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第12弾 ショウほど素敵な商売はない
uninvited cast (招かれざるキャスト)
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「――」
その場にいたショウのキャストはみな呆然として固まっていた。
(そもそもゴードンさんがちょこっとメラリーに謝って戻ってきてもらえば簡単に済むことなのに)
(余計な仕事を増やしてまでメラリーの代わりの新キャストをどこからか探して連れてくるとは)
(どこまで大人げないんですかっ)
みな、内心でこのように思って絶望的に呆れていたのだ。
そんなキャスト等のしらじらとした視線を跳ね除け、
「ホホホ、どう?みんな、ビートちゃんの美貌に見惚れて声も出ないみたいね?メラリーちゃんに引けを取らないどころか遥かに上回る美少年でしょ?ビートちゃんならメラリーファンの女子高生もイチコロよ。だいたい女子高生なんてコロッコロッと新しいものに心変わりする節操のない生き物なんだから」
ゴードンは勝ち誇り顔で高笑いし、(ほら、挨拶、挨拶)とロバートを肘で突っつく。
「ああ、ビート、よろしくな」
ロバートはガンマンキャストのリーダーとしての立場上、作り笑顔で挨拶した。
「まあ、ゴードンさんのやり口は気に入らないけど、ビートには何も罪はないんだしね」
マダムも仕方なく作り笑顔で「よろしくね」と挨拶する。
パチパチ。
2人に倣って他のキャストもおざなりに拍手したが、
「俺はしませんよ。この際、礼儀に反しても構いませんからっ」
「わたしもしないよっ」
「わたしもっ」
太田、バミー、バーバラのキャラクタートリオは断固としてメラリーの代わりなど認めない態度を示す。
「う、うう」
「ううぅ」
トムとフレディは今にも手を叩かんとばかりに両手を出したがバミーとバーバラに倣って拍手をしなかった。
彼等の立場としてはゴードンに媚びへつらっておくべきだが、それよりもバミーとバーバラに好感度を上げるほうを優先したのだ。
「さっそくビートちゃんには明日のショウから出てもらうから、これからガンマンキャストで寸劇のリハーサルよ」
ゴードンが有無を言わせず急なリハーサルを告知する。
「じゃ、ビートちゃん。コスチュームルームへ行ってドレスのフィッティングしましょ」「はいっ」とゴードンとビートはミーティングルームを出ていった。
「腹立たしいけどゴードンさんがどこからかスカウトしてきただけあってビートってコは大した美少年には違いないわね」
マダムが嘆息を漏らす。
ビートは切れ長の目の冷ややかな美貌で、可愛いメラリーとは違うタイプの美少年だった。
ゴードンは行き当たりばったりでも新キャストを発掘する嗅覚はトリュフを探し当てる豚の嗅覚並みに優れているのだ。
「――あら?そういえば、ジョーは?」
この場にいたら間違いなく発狂しているはずのジョーの姿がなかった。
「ああ、ジョーさんなら『んあ~?ミーティング~?たりぃからパス~』とか言ってキャスト控え室でダラダラしてたよな?」
「だな」
トムとフレディはすでに腹減りで早く夕飯にキャスト食堂へ行きたいと溜め息した。
一方、
ジョーはダラダラとキャスト控え室を出て、ブラブラとキャスト食堂へ向かって長い廊下を進んでいた。
角を曲がると前方のミーティングルームの扉へ入っていくピンク色のドレスがチラッと見えた。
「――っ」
ハッとしたジョーは廊下を全速力で突進した。
全開の笑顔だった。
「メ、メラリーッ。戻ってきたのか、このやろっ、このやろっ」
むんずとピンク色の袖の腕を掴んでガシッと羽交い絞めにする。
「うああっ?」
いきなり羽交い絞めにされたビートは悲鳴を上げた。
