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第12弾 ショウほど素敵な商売はない
Godmother(名付け親)
しおりを挟む一方、
キャスト食堂ではショウのキャストがまだ食後のコーヒーなどを飲みつつダラダラしていた。
「そういえばさ、カップルの追いかけっことセットでクルンクルン回るヤツもなかったっけ?」
「ああ、カップルが向かい合って両手を繋いでクルンクルン回るヤツな」
メラリーとジョーが両手を繋いでクルンクルンと回ってみるが、どうも何かちょっと違う。
「ああ、それならバッキーとバミーがステージでやっていますよ。チャッチャラ~♪」
太田がショウのバッキーのダンスをしてみせるとバミーが駆け寄って2人で両手を繋いでクルンクルンと軽やかに回った。
「お~、さすが~」
「それ、それ」
ジョーとメラリーは見事なクルンクルンに目を見張る。
「これ、着ぐるみだとガッシリと手を握らないとグローブがすっぽ抜けちゃうんで大変なんだよ~」
「素手だと楽ですね~」
太田は次はバーバラと両手を繋いでクルンクルンと回った。
「バッキーの奴、バミーやバーバラと手を繋いでも憎たらしいほど平常心だな」
「だな」
トムとフレディはまだバミーとバーバラを諦め切れないのか、太田に嫉妬心でメラメラだ。
だが、もはや3人はバッキー、バミー、バーバラというキャラクターに同化している。
馬、兎、乳牛のキャラクタートリオに恋愛設定などはなく草食動物仲間の仲良しなので中身の3人も性別を越えた友情なのだ。
「あ、そうそう、キャラクタートリオの3人、今度はカンカンと騎兵隊キャストで書類上の契約しなきゃだから、来月の面接日までにキャスト名を決めておいてちょうだいよ」
ゴードンが(また忙しいこと思い出しちゃったわ)というゲンナリ顔をしながら言った。
来月はキャストが契約更新する期間である。
ショウのキャストは1年契約なので1年ごとに次の契約の更新をするのだ。
ショウ担当のスーパーバイザー、ゴードンはショウのキャストの契約更新でいちいち一人ずつ面接して契約書を交わす。
面接ではキャストに待遇の不満やら要望やらも聞かなくてはならない。
キャストはみな3月いっぱいで契約満了するので2月は契約更新の面接で目まぐるしく忙しい。
なにしろ、ショウのキャストはガンマンキャスト、騎兵隊キャスト、先住民キャスト、カンカンの踊り子、楽団キャストと総勢150人はいるのだから。
「う~ん、キャスト名。まだ決めてなかったです。――ゴードンさん、俺の面接日、いつですか?」
太田は自分の太田邦生という本名のどこからアメリカンな名前を取り出したらいいのか頭を悩ませた。
ジョーは西平原譲で、マダム・マリーは小島麻里のように、ほぼ本名なら簡単なのだが。
「ええと、面接日のスケジュール表は――」
カタン!
ゴードンが書類を取り出す際に肘でコーヒーボトルを倒し、
「おっとっと――」
コロコロと転がるのをテーブルから落ちる寸前で受け止めた。
「あっ、そうよ。太田だからオットーはどう?」
マダムがポンと手を打つ。
「おっとっと」でピンと閃いたという安直さだが、
「オットー、貴族的で知的で芸術的な名前ですね」
太田は目を輝かせた。
オットーという名はドイツ系で高名な貴族や科学者や音楽家がいる。
「いいじゃん、オットー」
「うん。呼びやすいし~」
ジョーとメラリーも賛成したので騎兵隊キャストでの太田のキャスト名はあっさりとオットーに決まった。
バミーとバーバラはすでに前々から考えていたらしい。
「わたしは本名のみずほでホープ。『希望』って意味だよ」
「わたしは本名ののぞみでゾーイ。『命』って意味があるんだよ」
バミーとバーバラも本名とはみずほのホとのぞみのゾしか合っていない。
カンカンの踊り子は50人もいるので、だいたいの名前はすでに使われていて選択肢が少ないのだ。
「じゃあ、キャスト名は決まりでいいわね?」
ゴードンは早々と書類に「オットー、ホープ、ゾーイ」と3人のキャスト名を書き入れる。
「すぐに決まって仕事がはかどって助かるわ」
ピッ。
「ちょっと、キャロライン~?契約更新の面接日のスケジュール表がないんだけど~?」
ゴードンは忙しげにケータイで秘書の女子社員を呼び出した。
「ゴードンさん、4月のリニューアルまではバタバタで気が立っているから触らぬ神に祟りなしよ」
マダムがコソッと囁いて肩をすくめる。
「そのようですね。俺、マダムに名前を決めて貰って良かったです」
太田はホッとして、
「あ、そうだ。俺、馬はアーサーさんの乗っているガーネットを引き継ぐんですよね?もう今日から練習でガーネットに乗ってもいいですか?」
騎兵隊キャストのテーブルのアーサー(浅田史朗)に見返った。
「ああ、いいよ。俺、今週は馬当番だから練習に付き合うよ。ガーネットは消極的な馬なんでバッキーと相性がいいとは言えないけど」
いかにも爽やかなイケメンのアーサーが答える。
馬は辞める隊員が乗っていた馬を引き継ぐので自分と相性のいい馬に乗れるとは限らないのだ。
「ライダーの俺が積極的に攻めていかないとですね」
太田はグッと握り拳で気合いを入れた。
「アーサーって結婚を機に3月いっぱいで騎兵隊キャストを辞めるヒトか?」
「だな。俺等と同い年」
「しかも、お嫁さんはやっぱり結婚を機に3月いっぱいでカンカンを辞めるレイチェル(近田れいか)だよ」
「わたし達と同い年」
トムとフレディ、バミーとバーバラが分かりやすくアーサーとレイチェルについて説明する。
その時、
「まったく、呆れてものが言えないわよっ」
カンカンのリーダーのサンドラがキレ気味に怒鳴りながらキャスト食堂へ入ってきた。
「すみません、すみません。サンドラさんっ」
カンカンの踊り子がサンドラに追いすがりながら謝っている。
「あ、レイチェル?」
アーサーが何事かと立ち上がった。
「どうしたの?」
マダムはサンドラの怒り顔とレイチェルの泣き顔を交互に見やった。
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