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三十一人いる
しおりを挟む一方、その頃、
桔梗屋の広間はお仕着せの反物を選ぶ下女中五人でワイワイ、ガヤガヤ、ゲラゲラと賑やかであった。
普段は掃除をする時しか広間に上がることは許されぬ下女中であるが奥様のお葉がお仕着せを見立てる時だけは特別だ。
「わしゃ筒袖とたっつけ袴がええんぢゃ」
サギは自分のお仕着せの反物をあれこれと選んで、
カスティラを意識して筒袖は玉子色、たっつけ袴は焦茶色に決めた。
「あたいもえらぶわな」
お枝も小さいながら娘だけに反物選びには興味津々である。
「おフミにはこの桑の実色のほうが似合うとるわなあ」
お葉はあれこれと反物を手に取っては下女中の身体にあてがっている。
やはり、男衆の反物を選ぶ時よりも熱心だ。
今日の下女中五人は、お市、おフミ、お新、お七、おスエという名である。
何故、今日のかというと下女中は常時五人が働いているが、その時々で五人の面子が入れ替わり、締めて下女中は十人いるからである。
「昼ご飯の後に残りの五人も呼んでおくれ。いっぺんに決めんと同じような色柄をうっかり選んでしまうとつまらんわなあ」
衣装好みの煩いお葉は奉公人のお仕着せを選ぶにも決して妥協しない。
木綿問屋の大和屋も毎年毎年、春夏秋冬とお四季施を三十人分も誂える桔梗屋には一番番頭と手代二人が掛かりっきりで反物をコロコロと広げたり、クルクルと巻いたりを繰り返している。
四季ごとお仕着せを誂える場合はお四季施と当て字を付けたりしていた。
いつもお仕着せの反物選びにお葉は三日は掛ける。
なにしろ桔梗屋の奉公人は三十人。(サギを除く)
以下がその面々である。
乳母のおタネ、上女中のおクキ。
一番番頭の平六、二番番頭の角七、三番番頭の丸八。
手代の金太郎、銀次郎、銅三郎。
若衆の大助、中助、小助。
小僧の一吉、十吉、八十吉、千吉。
熟練の菓子職人の糖吉、砂吉、麦吉、粉吉。
菓子職人見習いの甘太。
下女中のお市、おフミ、お新、おイソ、おムサ、お七、おヤエ、おクメ、おトネ、おスエ。
そこに菓子職人見習い(自称)のサギが加わると、総勢三十一人。
三十一人いるといっても、この時代の日本橋の大店の奉公人としては少ないくらいである。
呉服商の越後屋などは番頭が二十人、手代が四十人以上、若衆、小僧の人数は不明だが、日本橋の江戸店だけで奉公人が百人は超えていたのだ。
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