「――??」
見ればメラリーのドレスを着て、同じハニーブロンドの巻き毛のウィッグの別人。
「――誰だ?こいつ?」
ジョーは目をしばたかせた。
「――ゴードンさんが見つけてきたメラリーの代わりの新キャストですって。背格好、メラリーと似てるし、後ろ姿だけ見たらメラリーが帰って来たかと思っちゃうわよね」
慰め顔のマダムにジョーは虚無の表情だった。
「それじゃ、ガンマン・ジョーと謎のメラリーの場面からリハーサルよ。――ビートちゃん。動き、分かるわね?」
「ええ。お借りしたショウの録画を観てバッチリです」
「あらま。頼もしい」
「任せてください」
ゴードンとビートのやり取りをガンマンキャストは怪訝そうに眺めていた。
「どこから来るんだ。あの自信は?」
「物怖じしないっていうか、堂々とした感じのコね」
「ケッ。ふてぶてしい」
「だな」
ロバートもマダム、トムもフレディも新キャストのビートに油断のならない狡猾さを感じていた。
「さっ、スタート」
ゴードンがスイッチオンして音声のテープが流れる。
『ジョー。もう貴方のことで頭がいっぱい』
『俺もさ。ハニー』
ビートはヒシッとジョーに抱き付いた。
「――お前、よくも照れずにシレッと抱き付くよな?」
ジョーは憎々しげにビートを見下ろして睨み付ける。
「あの、ここ、俺、照れる場面でしたか?」
ビートはゴードンに向かって訊ねる。
「いいのよ。照れなくて。今の感じでバッチリよ」
ゴードンはビートにチヤホヤとして満面の笑みだ。
ビートは笑顔で「ですよね?」とゴードンに念を押し、(何か文句でも?)という好戦的な表情でジョーを見返す。
「チッ、衆人環視の中で臆面も無く初対面の相手に抱き付きやがってよ。やだやだ。こんなスレたガキ」
ジョーはビートの肩を邪険に突き放した。
「メラリーの奴はよ。この場面、照れまくって、何度やっても相撲のもろ差しみてぇにしか抱き付けなかったのによ――」
ジョーの目にうるうると涙が浮かんできた。
メラリーロス、略してメラロスの発作だ。
その場にいたショウのキャストはみな呆然として固まっていた。
(そもそもゴードンさんがちょこっとメラリーに謝って戻ってきてもらえば簡単に済むことなのに)
(余計な仕事を増やしてまでメラリーの代わりの新キャストをどこからか探して連れてくるとは)
(どこまで大人げないんですかっ)
みな、内心でこのように思って絶望的に呆れていたのだ。
そんなキャスト等のしらじらとした視線を跳ね除け、
「ホホホ、どう?みんな、ビートちゃんの美貌に見惚れて声も出ないみたいね?メラリーちゃんに引けを取らないどころか遥かに上回る美少年でしょ?ビートちゃんならメラリーファンの女子高生もイチコロよ。だいたい女子高生なんてコロッコロッと新しいものに心変わりする節操のない生き物なんだから」
ゴードンは勝ち誇り顔で高笑いし、(ほら、挨拶、挨拶)とロバートを肘で突っつく。
「ああ、ビート、よろしくな」
ロバートはガンマンキャストのリーダーとしての立場上、作り笑顔で挨拶した。
「まあ、ゴードンさんのやり口は気に入らないけど、ビートには何も罪はないんだしね」
マダムも仕方なく作り笑顔で「よろしくね」と挨拶する。
パチパチ。
2人に倣って他のキャストもおざなりに拍手したが、
「俺はしませんよ。この際、礼儀に反しても構いませんからっ」
「わたしもしないよっ」
「わたしもっ」
太田、バミー、バーバラのキャラクタートリオは断固としてメラリーの代わりなど認めない態度を示す。
「う、うう」
「ううぅ」
トムとフレディは今にも手を叩かんとばかりに両手を出したがバミーとバーバラに倣って拍手をしなかった。
彼等の立場としてはゴードンに媚びへつらっておくべきだが、それよりもバミーとバーバラに好感度を上げるほうを優先したのだ。
