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第12弾 ショウほど素敵な商売はない
Please do not send me away from a dream (わたしを夢から追い払わないで)
しおりを挟む「アンさんとリンダさんはサルーンのディナーショウが終わって着替えてらして、あと10分くらい掛かるそうなんです」
パティはチラッと壁の時計に目を向ける。
「そうなのね。わたし、家に帰っても暇だから付き合おうかしら?」
クララはさりげなく言ってみた。
「わあ、クララさんが一緒なら心強いです」
パティはハニーの大先輩2人に自分1人では緊張してドキドキだったようでクララが同席するのを喜んで歓迎した。
さっそくキャスト食堂でコーヒーを淹れてきたクララはソファーに腰を下ろしながら、「――あら?」と横のパティの胸元に目を留めた。
パティの胸は以前の上げ底ブラにも増して高く盛り上がっているではないか。
「あ、これ、エステのバストアップコースで勧められた補正ブラを着けてるんです。――ほら、見て下さい」
パティはニットの襟元を引っ張ってクララに中を覗かせた。
「うふふ、谷間です」
パティの胸に8㎝はあろうかという深い谷間が出来ている。
「す、すごぉい」
クララは羨望の眼差しだ。
「エステティシャンさんが背中や脇の上下左右から力いっぱい脂肪をムギュ~ッて前に集めてカップの中に詰め込んだら、こんなに胸に脂肪が集まっちゃうんです」
パティはソファーに座ったまま上下に弾んでみせる。
「うふふ、Dカップあるんです」
胸がユッサユッサと揺れる、揺れる。
「す、すごいわ。その補正ブラってお幾らなの?」
クララは前のめりで訊ねる。
エステのバストアップコースの25万円は無理でも補正ブラを買うだけならと藁にもすがる気持ちなのだ。
「え~と、8万8千円でした」
パティはどうせ親がすべての費用を出してくれるので金額など気にするでもなくケロッと答える。
(やっぱり、ぼったくり価格だわ)
クララはガックリとうなだれた。
8万8千円などとても出せない。
だいたいヒトのコンプレックスに付け込む商品というのはぼったくり価格と相場が決まっているのだ。
「あと、これ、バストアップコースで勧められたクリームです。塗り続けるとバストトップがベビーピンクになるというクリームなんです」
パティはバッグから小さな箱を取り出す。
「アンさんとリンダさんがおっしゃるにはジョーさんのハニーのカンカンの皆さんが愛用してるんですって」
たったの45g入りの小さな瓶で価格は3万円だという。
(なんですって?バストトップがベビーピンクになるクリームをハニーの皆さんが愛用――)
クララはクラクラした。
さらに、追い討ちを掛けるように、
「それと、こればかりはわたしもとても真似する勇気はないんですけど――」
パティはコソッと声を潜めて、
「カンカンの皆さん、ハイジニーナというデリケートゾーンの脱毛してらしてツルツルなんだそうです――」
頬を赤らめてモジモジして言い放った。
「――」
クララはぐうの音も出ない。
カンカンの踊り子にとってはハイレグのコスチュームでも気にせず大胆に激しいハイキックが出来るようにハイジニーナは必要不可欠なのだろうが、
そこまで徹底的にお手入れしているグラマー美女にとても太刀打ちなど出来やしない。
(わたしだって、それなりに肌や髪のお手入れはきちんとしてオシャレだって頑張っていたけど――)
上には上、ヒトには限度というものがあるのだ。
そこへ、
「お待たせ~」
アンとリンダが廊下を曲がってロビーに現れた。
2人はディナーショウの後でバックステージの大浴場でひとっ風呂浴びてきたのでTシャツに短パンというラフな格好で湯上がりのすっぴんだ。
(――すっぴんでもビックリするほど綺麗だわ)
クララは唖然としてアンとリンダを見つめた。
肌が茹で卵のように白くツヤツヤしている。
2人のすっぴんを見たのは初めてだった。
ボン、キュッ、ボンのナイスバディにすっぴんでも綺麗な顔がくっ付いているなんて贅沢過ぎる。
しかも、アンとリンダは男をホイホイとおびき寄せるような色香をムンムンと漂わせているのだ。
(ジョーさんのハニーに対する認識が甘過ぎたわ)
こんなパーフェクト・ボディの2人がジョーのハニーだというのに、ジョーの彼女になりたいと思っていた自分はなんと身の程知らずだったのか。
夢見る乙女のクララはいきなりバシバシと容赦ない往復ビンタを食らって夢から醒めさせられた気がした。
ハニーの心得を訊くまでもなくギブアップだ。
「じゃ、さっそくお願いします」
パティはメモ帳を開いてボールペンを手に取る。
「そうねぇ」
「まずは――」
アンとリンダは美肌のためを考えてハトムギ茶を飲んでいる。
(そういえば、2人は普段の食生活からして意識が高いんだわ)
クララは自分にハニーの心得などは関係ないとは思いつつもアンとリンダの言葉に注意深く耳を傾けた。
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