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you can't say no(あなたはノーとは言えません)
しおりを挟むその日の夕方、
いつもと変わらずショウのキャストが早めの夕飯にキャスト食堂に集っていると、
「ジョーちゃん?ちょっと、これ見てちょうだい」
ゴードンがいそいそとやってきて大きな封筒を差し出した。
封筒に『あらばは写真館』とある。
「――お見合い写真?」
封筒を覗き込んだキャストが異口同音に声を揃える。
「そう。マーサさんから頼まれちゃったのよ。ほら、タウンの影の大番長だもの。イヤとは言えないでしょお?」
ゴードンは配膳台のマーサに聞こえないように声を潜めて言うと、封筒から抜き出した台紙をジョーの前にずいっと押し出す。
「マーサさん、お見合いの仲立ちが生き甲斐になっちゃったんだよ」
「この間から付き添いの自分の着物まで何枚も誂えて張り切ってるんだよ」
バミーとバーバラが口を挟む。
2人は今でもマーサの山田家の住み込みのお手伝いさんをしているのだ。
「ふぅん、どれ?」
どうでもよさそうに頬杖を突いたジョーが箸を咥えたまま、おもむろに台紙を開き、薄紙をペラッとめくると、
博多人形のような凛とした美女の写真が現れた。
見るからに高価そうな濃紫色の古代蝶の柄の総絞りの振り袖姿だ。
「――っ」
カチャーン!
ジョーの口から箸がポロッと落ち、茶碗に当たって跳ね返った。
「び、美女っ」
「だ、だなっ」
トムとフレディがお見合い写真を引ったくる。
「――」
メラリーは写真をチラッと一瞥しただけでノーリアクション。
理想のタイプは年上の美女だがボインではないという一点で除外なのである。
「ここの地元の根馬田屋って温泉旅館の娘さん。今は女将のお母さんに付いて若女将修業中ですって」
ゴードンがお見合い写真に添えられた釣り書きを示す。
名は根馬田楓、年齢24歳、身長165cm、趣味は茶道、華道、乗馬とある。
「う~ん、いや、俺、結婚なんて一生する気ねえんだけど?」
ジョーは写真の美女とお近づきになりたいのはやまやまだが、それはそれ、いつまでもエロ男として日替わりハニーと自由を謳歌したい気持ちに変わりはない。
「べつにお見合いだけしてくれたらいいのよ。それでマーサさんへの義理は立つんだから。それに、根馬田屋の旦那さん、ジョーちゃんの大ファンなんですって。先方がジョーちゃんご指名なのよ」
ゴードンは断るなんて選択肢はないと言わんばかりだ。
「ファンサービスと思えばいいじゃないか。一緒にメシ食うだけだろ?」
「タダでご馳走なんて断る理由ないじゃん~。いいな~。俺もお見合いしたい~」
ロバートとメラリーは他人事なので気軽に勧める。
「父親がジョーのファンだからって、この娘さんも迷惑ね~。でも、旅館の跡取り娘となると結婚も自由にならないものなのかしら?」
マダムは根馬田屋の娘に同情的だ。
「ま、お見合いと言っても昔と違って形式張らずにちょこっと逢って一緒にご飯食べるだけでいいんだから」
ゴードンはにんまりと頷いてみせる。
実はマーサから預かったお見合い写真はこれだけではなかった。
ジョーのお見合いはほんの手慣らしの序の口に過ぎないのだ。
「ジョーさんの親御さんはお見合いに同席しないんですか?」
太田はジョーが床に落とした箸を拾って配膳台から新しい箸を取ってきて手渡した。
まだ日課の一日一善を実行中なのだ。
「え?親?俺、警察官を辞めて以来、実家とは絶縁状態だぜ」
ジョーはブンブンと首を振る。
「で、お見合いはどこで~?」
メラリーはご馳走のメニューが気になる。
「このタウンのウェスタン牧場直営のステーキハウスよ。あちらが自分のところの旅館じゃ気詰まりだろうし、ジョーちゃんは会席料理よりステーキのほうがいいだろうからって」
「え~、俺、どっちかっていうと和食のほうが好きなのに」
ジョーはどうせならあまり機会のない会席料理が食べたかった。
「イメージじゃガンマンはステーキなんだろ?」
ロバートは鼻の下を伸ばして写真の美女をつくづく眺めている。
「――」
マダムは面白くなさそうに横目でロバートを睨んでいる。
「いいな~。ステーキ~」
メラリーはステーキハウスのお食事券10万円分があるくせに使うのが勿体ないので、なるべくなら他人の奢りで食べたい。
「お前も来ればいいじゃん」
ジョーが気軽に誘う。
「え?いいのっ?」
メラリーは嬉々として椅子から飛び上がる。
「ちょっと、お見合いなんですよ?」
太田が咎め顔をしたが、
「いいじゃん。メラリー、俺の両親の代理ってことで」
「やたっ」
ジョーはオマケにメラリーを連れて根馬田屋の娘とお見合いすることに決めた。
お見合い当日の面子は付き添いのマーサ、ジョー、メラリーの3人だ。
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