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army of shadows(影の軍団)
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2月16日の月曜日。
さほどの月日の経過もなく本編のTHE ENDの翌日である。
「ポップコーンはいかがですか~」
今日も今日とてクララはメインストリートのスイーツ・ワゴンでポップコーンを売っていた。
「ポップコーンは――」
ポップコーンに天日塩を振ってザカザカと掻き混ぜながら、
「いかがで――っ」
怪しい気配にハッとして顔を上げる。
スサ、スサ、スサ、
目の前を黒装束の男等12人が足音を忍ばせるように静かに通り過ぎていく。
ウェスタン・タウンにはおよそ似つかわしくない墨染のような筒袖に馬乗り袴、手甲に脚絆、黒足袋に草鞋履きだ。
(な、なに?あのヒト達は――)
クララは呆然として黒装束の男等の後ろ姿を見送った。
「大人、12枚」
12人の黒装束の男等はチケット売り場でウェスタン・ショウの当日券を買った。
年齢の頃は20代後半か。
他のゲストが物珍しげにジロジロと黒装束の男等を見ている。
「――(ギロリ)」
黒装束の男等は鋭い目で威嚇するようにゲストを睨み付けた。
「なんだ?あの恰好は。近頃の若い者はTPOというものをわきまえとらんのか」
焦茶色のテンガロンハットを被ったウェスタン・ウェアの60代の男がブツブツと文句を言いながら黒装束の男等を見やった。
恰幅が良く西部劇に出てくる牧場主といった風貌だ。
「まったくですな」
その背後に付き従っている痩せた50代の男が大きく頷く。
そこへ、
「あ、根馬田屋の旦那さんと番頭さん~」
ガンマン会の爺さん連中がゾロゾロとやってきた。
根馬田屋は荒刃波の温泉旅館で60代の男は旦那、50代の男は番頭らしい。
ガンマン会の爺さん連中と根馬田屋の旦那と番頭は入口ゲートで落ち合うと揃って観客席へ入っていった。
一方、
ビュート(岩山)の楽屋ではガンマンキャストが本番までマッタリとしていた。
「お~、2月の閑散期の平日のわりにはゲスト入ったな」
ジョーがいつものように楽屋の窓から観客席を見渡し、缶コーヒーをグビッと飲む。
「俺の復帰のショウだから~、ガンマン会がみんなで来てくれたし~」
メラリーは窓に張り付き、『ガンマン・メラリーを援護射撃する会』の横断幕を満足げに眺める。
ガンマン会は実のところ地元のアラバハ商店街連合会なので会員は50人もいるが、ほとんどが来ているようだ。
見掛けないオッサンも2人いるが(新会員かな~?)とメラリーはご機嫌で思った。
「――んぐっ?なんだ?忍者が来てるっ」
ジョーが観客席にゾロゾロと入ってきた黒装束の男等に目を見張った。
「マ、マジで忍者じゃんっ」
「だなっ」
トムとフレディも窓にガバッと張り付く。
「さては敵情視察?」
メラリーは(むむっ)と目に敵意を込める。
敵対視している花形忍者の美童丸は来ていないようだが。
「てか、花形忍者って何だよ?」
ジョーが思わず突っ込む。
「わざわざ忍者の装束で来るあたり、これ見よがしとしか思えんが」
「忍びもせずに堂々とガンマンvs忍者の対決の下見って訳ね」
ロバートとマダムも好戦的に構えた。
「――(ジタバタ)」
キャラクタートリオは地団駄を踏んでジェスチャーで敵対心を表している。
「ケッ」
黒装束の忍者12人は『ガンマン・メラリーを援護射撃する会』の横断幕を不興げな顔で見てから、ガンマン会の爺さん連中の後ろ側に6人ずつ2列に並んで腰を下ろした。
「ゴードンさん?俺等も敵情視察しないと不公平じゃないっすか?」
「そうっすよ。敵は忍者の美童丸がこっちに潜伏してたってのに」
トムとフレディがゴードンに詰め寄った。
4月にガンマンデビューする2人は闘志に燃えているのだ。
「けど、お江戸の町はリニューアル工事で休業中だろ?」
「そーいや、リニューアルオープンはいつなんすか?」
ジョーとメラリーが訊ねる。
「お江戸の町のリニューアルオープンは3月1日の日曜よ。でも、その1週間前に関係者が招待されるプレオープンがあるのよ。勿論、わたし達にも招待状が届いているわ」
ゴードンが目配せすると、秘書のキャロラインが書類袋からドサッと招待状を出してみせた。
ショウのキャスト全員で行けそうなほど招待状の束は分厚い。
招待状はお江戸の町らしく市松模様に桜の和柄で勘亭流の筆文字だ。
「二月二十二日の日曜か」
お江戸の町では漢数字しか使わない。
「俺達、ショウとパレードの後にしか行けないから急いでも4時頃だね?」
ジョーとメラリーが招待状を見ると、『開幕、午前九時、閉幕、午後六時』とある。
お江戸の町は荒刃波山の山の中にあるせいか開園も閉園もずいぶんと早いようだ。
「忍びの一座の出し物は午前1幕と午後2幕あるから最後の回は観られるから大丈夫よ」
ゴードンは「わたしは忙しいから行けないけど」と無念そうだ。
「2月22日はお江戸の町へ乗り込むぞっ」
リーダーのロバートが宣言すると、
「おーっ」
ガンマンキャストとキャラクタートリオまで揃って拳を突き上げた。
そうこうして、本日のガンファイトが始まった。
ガン!
ガン!
ガン!
ガン!
「いけーっ。撃てーっ」
「おっ、メラリーちゃん、当たったーっ」
熱心に拳を振りながら応援しているガンマン会の爺さん連中。
その後ろの席の忍者12人は、
「やっぱ、迫力あるよな~」
「俺等も風船でも飛ばして手裏剣で撃ってみねえ?」
「風船~?お江戸の町に風船は違和感が有りまくりだろ~?」
「でも、紙風船ってのもあるしよ」
「紙風船じゃ割れてもペシャッだろ?迫力ねぇし~」
「それにしてもよ、うちの町娘より、ここのメラリーって男の女装のほうが可愛いってヤバくね?」
「うちの町娘、ほとんど40歳近くだぜ。そりゃ、キッツイだろ」
「若くて可愛いコはお江戸の演者よりタウンのキャストを目指すしな」
「俺、こっちに転職しようかな~。火縄銃よりかライフルのほうが簡単だし、とんぼ返りしながら曲撃ちとか出来るかもだし、馬なら乗れるしよ」
「あっ、この裏切り者がっ」
ペラペラとしゃべくる、しゃべくる。
「ゴホン、ゴホンッ」
根馬田屋の旦那がわざとらしく咳払いする。
「ちょっと、うるさいんだけど」
番頭が振り向いて忍者に注意した。
「こりゃ、ご無礼をっ」
忍者はぞんざいに詫びる。
「ふんっ」
根馬田屋の旦那は憎々しげに鼻息を飛ばす。
ホウ、ホウ、ホウ~、
(先住民の雄叫び)
パラッパッパッー♪
(騎兵隊のラッパ)
「旦那さん。ほら、馬が出ますよ」
「おおっ」
根馬田屋の旦那は気を取り直し、身を乗り出した。
パッカ、
パッカ、
パッカ、
パッカ、
馬で駆けながらアクロバティックな曲撃ちを見せるジョーとロバート。
「うん、うん」
根馬田屋の旦那は目を細めてご満悦だった。
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