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第12弾 ショウほど素敵な商売はない

Cowardly man (ふがいない男)

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「だって、マーティは鶏そぼろと炒り卵の三色弁当が大好きだから毎日でも飽きないって、永遠に食べられるって言ったわ」

 エマは不本意そうに言い返す。

「マーティはむちゃくちゃ我慢強いんだよっ。けど、毎日毎日、不味そうに同じ弁当を食べるところ見てたらこっちまでご飯が不味くなるんだからっ」

 メラリーは八つ当たりのように喚く。

「――メラリー、お前、何をっ」

 マーティはカッと逆上して、メラリーに殴り掛かろうとする。

「よせっ。マーティ、メラリーには手を出すなっ」

「ジョーさんにぶっ殺されるぜっ」

 ヘンリーとハワードが両側からマーティの腕を掴んで引き止めた。


「や~~ん」

「なんかBL妄想しちゃう場面なんだけど~」

 腐女子のデボラとダイアナはまったく空気を読まずに身悶えして奇声を上げた。


「嘘、言うなよっ、メラリー。俺がいつ不味そうに弁当を食べてた?不味そうになんか食べてないだろっ?なっ?」

 マーティは両腕を掴まれたまま首を左右へ振ってヘンリーとハワードに同意を求める。

「う~ん、そうだな。黙々と無表情?」

「なんか修行のように無の境地で弁当を食べてたような?」

 ヘンリーとハワードは率直に答えた。


「……」

 エマは怒ったような情けないような目でマーティを見つめている。

「とにかく、俺は三色弁当がホントに大好きだし、何も不満なんかないからっ」

 マーティは力強く言い切る。

「――いいわ、もう――」

 エマは諦めたようにマーティに背を向けて、野外ステージのゲートを出て、隣の乗馬クラブのクラブハウスへ足早に入っていった。


「なんか、すみません。メラリーの奴」

 ジョーがダンに謝る。

 自分の娘に失礼なことを言われたらダンもさぞや不快だろうと思ったが、

「いや、いいんだ」

 ダンは温かい眼差しでメラリーに頷いた。

「ほら、ダンさんはちっとも気にしてないって。ジョーさんが謝ることないじゃん。さっ、祝勝会、祝勝会~」

 メラリーは言いたいことを言ってせいせいした顔で、みなの背を押すようにして地下通路を進んでいった。

 タウンのメインストリートの端っこにある酒場『アパッチ砦』ではインディアン料理がみなを待っているのだ。


 一方、

 乗馬クラブのクラブハウスでは、

「――まったく、マーティったら、メラリーちゃんの爪の垢でも煎じて飲ませてやりたいくらいよ」

 エマが母親の陽子に先ほどの一件を話して聞かせて大きく溜め息をついた。

「とっくに気付いてたわよ。エマ、あなたが毎日毎日、わざとマーティに同じお弁当を作ってたこと」

 陽子はベビーカーの赤ん坊のマットをあやしながら、やれやれと首を振る。

「だって、マーティったら、わたしに気兼ねして何も文句一つ言わないんだものっ」

 エマは腹立たしげにマルゲリータのピッツァをモリモリと口に放り込む。

「わたし、マーティが自分でイヤだと言わない限り、5年だって10年だって毎日毎日、三色弁当を作ってやるつもりよっ」

 たしかにエマはレパートリーが三色弁当だけの料理下手だが、それでも、マーティがイヤだと言えば翌日からでも焼き鮭にウインナーのオカズの海苔弁に変えるつもりだったのだ。

「それなのに――」

 Lサイズのピッツァをムシャクシャと一人でペロッと平らげる。

 エマの20㎏増の過食はふがいないマーティへの不満によるストレスのせいかも知れなかった。


 その頃、

『アパッチ砦』では、

「実は、わたしも女房もエマが毎日毎日、マーティにわざと同じ弁当を作っていることには気付いていたんだが――」

 ダンが申し訳なさげに口を開いた。

「しかし、わたし等の娘といっても、エマはもうマーティの妻だ。エマに注意するのは夫であるマーティの役目だろうと黙って見ていたんだよ」

 いくらマーティが入り婿とはいえ、両親が娘夫婦のことにでしゃばるべきではないという昔気質のダンらしい考えだった。

「ご心配お掛けしてすみません――」

 マーティは神妙な表情でダンにペコリとして一人離れてカウンター席の端っこに座った。


「ふうん、マーティも騎兵隊のリーダーとしては頼もしくなってきたと思ったのにな」

「仕事もプライベートもどっちも頼もしくって訳にはいかないもんだな」

 ヘンリーとハワードはチラッとマーティに目を向けた。

「……」

 マーティはカウンター席でうなだれている。

 エマがわざと同じ弁当を作り続けていたなんてダンから聞かされるまで考えもしなかった。

 マーティは素直にエマは料理下手で三色弁当しか作れない不器用なのだと諦めていた。

 そのほうがエマにしてみれば無能と見なされてよっぽど侮辱的だというのに。

「――はぁ~」

 マーティは深く嘆息した。

(俺はホントにホントのボンクラだ――)

 昨夜から自己嫌悪の連続だった。


「ん~、ナバホシチュー、なんか素朴だけど癖になる味~。コーンパン、香ばしい~。インディアン・プディングはバニラアイスとの相性が絶妙~」

 メラリーはテーブル席で平然とインディアン料理を貪っている。

「メラリー、お前が乗馬の練習する時はいつもマーティがサドリングしてくれたのによ。もう二度とやってくれねえぜ」

 ジョーはサラダのアボカド・ディップを食べながら横目でメラリーを睨み付ける。

「いいよ。もうサドリングなんかマーティにも誰にもやって貰わないし~」

 メラリーはケロッとして気にしない。

 もう、このタウンで誰に嫌われたって関係ないんだからと思っていた。
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