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第12弾 ショウほど素敵な商売はない
Couple of the sprint(全力疾走するカップル)
しおりを挟むアランとクララはロバート達の丸太のベンチの隣の丸太のベンチに2人で並んで腰を下ろした。
隣と言っても丸太のベンチの間隔は5メートルくらいは広く距離がある。
「わあ、サンドイッチだっ」
アランがバスケットの蓋を開けて歓声を上げた。
ハム、たまご、トマト野菜、ローストチキンと種類も様々なサンドイッチが彩り良く詰まっている。
デザートにウサギに切ったリンゴもある。
「だって、アランはパン党でしょ?」
クララはパン好きのアランのためにサンドイッチにしたかのように答えたが、ホントは今朝、急にお弁当を作ろうと思い立ったのでサンドイッチにしただけだ。
なにしろ家はパン工場なのでサンドイッチの材料なら売るほどある。
「うんっ、美味しい~」
アランは分厚いサンドイッチを大口を開けて頬張る。
「良かった」
クララは満足げに微笑んでポットのお茶をカップにトポトポと注ぐ。
サンサンパンの工場でクララがコスト度外視で贅沢に具材を挟んで作った特製のサンドイッチなので美味しいのは当然だった。
そこへ、
「クララちゃ~ん」
先ほどからチラチラとサンドイッチを気にして見ていたカレンとウルフがパタパタと走ってきた。
弁当箱の蓋にハンバーグと太巻き寿司を2個ずつのせて持ってきている。
「サンドイッチとハンバーグとっかえっこして~」
「ぼく、のりまき~」
クララが「はい、どうぞ」とサンドイッチ4種類と取り替えると2人はまたパタパタと戻っていった。
ロバートとロッキーがこちらに向かって「クララちゃん、ご馳走さま」と笑顔でペコリとしたのでクララも遠慮がちにペコリとした。
なんだか早くも若奥さんにでもなったような気分だ。
(ああいう家族ぐるみのお付き合いにわたし達も混ざる日がもうじき来るのよね)
クララは隣の丸太のベンチでウルフとカレンが「おいしい~」とサンドイッチを頬張る姿に目を細めた。
「あっちはパパの手作り弁当かあ。うん、熟練の料理って感じする」
アランは興味深げにモグモグと味わっている。
「ん~、どっちも美味しい。料理の出来る男のヒトって素敵よね?」
ロッキーのハンバーグとロバートの太巻き寿司の腕前はかなりのものだ。
「俺、ホテルのバイトでバーテンダーやってるから分量を測って混ぜたりは得意だよ。たぶん料理もやったら出来るよ」
アランはここぞとばかりにアピールする。
「ふぅん?」
クララはすでにアランに負けず劣らず結婚願望があるのだが、そんな素振りはなるべく見せたくないのでサンドイッチを頬張りながら疑わしげな目を向けた。
「ご馳走さま。美味しかった」
アランは彩りに入れたパセリさえ「ビタミンCだから」と言って残さずに弁当をすっかり綺麗に平らげた。
「あ~、やっと初めてカップルらしいことしたよね?でも、まだ足りない。何かもっとカップルらしいことしたい」
アランはそう言ってカップルらしいことを探すかのように辺りをキョロキョロした。
「カップルらしいことって?」
クララは膝の上でバスケットの蓋を閉じて横に置く。
「う~ん」
アランはしばし考えを巡らせた。
クララはラブストーリーのようなシチュエーションに憧れている夢見る乙女なのだ。
ラブストーリーのような。
「あ、2人で芝生をキャッキャと笑いながら追いかけっこして、ゴールの大きな木の下で『ほら、掴まえた』って言ってkissするとか?」
いつかどこかで観たラブストーリーの一場面が思い浮かんだ。
真っ昼間に青空の下でカップルが広々とした草原ですることといえば、それ以外にないではないか。
お誂え向きに50メートルくらい先に大きな樫の木もある。
「いいわね。それ、やってみたかったの」
クララはさっそく丸太のベンチから立ち上がるとスイーツ・ワゴンのコスチュームのドレスの裾を摘まみ上げ、
「じゃあ、アランが追いかけるのよ」と振り向き様に言って、身を翻して颯爽と駆け出した。
「わっ、クララちゃん、足、速いっ」
アランは思いの外、クララがものすごく速く駆けていくので急いで追いかけた。
たぶん、ラブストーリーにおけるカップルの戯れの追いかけっこはこんな全力疾走じゃないはずだ。
それでも青空の下で駆け回るとテンションが爆上がりしてクララとアランは「早く、早く、こっちよ~」「お~い、待て~」などと言ってキャッキャと笑いながら追いかけっこした。
「お~、ホントに草っぱらで笑いながら追いかけっこするカップルっているんだ?」
「実際に見たのは初めてです」
「ホント、あの2人、お似合いだよね~」
ジョー、太田、メラリー、その他大勢のキャストはキャスト食堂の窓ガラス越しに外の芝生をキャッキャと笑いながら追いかけっこするカップルを物珍しげに眺めていた。
そして、
「クララちゃん、つ、掴まえた~」
「ああ~」
ついに追いかけっこのカップルは大きな樫の木を何周も回ってゴールへと。
「はあ、はあ、ダ、ダメだ。息が切れて――」
「はあ、はあ、ホ、ホントね――」
アランとクララは肩で大きく息をしながら樫の木の根元に倒れ込んだ。
いつかどこかで観たラブストーリーのように大きな木の下でkissするどころではなかった。
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