4 / 12
get along well enough to fight (ケンカ出来るほど仲良くなる)
しおりを挟む
その日の特訓後。
「まったくメラリーの奴ぅ、アイツが戻ってきたら戻ってきたで、たちまちムカつくなっ」
「だなっ」
トムとフレディがプンプンしながらキャスト食堂へやってきた。
キャスト控え室でメラリーと何やら揉めたらしい。
「どうせ、メラリーの奴が『うまい棒はエビマヨ味しか食べないよ』とか抜かしてトムとフレディを怒らせたんだろ」
ジョーはそう推測して、
「うまい棒なんか俺が100万本くらい買ってやるのによ――てか、うまい棒って1本いくら?」
気軽にそう言うと何でもコイツに聞けば間違いない太田に見返った。
「たしか、駅前のスーパーマーケットだと1本12円なので100万本で1200万円ですね」
太田がそつなく答える。
「――1200万円っ?嘘っ?買えねえじゃん――」
ジョーは唖然と目を丸くした。
うまい棒100万本で1200万円だと?
貯金をはたいても1200万円などある訳ない。
ショウの看板スタァなのでそれなりのギャラは貰っているのだが、ジョーは宵越しの銭を持たない江戸っ子なのであればあるだけ使ってしまうのだ。
「え~?ちょっと聞いた?うまい棒100万本も買えない男と結婚したい女なんている?」
「いないわよね~?」
カンカンの踊り子のアンとリンダがせせら笑う。
2人は筆頭ハニーだけにジョーに降って湧いたお見合い話が気に食わないのだ。
おまけにメラロス期間のジョーはエロ活もご無沙汰だったのでアンとリンダは不満だった。
「ちょい待てよ。タウンの看板スタァの俺がうまい棒100万本も買えねえってのに、何で貧乏な絵描きが薔薇の花100万本も買えるんだよっ?」
ジョーは憤懣やるかたなく加藤登紀子の架空の歌に文句を言った。
薔薇の花100万本を買えた貧乏な絵描き、うまい棒100万本を買えない高ギャラなガンマン。
貧乏の定義とは何ぞや。
「そもそもジョーちゃん、結婚する気はないとか言ってるけど、する気があったところでジョーちゃんと結婚したい女なんかいないってことよね?」
「そうそう、今が楽しけりゃいいじゃんって先の見通しテキトーで将来設計なんて皆無だものね?」
小学6年生の娘のいるシングルマザーのアンとリンダはチャラチャラして見えても節約して子供の教育費にうまい棒100万本買えるくらいの預金はきっちりしている堅実派なのだ。
「――むぅ」
ジョーは苦虫を噛み潰したような顔をする。
そこへ、
「トム、ほらっ、これで文句ないだろっ」
メラリーがバタバタと走り込んできて、トムにうまい棒4本を押し付けた。
どうやらトムがキャスト控え室のロッカーに常備していたオヤツのうまい棒をメラリーが盗み食いしたのが喧嘩の原因だったらしい。
「なんだ。わざわざ駅前のコンビニまで行って買ってきたのかよ?」
トムは拍子抜けしたようにうまい棒を手に取る。
「それにお前が食ったのはサラミ味だったのに、これはチーズ味じゃんか」
フレディも横から覗き込む。
常々、この2人は「サラミ味だけは美味くねえっ」「サラミ味いらねっ」とほざいてバラエティーパックで買うとサラミ味だけ残していたのだ。
「だって、やっぱりチーズ味のほうが好きだし~。エビマヨ味が一番好きだけどコンビニには売ってないし~」
メラリーは自分の分のうまい棒チーズ味をエコバッグから取り出す。
エコバッグはハロウィンイベントの売れ残り商品の半額をさらにキャスト割引で買ったキャラクタートリオとカボチャの柄だ。
タウンのキャストはシーズンイベントの売れ残りを買うのが当たり前で季節外れの柄のアイテムばかり持つのだ。
今日からバックステージのキャストショップにはバレンタインの売れ残り商品が半額で並んでいる。
「ん~、うまい棒に合う飲み物はなかなか難しいけど、夜だからお茶にしよう~」
メラリーはキャスト食堂のタダのお茶でうまい棒をモシャモシャと食べる。
「俺の分は?」
ジョーはないと分かっていても念のため訊いてみる。
そして、無断でメラリーのエコバッグからうまい棒チーズ味を取り出して1本貰う。
ついでに無断でもう1本貰って「ほい」と太田に手渡す。
「特訓後にみんなでオヤツを食べていると学生時代の部活の後みたいですね~。もっとも、俺は中高と帰宅部でしたが」
学生時代の太田はガリ勉で昼夜を分かたず机に向かう日々だったのだ。
太田にとっては今が遅く来た青春の真っ盛りだと思った。
「うまい棒には牛乳じゃね?」
「だな」
「牛乳、飲めないし~」
トム、フレディ、メラリーはつまらないことで喧嘩しながらもすぐにケロッとして意外に仲良しと言えなくもない。
そんなこんなで今日もキャストは和気あいあいと過ごしている。
(明日、何、着てこうかな~?)