「さっそくビートちゃんには明日のショウから出てもらうから、これからガンマンキャストで寸劇のリハーサルよ」
ゴードンが有無を言わせず急なリハーサルを告知する。
「じゃ、ビートちゃん。コスチュームルームへ行ってドレスのフィッティングしましょ」「はいっ」とゴードンとビートはミーティングルームを出ていった。
「腹立たしいけどゴードンさんがどこからかスカウトしてきただけあってビートってコは大した美少年には違いないわね」
マダムが嘆息を漏らす。
ビートは切れ長の目の冷ややかな美貌で、可愛いメラリーとは違うタイプの美少年だった。
ゴードンは行き当たりばったりでも新キャストを発掘する嗅覚はトリュフを探し当てる豚の嗅覚並みに優れているのだ。
「――あら?そういえば、ジョーは?」
この場にいたら間違いなく発狂しているはずのジョーの姿がなかった。
「ああ、ジョーさんなら『んあ~?ミーティング~?たりぃからパス~』とか言ってキャスト控え室でダラダラしてたよな?」
「だな」
トムとフレディはすでに腹減りで早く夕飯にキャスト食堂へ行きたいと溜め息した。
一方、
ジョーはダラダラとキャスト控え室を出て、ブラブラとキャスト食堂へ向かって長い廊下を進んでいた。
角を曲がると前方のミーティングルームの扉へ入っていくピンク色のドレスがチラッと見えた。
「――っ」
ハッとしたジョーは廊下を全速力で突進した。
全開の笑顔だった。
「メ、メラリーッ。戻ってきたのか、このやろっ、このやろっ」
むんずとピンク色の袖の腕を掴んでガシッと羽交い絞めにする。
「うああっ?」
いきなり羽交い絞めにされたビートは悲鳴を上げた。
「――??」
見ればメラリーのドレスを着て、同じハニーブロンドの巻き毛のウィッグの別人。
「――誰だ?こいつ?」
ジョーは目をしばたかせた。
「――ゴードンさんが見つけてきたメラリーの代わりの新キャストですって。背格好、メラリーと似てるし、後ろ姿だけ見たらメラリーが帰って来たかと思っちゃうわよね」
慰め顔のマダムにジョーは虚無の表情だった。
「それじゃ、ガンマン・ジョーと謎のメラリーの場面からリハーサルよ。――ビートちゃん。動き、分かるわね?」
「ええ。お借りしたショウの録画を観てバッチリです」
「あらま。頼もしい」
「任せてください」
ゴードンとビートのやり取りをガンマンキャストは怪訝そうに眺めていた。
「どこから来るんだ。あの自信は?」
「物怖じしないっていうか、堂々とした感じのコね」
「ケッ。ふてぶてしい」
「だな」
ロバートもマダム、トムもフレディも新キャストのビートに油断のならない狡猾さを感じていた。
「さっ、スタート」
ゴードンがスイッチオンして音声のテープが流れる。
『ジョー。もう貴方のことで頭がいっぱい』
『俺もさ。ハニー』
ビートはヒシッとジョーに抱き付いた。
「――お前、よくも照れずにシレッと抱き付くよな?」
ジョーは憎々しげにビートを見下ろして睨み付ける。
「あの、ここ、俺、照れる場面でしたか?」
ビートはゴードンに向かって訊ねる。
「いいのよ。照れなくて。今の感じでバッチリよ」
ゴードンはビートにチヤホヤとして満面の笑みだ。
ビートは笑顔で「ですよね?」とゴードンに念を押し、(何か文句でも?)という好戦的な表情でジョーを見返す。
「チッ、衆人環視の中で臆面も無く初対面の相手に抱き付きやがってよ。やだやだ。こんなスレたガキ」
ジョーはビートの肩を邪険に突き放した。
「メラリーの奴はよ。この場面、照れまくって、何度やっても相撲のもろ差しみてぇにしか抱き付けなかったのによ――」
ジョーの目にうるうると涙が浮かんできた。
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