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第12弾 ショウほど素敵な商売はない

Choose well and decide (よく選んで決めます)

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 ピロリン♪
 ピロリン♪

 ひっきりなしにジョーのケータイが鳴る。

「――またハニーからお誘いメールかよ。ま、雨キャンで暇だし、3人はアポ入れとくか?――メリッサ13時、ニコル16時、アナスタシア20時にと――」

 ジョーはどうせハニーの顔も覚えていないので先着順で3人のハニーに返信した。

「ベッドルームとバスルームの掃除しなきゃだな~」

 面倒臭がりのくせに快適なエロ活動のためには労力を惜しまない男だ。

(――こ、このぉぉ――)

 男子キャスト全員から殺意にも似た羨望の眼差しが矢のように降り注ぐが、スケコマシを極めたジョーにはかすりもしない。


(ジョーさんったら、去年3月の雨キャンでわたしに声を掛けた時もああいう手軽さだったのね)

(あんなスケコマシに誘われて部屋にのこのこ行ったなんて、わたし、頭がどうかしてたのかしら?)

 クララは迷夢から醒めてようやく正常な判断能力を取り戻していた。

 去年3月のジョーはケータイを水没させてハニーと連絡がつかなくなったのでロビーで見掛けた暇そうなクララに声を掛けただけなのだ。

 ピロリン♪
 ピロリン♪

 立て続けにハニーのお誘いメールが舞い込む。

 みな雨キャンで暇になったカンカンの踊り子だ。

「まったく今時の若い女のコときたら、貞操観念なんて通じやしないんだから」

 サンドラはリーダーとしてカンカンの踊り子の風紀の乱れを嘆く。

「ですよね?それに比べてクララちゃんなんて男のヒトと手を繋いだのも俺が初めてなんですから」

 アランは隙あらばクララの天然記念物乙女ぶりをひけらかす。

 ところが、

「――初めて?」

 メラリーが配膳台でアジフライ定食を受け取ってテーブルへ戻りしな、ピタと足を止めた。

「クララさんと手を繋いだのはアランよりも俺のほうが先だったけど~?」

 記憶力の良いメラリーはちゃんと覚えていた。

「ほら、俺がクララさんに味噌バタ―クッキーが食べたいって言って、友達になって、両手を繋いで『友達、友達~♪』ってやったじゃん」

 トレイをテーブルに置いてから両手をお遊戯のように振って再現してみせる。

(――はっ、そうだったっ)

 クララはそんなことはすっかり忘れていた。

「で、でも、メラリーちゃんなんて男のヒトじゃないもの。まだ男のコよ。ウルフくんやタイガーくんと同類の子供よ」

 嘘をついたと思われるのはイヤなので慌てて誤魔化す。

「そうだよ。メラリーちゃんのくせに。一人前いっちょまえに男のヒト扱いされると思ったら大間違いだからな」

 アランは鼻であしらう。

(――メラリーちゃんのくせに?)

 メラリーはカチンと来たが黙っていた。

 ウェスタン・ショウで女装キャラのメラリーちゃんを演じている自分は本当の自分ではないと本人が思っているのに「メラリーちゃんのくせに」呼ばわりとは。

 だが、その『メラリーちゃん』とも、もうすぐ、おさらばするのだ。


 ほどなくして、

「メラリー、お前の落書き、誰が消してきたか分かってんのか?」

「おでんが食べたくなったじゃねえかよ」

 ぶつくさと文句を言いながらヘンリーとハワードがキャスト食堂に入ってきた。

「――あれ?」

 2人は窓際のテーブルにいるスーザンとチェルシーに目を留める。

「水木、休みなのに?」

「あ、そっか。雨キャンだから来てくれたんだ?」

 ヘンリーとハワードは雨キャンで時間の空いた自分達と逢うためにスーザンとチェルシーがわざわざ休みの日にタウンへ来たのだと勘違いした。

(――おめでたい奴等――)という他のキャストの憐憫れんびんの眼差しに気付くこともなく2人はニコニコ顔でスーザンとチェルシーがいるテーブルへ向かった。


「ヤバいよ、ヤバいよ」

「う、うん」

 アランとクララは息をひそめて様子を窺う。


 中央のテーブルからは窓際のテーブルの会話は聞き取れない。

 二言三言ふたことみことのやり取りの後、すぐに4人は険悪な表情になった。

 何やら口論している。

 果たして、

「ああっ、どうせ、俺等は貧乏な騎兵隊キャストだもんなっ」

「見合いでも何でも勝手にすりゃいいだろっ」

 ヘンリーとハワードの怒鳴り声が聞こえてきた。

「ええ、するわよ。あなた達に束縛される筋合いなんかないんだから」

「すぐに怒鳴って嫉妬深くってひがみっぽい男なんて最悪」

 スーザンとチェルシーは冷淡に言い捨ててキャスト食堂を出ていった。


「あああ、やっぱりだ」

「ケンカになっちゃったわね」

 アランとクララはやれやれと顔を見合わせた。


「ちくしょう。アイツ等、見合いで好条件のイケメンがいたら乗り換えるってんだぜ」

「あんなイケメンなら誰でも見境ない尻軽女、こっちから願い下げなんだよっ」

 案の定、ヘンリーとハワードは激怒だった。

「あら、尻軽女はヒドイわよ。スーザンとチェルシーは買い物だってじっくり考えて選ぶタイプなの。慎重派で賢いだけだわ」

 クララは抗議する。

 たしかにクララも内心ではスーザンとチェルシーはイケメンなら誰でも見境ないとは思っていたのだが、他のヒトに言われると弁護したくなる。

「ああ、アイツ等、どうせ、俺等なんかじゃ安物買いの銭失いと思ったんだろうよ」

「で、見合いで安定した高収入の男をゲットしたいんだろ」

 僻みっぽいと言われても仕方ないような僻みっぽいことを言うと、

「昼飯、タウンの店で食べようぜ」

「ああ、俺等だって出逢いがあるかも知れないしな」

 ヘンリーとハワードは虚勢を張ってキャスト食堂を出ていった。

 当て付けがましくタウンでガールハントでもするつもりらしい。

 何はともあれ、このタウンのキャストには結婚運もなければ、恋愛運もなさそうだった。
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