ジョーはタウンのウェスタン・ウェアのショップでしか服は買わないが金遣いが荒いだけに衣装持ちなので、明日、コスチューム担当のタマラに見立ててもらおうと思った。
あの写真の博多人形のような美女とご対面と思うと身支度にも気合いが入るというものだ。
何はともあれ、明日のお見合いに備えて今夜はゆっくりと風呂に入って早めに寝よう。
「ふぅん」
「浮かれちゃってさ」
アンとリンダはいまいましげにジョーを睨み付けていた。
「まったくメラリーの奴ぅ、アイツが戻ってきたら戻ってきたで、たちまちムカつくなっ」
「だなっ」
トムとフレディがプンプンしながらキャスト食堂へやってきた。
キャスト控え室でメラリーと何やら揉めたらしい。
「どうせ、メラリーの奴が『うまい棒はエビマヨ味しか食べないよ』とか抜かしてトムとフレディを怒らせたんだろ」
ジョーはそう推測して、
「うまい棒なんか俺が100万本くらい買ってやるのによ――てか、うまい棒って1本いくら?」
気軽にそう言うと何でもコイツに聞けば間違いない太田に見返った。
「たしか、駅前のスーパーマーケットだと1本12円なので100万本で1200万円ですね」
太田がそつなく答える。
「――1200万円っ?嘘っ?買えねえじゃん――」
ジョーは唖然と目を丸くした。
うまい棒100万本で1200万円だと?
貯金をはたいても1200万円などある訳ない。
ショウの看板スタァなのでそれなりのギャラは貰っているのだが、ジョーは宵越しの銭を持たない江戸っ子なのであればあるだけ使ってしまうのだ。
「え~?ちょっと聞いた?うまい棒100万本も買えない男と結婚したい女なんている?」
「いないわよね~?」
カンカンの踊り子のアンとリンダがせせら笑う。
2人は筆頭ハニーだけにジョーに降って湧いたお見合い話が気に食わないのだ。
おまけにメラロス期間のジョーはエロ活もご無沙汰だったのでアンとリンダは不満だった。
「ちょい待てよ。タウンの看板スタァの俺がうまい棒100万本も買えねえってのに、何で貧乏な絵描きが薔薇の花100万本も買えるんだよっ?」
ジョーは憤懣やるかたなく加藤登紀子の架空の歌に文句を言った。
薔薇の花100万本を買えた貧乏な絵描き、うまい棒100万本を買えない高ギャラなガンマン。
貧乏の定義とは何ぞや。
「そもそもジョーちゃん、結婚する気はないとか言ってるけど、する気があったところでジョーちゃんと結婚したい女なんかいないってことよね?」
「そうそう、今が楽しけりゃいいじゃんって先の見通しテキトーで将来設計なんて皆無だものね?」
小学6年生の娘のいるシングルマザーのアンとリンダはチャラチャラして見えても節約して子供の教育費にうまい棒100万本買えるくらいの預金はきっちりしている堅実派なのだ。
「――むぅ」
ジョーは苦虫を噛み潰したような顔をする。
そこへ、
「トム、ほらっ、これで文句ないだろっ」
メラリーがバタバタと走り込んできて、トムにうまい棒4本を押し付けた。
どうやらトムがキャスト控え室のロッカーに常備していたオヤツのうまい棒をメラリーが盗み食いしたのが喧嘩の原因だったらしい。
「なんだ。わざわざ駅前のコンビニまで行って買ってきたのかよ?」
トムは拍子抜けしたようにうまい棒を手に取る。
「それにお前が食ったのはサラミ味だったのに、これはチーズ味じゃんか」
フレディも横から覗き込む。
常々、この2人は「サラミ味だけは美味くねえっ」「サラミ味いらねっ」とほざいてバラエティーパックで買うとサラミ味だけ残していたのだ。
「だって、やっぱりチーズ味のほうが好きだし~。エビマヨ味が一番好きだけどコンビニには売ってないし~」
メラリーは自分の分のうまい棒チーズ味をエコバッグから取り出す。
エコバッグはハロウィンイベントの売れ残り商品の半額をさらにキャスト割引で買ったキャラクタートリオとカボチャの柄だ。
タウンのキャストはシーズンイベントの売れ残りを買うのが当たり前で季節外れの柄のアイテムばかり持つのだ。
