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第12弾 ショウほど素敵な商売はない
Take your grudge! (恨みをぶつけろ!)
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「こんばんは~っ」
元気いっぱいのタイガーに続いて、どこかで見た覚えのある男児が美豆里寿司の暖簾をくぐってきた。
「この度はお父さんの無鉄砲な行為で皆さんにご迷惑をお掛けしてます~」
男児はかしこまってペコリと頭を下げる。
「あ、ギリーか?しばらく見ねえうちに大きくなったな」
ジョーが思い出したように言った。
ゴードンの12歳になる息子、ギリー(義利)だ。
短気なゴードンに似ず、間延びした口調は母親のタマラ似のようだ。
背が高いのは両親譲りでタマラ似の茹で卵を剥いたようなツルリと品の良い顔立ちをしている。
「ギリーも同じ英会話教室に通ってるんだっ」
タイガーは寿司をご馳走になる気満々でカウンター席に着いた。
「ゴードンさんもロバートさんもアメリカ生活、長いから英語はペラペラだろ?」
ジョーは気前が良い男なので寿司屋のお品書きをタイガーとギリーに手渡す。
「ペラペラだってテキサス訛りだもんな。いなかっぺだと思われちゃうよ」
タイガーは自分のケータイを取り出して画像を開いた。
「ほらっ、コレ、みんなメラリーちゃんに送ったヤツ」
外食で撮った料理の画像はすべてケータイに残っていた。
「荒刃波の美味しいって評判の店はほとんど行ったんだっ」
蕎麦屋、釜飯屋、中華料理屋、天婦羅屋、焼き肉屋、お好み焼き屋等々。
ありとあらゆる荒刃波の飲食店の料理の画像を見比べる。
「う~ん、どの店もメラリーの画像の湯呑みとは違うな。――大将、次、ヤリイカと車海老、握って」
ジョーはメラリー探しにはファイト満々で捜索活動の時ばかりは食欲も湧く。
みなモリモリと寿司を頬張った。
「早矢子ちゃん、せっかく荒刃波に遊びに来たんだし、2階でカラオケでもどう?」
爺さん連中は早くも馴れ馴れしく早矢子をちゃん付けで呼び、早矢子も「喜んで」と気軽に応じた。
すぐ近くのホテルアラバハに宿泊の予約をしてあるので食べて飲んで歌ってホテルには寝に帰ればいいと言うのだ。
「俺達も一緒にカラオケしていいっ?父ちゃんにメールするから」
タイガーはロバートに、ギリーもタマラにメールして了解を得た。
どっちみちタマラは残業で家に帰ってもギリーは一人で留守番なのだ。
夜10時まで寿司屋の2階でカラオケをして、太田の車で送ってもらってタウンへと戻った。
車道から薄暗いタウンのキャスト専用の駐車場へ入っていくと、
ちょうど手前に停まっている銀色の車に向かって背の高い黒い影法師が近づいてきた。
「――」
ヨレヨレと力無く歩いているのはゴードンだった。
「ゴードンさん、残業が終わって今から帰宅らしいですね」
太田が嘆かわしげに呟く。
人前では虚勢を張ってパワフルに振る舞っていたのだろうとみなが確信したほど、目前のゴードンは連日の残業で疲れ切ってゾンビのように足取りが重たい。
「わざわざ自分で余計な仕事を増やしてるんだからよ」
ジョーは憎々しげに吐き捨てる。
何もかもゴードンが悪いのだ。
自業自得だ。
その時、
「出てきた。アイツよっ」
「せーのっ」
「メラリーちゃんを返せーーっ」
甲高い女のコ達の怒声と同時にゴードンを狙って生卵が石つぶてのように飛んできた。
ブシャ!
グシャ!
べシャ!
ブシャ!
グシャ!
べシャ!
