残りを買うのが当たり前で季節外れの柄のアイテムばかり持つのだ。

 今日からバックステージのキャストショップにはバレンタインの売れ残り商品が半額で並んでいる。


「ん~、うまい棒に合う飲み物はなかなか難しいけど、夜だからお茶にしよう~」

 メラリーはキャスト食堂のタダのお茶でうまい棒をモシャモシャと食べる。

「俺の分は?」

 ジョーはないと分かっていても念のため訊いてみる。

 そして、無断でメラリーのエコバッグからうまい棒チーズ味を取り出して1本貰う。

 ついでに無断でもう1本貰って「ほい」と太田に手渡す。

「特訓後にみんなでオヤツを食べていると学生時代の部活の後みたいですね~。もっとも、俺は中高と帰宅部でしたが」

 学生時代の太田はガリ勉で昼夜を分かたず机に向かう日々だったのだ。

 太田にとっては今が遅く来た青春の真っ盛りだと思った。


「うまい棒には牛乳じゃね?」

「だな」

「牛乳、飲めないし~」

 トム、フレディ、メラリーはつまらないことで喧嘩しながらもすぐにケロッとして意外に仲良しと言えなくもない。

 そんなこんなで今日もキャストは和気あいあいと過ごしている。


(明日、何、着てこうかな~?)

 ジョーはタウンのウェスタン・ウェアのショップでしか服は買わないが金遣いが荒いだけに衣装持ちなので、明日、コスチューム担当のタマラに見立ててもらおうと思った。

 あの写真の博多人形のような美女とご対面と思うと身支度にも気合いが入るというものだ。

 何はともあれ、明日のお見合いに備えて今夜はゆっくりと風呂に入って早めに寝よう。


「ふぅん」

「浮かれちゃってさ」

 アンとリンダはいまいましげにジョーを睨み付けていた。
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