今日からバックステージのキャストショップにはバレンタインの売れ残り商品が半額で並んでいる。
「ん~、うまい棒に合う飲み物はなかなか難しいけど、夜だからお茶にしよう~」
メラリーはキャスト食堂のタダのお茶でうまい棒をモシャモシャと食べる。
「俺の分は?」
ジョーはないと分かっていても念のため訊いてみる。
そして、無断でメラリーのエコバッグからうまい棒チーズ味を取り出して1本貰う。
ついでに無断でもう1本貰って「ほい」と太田に手渡す。
「特訓後にみんなでオヤツを食べていると学生時代の部活の後みたいですね~。もっとも、俺は中高と帰宅部でしたが」
学生時代の太田はガリ勉で昼夜を分かたず机に向かう日々だったのだ。
太田にとっては今が遅く来た青春の真っ盛りだと思った。
「うまい棒には牛乳じゃね?」
「だな」
「牛乳、飲めないし~」
トム、フレディ、メラリーはつまらないことで喧嘩しながらもすぐにケロッとして意外に仲良しと言えなくもない。
そんなこんなで今日もキャストは和気あいあいと過ごしている。
(明日、何、着てこうかな~?)
ジョーはタウンのウェスタン・ウェアのショップでしか服は買わないが金遣いが荒いだけに衣装持ちなので、明日、コスチューム担当のタマラに見立ててもらおうと思った。
あの写真の博多人形のような美女とご対面と思うと身支度にも気合いが入るというものだ。
何はともあれ、明日のお見合いに備えて今夜はゆっくりと風呂に入って早めに寝よう。
「ふぅん」
「浮かれちゃってさ」
アンとリンダはいまいましげにジョーを睨み付けていた。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
らしく
綾瀬徹
青春
相沢健二は勉強が苦手、運動神経は普通でルックスは中の下くらいの平凡いや平凡以下かもしれない高校2年生。そんなある日、クラスに転校生がやってきて健二の学園生活は大きく変化する。
* "小説家になろう"でも掲載してます。
アオハルレシピは嘘をつく
七尾ネコ
青春
「料理しか取り柄のないクズ」と周りから距離を置かれている男子高校生【小鳥遊 夜接(たかなし よつぎ)】は、高校一年生にして全国制覇を達成した。
高校生活二度目の春。夜接は、数少ない彼の理解者である女子高校生【星宮 つゆり(ほしみや つゆり)】とともに料理部を結成することに。
結成直後にもかかわらず廃部寸前まで追い込まれた料理部は、さらにクセの強いメンバーを仲間にしていくことで、なんとか廃部を回避する。
次々と引き起こされる困難に立ち向かい、時にはダッシュで逃げまくりながらも、少しずつ成長していく夜接たち。
変人ばかりの料理部で巻き起こる青春は、ただの青い春では終わらない!
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
その困り事、私達にお任せ下さい!!
黒崎 夢音
青春
人が困っているとすぐに助けに入ってしまう小井野 恋(こいの れん)は、人の役に立つ仕事をしたいと考え、人助けをする店を開くことにしたのだが、恋自身、色々な厄介事に巻き込まれてしまう性格で…。そんな恋を心配し、桜田 叶翔(さくらだ かなと)は、恋と一緒にお店を開くことにするのだが…。
2人のドタバタコメディここに開幕!!
ほんの少しの世界を映し出す。
神崎郁
青春
僕と彼女、春野千咲は幼馴染だった。
中学に上がってから彼女は写真を撮ることに固執し始め、やがて交通事故でその命を散らした。
抜け殻のように生きてきた僕が、想い出の場所で彼女が遺した壊れたカメラを構える時、時間が巻き戻る。
果たして僕は彼女に何が出来るだろうか。
タイムリープ青春ファンタジー。
※カクヨムにも掲載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる