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丁半博打 其の二
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「四三の半っ」
サイコロの目は四と三だ。
「うわぃ、半ぢゃ、半ぢゃあ」
「やったぁ」
「わあっ」
サギ、実之介、お枝は手を取り合って大喜びする。
「あああ」
「外れたわな」
「まあ、仕方ないわなあ」
草之介、お花、お葉はガックリと嘆息する。
チャカ、
カチャ、
チャカ、
向かい側の男衆がT字になった長い棒で負けた丁の三人のコマ六枚を掻き集めると、勝った半の三人の前へそれぞれコマが差し出された。
「あっと、いけね。言い忘れた。足して七になる出目の四三、五二、一六はビリゾロって言って、賭け銭の一部は盆を開いた座敷の貸し賃として払われる決まりなんだ」
竜胆がまた後から説明した。
「今晩の盆は桔梗屋の広間をお借りしてるので、桔梗屋の奥様に払われるって訳でござんすよ」
お竜姐さんが補足すると、男衆は勝った半のコマ六枚から三枚をお葉の前へ戻した。
桔梗屋の主は一応、長男の草之介なのだが、実権を握っているのはお葉だと誰もが思っているようだ。
「あれ、ぢゃあ、外れても出目が七なら、わたしゃ得するんだわなあ」
お葉はホクホク顔になる。
「なんぢゃ、竜胆め、早う言わんかぁ」
「勝っても七が出たら、ちょっと損するのかぁ」
「あたい、ガッカリだわな」
サギ、実之介、お枝はプンプン顔だ。
再び、
「よござんすか?よござんすか?」
お竜姐さんが片手にツボ、片手にサイコロ二個で左右へ流し目。
シュタッ、
「勝負っ」
カララン、
タンッ!
盆の上にツボが伏せらせた。
「張ったり、張ったりぃ」
竜胆、メバル、男衆が声を揃える。
「わしゃ、今度も三つだ。う~ん、半に三つ」
草之介はあくまでも三つにこだわって、半に三つ。
「あたしゃ、丁に二つ。次こそ丁だと思うわな」
お花は直感で丁に二つ。
「わたしゃ、半に三つ」
お葉は気前良く半に三つ。
「わしゃ、丁に三つぢゃ」
サギはつい草之介に張り合って丁に三つ。
「わしも丁。丁に二つだ」
実之介は師匠のサギに倣って丁に二つ。
「あれっ、あとはハンしかはれんわな?う~ん、ハンにみっつ」
五歳にして丁半博打の決まりも飲み込み、暗算も出来るお枝は半に三つ。
「丁か半かっ」
ツボが開けられた。
「ピンゾロの丁っ」
サイコロの目は一と一だ。
「うわぃ、また勝ったのぢゃっ」
「やっぱり丁だわなっ」
「やったぁ」
サギ、お花、実之介は大喜びする。
チャカ、
カチャ、
チャカ、
無情にも男衆によって負けた半のコマがT字の長い棒で掻き集められていく。
このT字の長い棒の名称が分からないので面倒臭い。
「あたい、のこりのコマみっつだけだわな」
お枝は涙目だ。
「わしなど、もう――」
草之介は早くもコマをすっからかんに使い切ってしまった。
しかし、これで潔く勝負を終えるような草之介ではない。
「そうだっ」
草之介は背後で見物している奉公人へ振り返り、
「なあ?小僧等はまだ身体も小さいんだから餡ころ餅六つは多過ぎだろう?わしに半分、貸しとくれっ」
威張った口調で迫った。
草之介としたら若旦那の権威を振りかざしたつもりであるが、元より小僧はそんな権威などが草之介にあるとは微塵も思っていない。
「――」
小僧は玄武一家の博徒の面々の手前、まるで駄々っ子のような若旦那に小僧である自分等のほうが決まり悪さを覚えた。
「くあぁ、食べ盛りの小僧等に餡ころ餅を半分よこせとは、なんちゅう強欲な若旦那ぢゃろ」
サギは自分のコマをジャラジャラと見せびらかす。
三つずつ張ったのが二度も勝って手持ちのコマは十一枚(一枚はビリで取られたので)もある。
「サギ、やっぱり餡ころ餅を賭けたほうが良かったのに。そしたら、そのコマの数だけ餡ころ餅だったんだえ」
お花は二つずつ張ったのが最初が負けて二度目で勝って手持ちのコマは六枚だ。
「あたしゃ、たぬき会までは太りたくないから餡ころ餅があまり増えても困るわな。けど、兄さんに貸すのはイヤだわな」
