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第12弾 ショウほど素敵な商売はない
How many miles to heaven? ①(天国まで何マイル?)
しおりを挟むドドーン!
まだタウンでは花火が打ち上がっていた。
バレンタインシーズンの最終日で広場は花火見物のカップルのゲストで溢れ返っている。
「ねえ?どのカップルの彼女よりもわたし達のほうがだんぜん美人じゃない?」
「ホントよね~。何で彼氏がいないのか不思議~」
スーザンとチェルシーは行き交うカップルを冷やかしながら丸太のベンチに座ってホットビールを飲んでいた。
夜のタウンには野外のワゴンでホットビールが売られている。
ホットビールには蜂蜜、シナモン、ジンジャーなどが入っていて身体がポカポカ温まるのだ。
ドドーン!
ドドーン!
花火はどんどんと盛り上がって最高潮だ。
「今頃、クララとアランも打ち上がっちゃったかしらね~」
「遅咲きのクララもようやくパアッと満開だわね~」
スーザンとチェルシーは楽観的にクララが滞りなくアランと結ばれたとばかり思っていた。
そして、
「かんぱーい♪」
ほろ酔いでご機嫌の2人はクララを祝福してホットビールで乾杯までしたのだ。
その頃、
太田はモニュメントバレーで乗馬の練習を終えるとバックステージの長い廊下をフレンチカンカンのダンスの稽古場へと進んでいた。
メラリーにお土産で貰った手作りのチーズとウインナーをバミーとバーバラにも夜食にご馳走しようと思ったのだ。
(――おや?あれはケントでは?)
前方の稽古場の前の廊下にケントの姿があった。
ダンスの稽古場の向かい側は託児所なのでケントは子守りのボランティアを終えて帰るところなのだろう。
「――」
ケントは腰高窓の下の壁に身を隠すように屈んで、窓に下がったシェードの5cmほどの隙間から中を覗いている。
(何を隠れてコソコソと?)
太田は気にせずシェードの開いている窓から中を見ると、稽古場ではアニタ、バミー、バーバラの3人が居残りレッスンをしていた。
~~♪
3人はフレンチカンカンの定番の『天国と地獄』の曲に合わせて片足の膝が鼻先に当たりそうに高々とハイキックをテンポ良く繰り返している。
アニタは豊満なFカップのバストをリズミカルに揺らし、ハイレグのレオタードの上に着けたダンス用のシースルーのスカートを振り振り、真剣な表情だ。
「――」
ケントは何か物言いたげに、もどかしげにアニタを見つめている。
(ははあ、交際無期限休止中でも欲求が抑えられず物欲しげにアニタのレオタード姿を眺めている訳ですね)
太田はそう邪推した。
何もコソコソと覗き見る必要のない太田は堂々と窓ガラス越しにバミーとバーバラに手振りでサインを送った。
差し入れの紙袋を見せて食べる真似をしてキャスト食堂の方向を指差し、オッケー?と訊ねる。
バミーとバーバラは即座に太田のジェスチャーを解し、ハイキックしながら嬉しそうに笑顔でオッケーサインを出した。
着ぐるみでショウに出ているうちにジェスチャーで意思疎通が出来るキャラクタートリオだった。
「ああもう、焦れったくて見てらんないよ」
ケントは我慢ならないようにクルッと窓に背を向けた。
「ケント、何でか怒っているようですが?」
太田はケントの表情を見て、彼が決してスケベ心でアニタのダンスを眺めていた訳ではなかったと悟った。
「ああ。俺は怒ってる。あんな踊り方、アニタらしさが全然ないじゃないかっ」
ケントは不満げに言い放つ。
「そういえば、たしかにオーディションの時のアニタはもっと伸び伸びと楽しそうに踊ってましたが」
一応、キャラクターダンサーである太田の目にも今のアニタはオーディションの時のようなコケティッシュな魅力が感じられなかった。
アニタはベティ・ブープのようにお色気があってちょっとおどけたコミカルな表情が魅力なのだ。
それが、今のアニタはとにかく死に物狂いという真剣な表情で踊っていて見ているこちらが緊張して胸苦しくなるようだった。
ラブラブだったケントと交際無期限休止してまでダンスのレッスンに打ち込んでいるのに逆効果としか思えないほど精彩をまったく欠いている。
「あんな険しい顔で踊っていたら、いくら居残りレッスンしても無駄なんだよ」
「う~ん、本人はただひたすら一生懸命なだけにどうにも――」
太田は後で夜食の時にバミーとバーバラに相談してみようと考えて、ケントをその場に残して先にキャスト食堂へと向かった。
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