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第12弾 ショウほど素敵な商売はない
I tame a complaining woman (わたしはじゃじゃ馬を馴らします)
しおりを挟む「――何で?何でメラリーちゃんとジョーさんが後ろに隠れちゃったの?」
クララは誰に訊ねるでもなくキョロキョロした。
いくら最前列でも観客席からは曲走路の内側に集まって見物しているキャストの会話は聞こえないので訳が分からなかった。
太田の応援に来たのは口実で実際はジョーを見るために来ているクララなのだからジョーの姿が見えなくなっては困るのだ。
「ああ、バッキーの引いてきた馬はジョーさんがショウで乗ってるダイヤって馬なんだけど、メラリーちゃんのことが大嫌いなんだよ」
「ダイヤがメラリーちゃんに気付くと機嫌が悪くなって暴れるから隠れたんじゃないかな」
「ジョーさんも隠れたのはダイヤはジョーさんが大好きだから」
「ダイヤはジョーさんを見つけたら後を追い掛けちゃうんだよ」
バミーとバーバラがそう説明した。
「そうなのね」
(メラリーちゃんのことが大嫌いで、ジョーさんのことは大好きで後を追い掛けてしまうなんて、まるで、わたしみたいだわ――)
クララには馬のダイヤがとても他人とは思えなかった。
(そもそも馬だから他人じゃないけど)
(けど、ダイヤはショウではジョーさんの大事なパートナーなんだし)
(わたしなんてジョーさんにとって何でもないんだから――)
馬のダイヤ以下の無用の存在。
クララは馬にさえ負けているのだと思った。
「8番スタート!」
順々に候補者が出走していく。
「あ~、どんどんバッキーの順番が近づいていく」
「バッキーの奴、スタートでいきなり落馬したらどうするよ?」
「騎兵隊キャストはみんなバッキーに票を入れるつもりだろうけど、さすがに落馬した奴が合格したら他の候補者から大ブーイングだよな」
先住民キャストは為す術もなく、ただジリジリと気を揉んでいる。
ダイヤはジョー以外の人間が乗れば暴れまくってロデオ大会のブル・ライディング(暴れ牛に乗る競技)状態になるような馬なのだから。
「ねえ?バッキーが不合格でも『アパッチ砦』で残念会するんだよね?」
メラリーは早くも太田がスタートで落馬するものと決め込んだ。
べつに祝勝会が残念会になってもインディアン料理さえ食べられたらいいという口振りだ。
「ああ、うちの店を貸し切りで予約したんだからキャンセルなんかさせねえからな」
レッドストンが厳しく言い渡す。
「ねえねえ?レッドストン、ナバホシチューは?ちゃんと美味しく作ってある~?」
メラリーは「ねえねえ?」でレッドストンの羽根飾りの垂れ下がった先っぽを掴んで神社の拝殿の本坪鈴のように左右にジャラジャラと振った。
「――ちゃんと美味しく作ってあるぜ」
淡々として答えながらもレッドストンのこめかみにピクピクと青筋が立った。
「メラリーってホント恐れ知らずだよな」
「レッドストンにもタメ口で、あのエラソーな態度」
「ホント、計り知れない奴」
先住民キャストは呆れた口調でも実のところロデオ大会のブル・ライディングで初出場のメラリーが優勝して以来、メラリーには一目置いていた。
「ダンさん?どうっすかね?バッキーは」
ジョーは思案顔で先住民キャストの足の間からダンを見上げる。
「う~ん、バッキーとダイヤの相性はこの上なく良いはずなんだ」
ダンは語気を強めて続けた。
「よく気性の穏やかなライダーには気性の荒い馬。逆に気性の荒いライダーには気性の穏やかな馬が最適な相性と言われるからね。同じ性質のライダーと馬の組み合わせではどうにもならないんだ」
前述のとおり、ウェスタン馬術では馬がライダーに支配されずに自分で考えて動くように調教されているので馬の自由度が高い。
要するに馬の気分次第なのだ。
「ああ、だから、メラリーの乗る馬にはおとなしいパールって訳だな」
ジョーが横のメラリーを見返る。
「うひゃひゃっ、それじゃダイヤに乗ってるジョーさんの気性が穏やかみたいじゃん?」
メラリーは笑い飛ばす。
「お前にそういう口の聞き方を許しているくらいジョーの奴は気性が穏やかなんだよ――」
レッドストンがボソッと呟く。
本来なら生意気なメラリーにボカッと鉄拳を食らわせてやりたいのだが、ジョーよりも器の小さい男には見られたくなくてレッドストンはこめかみに青筋を立てながら辛抱しているのだ。
一方、
「12番スタート!」
「13番スタート!」
太田の順番が刻々と迫っていた。
「ダイヤ~?曲走路をたった3周するだけですから~。実技審査が終わったらジョーさんがいくらでも遊び相手になってくれますからね~」
太田は馬のダイヤに通じると信じて言葉を掛け続けている。
「14番スタート!」
いよいよ次だ。
「たった3周ですよ~。スタートでキミがなかなか走り出さないと時間を無駄にしてジョーさんと遊ぶ時間が遅くなるだけですからね~」
内心の焦りを隠してダイヤを押さえ込むように馬の首に両腕を回して馬の耳元で囁き続ける。
やっぱり、ウェスタンのブロンコ(野生馬)で賢いダイヤは太田の言葉を理解したかのように落ち着いてきた。
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