お花も自分のコマをジャラジャラと見せびらかす。
「ふん、お花、お前などに借りんでも小僧か若衆か手代の誰かが貸してくれるさ。なあ?ちゃんと増やして返すから損はなかろう?」
草之介は必死の形相で奉公人の若い衆に詰め寄った。
「けど、負けたらどうなさるのでござります?」
小僧の一吉が遠慮がちに訊ねる。
「そしたら、明日にでも明後日にでも羽衣屋で餡ころ餅を買ってきて借りた分は必ず返してやるっ。それなら文句はなかろう?」
草之介はムキになって言い放った。
「そうだなあ?今晩いっぺんに六つも食べるより若旦那様に半分はお貸しして、別の日にまた餡ころ餅をいただけるほうが良いかもなあ」
「そうだね。いっぺんに六つはやっぱり多いもの。でも、明日に残すとせっかくの美味しい餡ころ餅が固くなるし」
「まだ先に餡ころ餅が三つも待ってると思うと楽しみだよっ」
「うんっ。若旦那様に餡ころ餅をお貸ししよう」
小僧の一吉、十吉、八十吉、千吉はコソコソと相談し、それぞれ餡ころ餅三つずつ草之介に貸すことにした。
「そいぢゃ、小僧さん四人から三つずつで、若旦那にコマを十二枚」
竜胆が言って、男衆がコマ十二枚を草之介の前へ差し出した。
「さすがは桔梗屋の小僧だ。頭も良く、気立ても良く、実に優秀だなっ」
草之介はご満悦で受け取ったコマをじゃらじゃらさせる。
「まあ、もう博打で借りをこしらえるなんてなあ。――番頭さん、草之介が返し忘れんようにちゃんと借りた分を付けておいておくれ」
お葉はやれやれと嘆息した。
「へい。もう、抜かりなく」
三番番頭の丸八は慣れた手付きで帳面にサラサラと書き付ける。
(むぅん、そうぢゃ。餡ころ餅はまだ明日も明後日も蜜乃家へ行けばしこたまあるかも知れんのぢゃ)
(それに、わしの財布にはお葉さんに貰ったオヤツ代がいっぱい残っておるんぢゃから自分で買うことも出来るんぢゃ)
(お庭番の八木殿の手土産に餡ころ餅をねだるという手もあるしのう)
サギはあれやこれや考えを巡らせていた。
二度も勝ってコマが倍に増えた後では餡ころ餅を賭けずに勝負するのは張り合いがないように思えてきたのだ。
「よぉしっ。わしも餡ころ餅を賭けて勝負するのぢゃっ」
サギの固い意志はあっさりと崩れた。
「それでこそサギだわなっ」
「いいぞっ」
お花も実之介も手を打ってサギの意志薄弱ぶりを称える。
「ぢゃ、次の勝負からだぜ。今まで勝ったコマ五枚は餡ころ餅とは替えないぜ」
竜胆は面倒臭そうに吐息した。
すでに中盆の役目がイヤになってきたらしい。
「そりゃ、分かっとる。わしゃ、次も勝つからええんぢゃよ」
サギは自信満々だ。
まったく負ける気がしない。
サイコロの目は四と三だ。
「うわぃ、半ぢゃ、半ぢゃあ」
「やったぁ」
「わあっ」
サギ、実之介、お枝は手を取り合って大喜びする。
「あああ」
「外れたわな」
「まあ、仕方ないわなあ」
草之介、お花、お葉はガックリと嘆息する。
チャカ、
カチャ、
チャカ、
向かい側の男衆がT字になった長い棒で負けた丁の三人のコマ六枚を掻き集めると、勝った半の三人の前へそれぞれコマが差し出された。
「あっと、いけね。言い忘れた。足して七になる出目の四三、五二、一六はビリゾロって言って、賭け銭の一部は盆を開いた座敷の貸し賃として払われる決まりなんだ」
竜胆がまた後から説明した。
「今晩の盆は桔梗屋の広間をお借りしてるので、桔梗屋の奥様に払われるって訳でござんすよ」
お竜姐さんが補足すると、男衆は勝った半のコマ六枚から三枚をお葉の前へ戻した。
桔梗屋の主は一応、長男の草之介なのだが、実権を握っているのはお葉だと誰もが思っているようだ。
「あれ、ぢゃあ、外れても出目が七なら、わたしゃ得するんだわなあ」
お葉はホクホク顔になる。
「なんぢゃ、竜胆め、早う言わんかぁ」
「勝っても七が出たら、ちょっと損するのかぁ」
「あたい、ガッカリだわな」
サギ、実之介、お枝はプンプン顔だ。
再び、
「よござんすか?よござんすか?」
お竜姐さんが片手にツボ、片手にサイコロ二個で左右へ流し目。
シュタッ、
「勝負っ」
カララン、
タンッ!