至近距離から降り注ぐ十数個の生卵の弾丸。
「な、なにっ?きゃああっ」
ゴードンは割れた生卵でドロドロになりながら頭を抱えて内股走りしていく。
「あ、あのコ達、メラリーちゃんファンの女子高生ですよっ」
格子の柵の外側に女子高生の集団がしがみ付き、柵の間から手を伸ばして生卵を逃げるゴードンの背に向けて投げ付けている。
「あんたがメラリーちゃんを追い出したって知ってるんだからねっ。あんたが辞めろっ。クソじじいっ」
一際、目立つピンク色のワンピースを着たドスコイ体型のギャルが誰よりも張り切って生卵をゴードンにぶつけている。
「メラリーちゃんを返せーーっ」
鼻息荒く凄まじい形相だ。
「さすが追っかけファンは情報が早いな」
ジョー達は車から降りて柵の女子高生に駆け寄った。
勿論、ジョーは「でかした」と称賛するためだ。
「――」
ギリーは脇を通り過ぎなに父親の車を見て眉をひそめた。
ゴードンの車は生卵で無残にベチャベチャだ。
「キミ達の恨みつらみはもっともですが、食べ物を粗末にするのはいかがなものでしょうか?」
太田も渋い顔をした。
「食べらんない卵だもん。近所の平飼い農家でひび割れでダメになった卵を貰ってきたんだもん」
ドスコイ体型のギャルが「抜かりなし」とばかりに胸を張る。
このコがゴードン襲撃の首謀者に間違いない。
そこへ、
「こら――っ」
ゲートキーパーのロッキーが駆け付けてきた。
ゴードンは生卵まみれでセキュリティ・ゲートに逃げ込んで助けを求めたようだ。
「ヤバイ。ここは俺に任せて、お前等、逃げろっ」
ジョーが女子高生の集団を追い立てる。
「う、うんっ。待って。余った卵、投げたい」
ドスコイ体型のギャルが紙袋にまた手を突っ込んだが、
「もお、早く逃げるよっ」
「ラム、あんたは足が遅いんだから早くっ」
両側から女子高生2人がドスコイ体型のギャルの腕を掴んで慌しく駆け出す。
「ラ、ラム?」
「ということは、あのドスコイ体型のコがメラリーちゃんに手編みのセーターをくれた女のコですか――」
ジョーと太田は呆気に取られて、駆け去っていく女子高生の集団を眺めていた。
元気いっぱいのタイガーに続いて、どこかで見た覚えのある男児が美豆里寿司の暖簾をくぐってきた。
「この度はお父さんの無鉄砲な行為で皆さんにご迷惑をお掛けしてます~」
男児はかしこまってペコリと頭を下げる。
「あ、ギリーか?しばらく見ねえうちに大きくなったな」
ジョーが思い出したように言った。
ゴードンの12歳になる息子、ギリー(義利)だ。
短気なゴードンに似ず、間延びした口調は母親のタマラ似のようだ。
背が高いのは両親譲りでタマラ似の茹で卵を剥いたようなツルリと品の良い顔立ちをしている。
「ギリーも同じ英会話教室に通ってるんだっ」
タイガーは寿司をご馳走になる気満々でカウンター席に着いた。
「ゴードンさんもロバートさんもアメリカ生活、長いから英語はペラペラだろ?」
ジョーは気前が良い男なので寿司屋のお品書きをタイガーとギリーに手渡す。
「ペラペラだってテキサス訛りだもんな。いなかっぺだと思われちゃうよ」
タイガーは自分のケータイを取り出して画像を開いた。
「ほらっ、コレ、みんなメラリーちゃんに送ったヤツ」
外食で撮った料理の画像はすべてケータイに残っていた。
「荒刃波の美味しいって評判の店はほとんど行ったんだっ」
蕎麦屋、釜飯屋、中華料理屋、天婦羅屋、焼き肉屋、お好み焼き屋等々。
ありとあらゆる荒刃波の飲食店の料理の画像を見比べる。
「う~ん、どの店もメラリーの画像の湯呑みとは違うな。――大将、次、ヤリイカと車海老、握って」
ジョーはメラリー探しにはファイト満々で捜索活動の時ばかりは食欲も湧く。
みなモリモリと寿司を頬張った。
「早矢子ちゃん、せっかく荒刃波に遊びに来たんだし、2階でカラオケでもどう?」
爺さん連中は早くも馴れ馴れしく早矢子をちゃん付けで呼び、早矢子も「喜んで」と気軽に応じた。
すぐ近くのホテルアラバハに宿泊の予約をしてあるので食べて飲んで歌ってホテルには寝に帰ればいいと言うのだ。
「俺達も一緒にカラオケしていいっ?父ちゃんにメールするから」
タイガーはロバートに、ギリーもタマラにメールして了解を得た。
どっちみちタマラは残業で家に帰ってもギリーは一人で留守番なのだ。
夜10時まで寿司屋の2階でカラオケをして、太田の車で送ってもらってタウンへと戻った。
車道から薄暗いタウンのキャスト専用の駐車場へ入っていくと、
ちょうど手前に停まっている銀色の車に向かって背の高い黒い影法師が近づいてきた。
「――」
ヨレヨレと力無く歩いているのはゴードンだった。
「ゴードンさん、残業が終わって今から帰宅らしいですね」
太田が嘆かわしげに呟く。
人前では虚勢を張ってパワフルに振る舞っていたのだろうとみなが確信したほど、目前のゴードンは連日の残業で疲れ切ってゾンビのように足取りが重たい。
「わざわざ自分で余計な仕事を増やしてるんだからよ」
ジョーは憎々しげに吐き捨てる。
何もかもゴードンが悪いのだ。
自業自得だ。
その時、
「出てきた。アイツよっ」
「せーのっ」
「メラリーちゃんを返せーーっ」
甲高い女のコ達の怒声と同時にゴードンを狙って生卵が石つぶてのように飛んできた。
ブシャ!
グシャ!
べシャ!
ブシャ!
グシャ!
べシャ!
至近距離から降り注ぐ十数個の生卵の弾丸。
「な、なにっ?きゃああっ」
ゴードンは割れた生卵でドロドロになりながら頭を抱えて内股走りしていく。
「あ、あのコ達、メラリーちゃんファンの女子高生ですよっ」
格子の柵の外側に女子高生の集団がしがみ付き、柵の間から手を伸ばして生卵を逃げるゴードンの背に向けて投げ付けている。
「あんたがメラリーちゃんを追い出したって知ってるんだからねっ。あんたが辞めろっ。クソじじいっ」
一際、目立つピンク色のワンピースを着たドスコイ体型のギャルが誰よりも張り切って生卵をゴードンにぶつけている。
「メラリーちゃんを返せーーっ」
鼻息荒く凄まじい形相だ。
「さすが追っかけファンは情報が早いな」
ジョー達は車から降りて柵の女子高生に駆け寄った。
勿論、ジョーは「でかした」と称賛するためだ。
「――」
ギリーは脇を通り過ぎなに父親の車を見て眉をひそめた。
ゴードンの車は生卵で無残にベチャベチャだ。
「キミ達の恨みつらみはもっともですが、食べ物を粗末にするのはいかがなものでしょうか?」
太田も渋い顔をした。
「食べらんない卵だもん。近所の平飼い農家でひび割れでダメになった卵を貰ってきたんだもん」
ドスコイ体型のギャルが「抜かりなし」とばかりに胸を張る。
このコがゴードン襲撃の首謀者に間違いない。
そこへ、
「こら――っ」
ゲートキーパーのロッキーが駆け付けてきた。
ゴードンは生卵まみれでセキュリティ・ゲートに逃げ込んで助けを求めたようだ。
「ヤバイ。ここは俺に任せて、お前等、逃げろっ」
ジョーが女子高生の集団を追い立てる。
「う、うんっ。待って。余った卵、投げたい」
ドスコイ体型のギャルが紙袋にまた手を突っ込んだが、
「もお、早く逃げるよっ」
「ラム、あんたは足が遅いんだから早くっ」
両側から女子高生2人がドスコイ体型のギャルの腕を掴んで慌しく駆け出す。
「ラ、ラム?」
「ということは、あのドスコイ体型のコがメラリーちゃんに手編みのセーターをくれた女のコですか――」
ジョーと太田は呆気に取られて、駆け去っていく女子高生の集団を眺めていた。
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