盆の上にツボが伏せらせた。
「張ったり、張ったりぃ」
竜胆、メバル、男衆が声を揃える。
「わしゃ、今度も三つだ。う~ん、半に三つ」
草之介はあくまでも三つにこだわって、半に三つ。
「あたしゃ、丁に二つ。次こそ丁だと思うわな」
お花は直感で丁に二つ。
「わたしゃ、半に三つ」
お葉は気前良く半に三つ。
「わしゃ、丁に三つぢゃ」
サギはつい草之介に張り合って丁に三つ。
「わしも丁。丁に二つだ」
実之介は師匠のサギに倣って丁に二つ。
「あれっ、あとはハンしかはれんわな?う~ん、ハンにみっつ」
五歳にして丁半博打の決まりも飲み込み、暗算も出来るお枝は半に三つ。
「丁か半かっ」
ツボが開けられた。
「ピンゾロの丁っ」
サイコロの目は一と一だ。
「うわぃ、また勝ったのぢゃっ」
「やっぱり丁だわなっ」
「やったぁ」
サギ、お花、実之介は大喜びする。
チャカ、
カチャ、
チャカ、
無情にも男衆によって負けた半のコマがT字の長い棒で掻き集められていく。
このT字の長い棒の名称が分からないので面倒臭い。
「あたい、のこりのコマみっつだけだわな」
お枝は涙目だ。
「わしなど、もう――」
草之介は早くもコマをすっからかんに使い切ってしまった。
しかし、これで潔く勝負を終えるような草之介ではない。
「そうだっ」
草之介は背後で見物している奉公人へ振り返り、
「なあ?小僧等はまだ身体も小さいんだから餡ころ餅六つは多過ぎだろう?わしに半分、貸しとくれっ」
威張った口調で迫った。
草之介としたら若旦那の権威を振りかざしたつもりであるが、元より小僧はそんな権威などが草之介にあるとは微塵も思っていない。
「――」
小僧は玄武一家の博徒の面々の手前、まるで駄々っ子のような若旦那に小僧である自分等のほうが決まり悪さを覚えた。
「くあぁ、食べ盛りの小僧等に餡ころ餅を半分よこせとは、なんちゅう強欲な若旦那ぢゃろ」
サギは自分のコマをジャラジャラと見せびらかす。
三つずつ張ったのが二度も勝って手持ちのコマは十一枚(一枚はビリで取られたので)もある。
「サギ、やっぱり餡ころ餅を賭けたほうが良かったのに。そしたら、そのコマの数だけ餡ころ餅だったんだえ」
お花は二つずつ張ったのが最初が負けて二度目で勝って手持ちのコマは六枚だ。
「あたしゃ、たぬき会までは太りたくないから餡ころ餅があまり増えても困るわな。けど、兄さんに貸すのはイヤだわな」
お花も自分のコマをジャラジャラと見せびらかす。
「ふん、お花、お前などに借りんでも小僧か若衆か手代の誰かが貸してくれるさ。なあ?ちゃんと増やして返すから損はなかろう?」
草之介は必死の形相で奉公人の若い衆に詰め寄った。
「けど、負けたらどうなさるのでござります?」
小僧の一吉が遠慮がちに訊ねる。
「そしたら、明日にでも明後日にでも羽衣屋で餡ころ餅を買ってきて借りた分は必ず返してやるっ。それなら文句はなかろう?」
草之介はムキになって言い放った。
「そうだなあ?今晩いっぺんに六つも食べるより若旦那様に半分はお貸しして、別の日にまた餡ころ餅をいただけるほうが良いかもなあ」
「そうだね。いっぺんに六つはやっぱり多いもの。でも、明日に残すとせっかくの美味しい餡ころ餅が固くなるし」
「まだ先に餡ころ餅が三つも待ってると思うと楽しみだよっ」
「うんっ。若旦那様に餡ころ餅をお貸ししよう」
小僧の一吉、十吉、八十吉、千吉はコソコソと相談し、それぞれ餡ころ餅三つずつ草之介に貸すことにした。
「そいぢゃ、小僧さん四人から三つずつで、若旦那にコマを十二枚」
竜胆が言って、男衆がコマ十二枚を草之介の前へ差し出した。
「さすがは桔梗屋の小僧だ。頭も良く、気立ても良く、実に優秀だなっ」
草之介はご満悦で受け取ったコマをじゃらじゃらさせる。
「まあ、もう博打で借りをこしらえるなんてなあ。――番頭さん、草之介が返し忘れんようにちゃんと借りた分を付けておいておくれ」
お葉はやれやれと嘆息した。
「へい。もう、抜かりなく」
三番番頭の丸八は慣れた手付きで帳面にサラサラと書き付ける。
(むぅん、そうぢゃ。餡ころ餅はまだ明日も明後日も蜜乃家へ行けばしこたまあるかも知れんのぢゃ)
(それに、わしの財布にはお葉さんに貰ったオヤツ代がいっぱい残っておるんぢゃから自分で買うことも出来るんぢゃ)
(お庭番の八木殿の手土産に餡ころ餅をねだるという手もあるしのう)
サギはあれやこれや考えを巡らせていた。
二度も勝ってコマが倍に増えた後では餡ころ餅を賭けずに勝負するのは張り合いがないように思えてきたのだ。
「よぉしっ。わしも餡ころ餅を賭けて勝負するのぢゃっ」
サギの固い意志はあっさりと崩れた。
「それでこそサギだわなっ」
「いいぞっ」
お花も実之介も手を打ってサギの意志薄弱ぶりを称える。
「ぢゃ、次の勝負からだぜ。今まで勝ったコマ五枚は餡ころ餅とは替えないぜ」
竜胆は面倒臭そうに吐息した。
すでに中盆の役目がイヤになってきたらしい。
「そりゃ、分かっとる。わしゃ、次も勝つからええんぢゃよ」
サギは自信満々だ。
まったく負ける気がしない。
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