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第12弾 ショウほど素敵な商売はない

Higgledy-Piggledy (てんやわんや)

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 幸いにも候補者は自分達が引く馬のザカザカした足音がうるさくてマーティの声は聞こえていなかったようだ。

(どうやら俺が馬のゴールドをトパーズと見違えたことは候補者にはバレずに済んだみたいだな)

 マーティはホッと胸を撫で下ろす。


「マーティらしくないミスだな」

「緊張してるんじゃないか?」

「騎兵隊のリーダーになって初めてのオーディションだものね」

 ダンとロバートとマダムにはバレていたようだ。


 見物のキャストはみな太田はどの馬を選んだかとワクワクして見守る中、ようやく候補者の最後尾で馬を引いた太田が野外ステージへ入ってきた。

「――ぁあ?バッキーの奴、よりによってダイヤを引いてきたぜっ?」

「何でっ?」

「よっぽどジャンケンが弱いのかっ?」

 みな「まさか」とどよめく。

 ロデオ大会の練習で暴れ馬ダイヤの暴れっぷりは存分に知っているはずの太田が何でわざわざダイヤなのか。

「きっとバッキーのことだから男気を発揮したんだろうな」

 ダンが仕方なさそうに苦笑する。

「あっ、マズイ。ダイヤに気付かれねえうちにメラリーを隠せっ」

「――え?うわ――っ」

 ジョーがメラリーを先住民キャストの背後に押し込む。

「そうか」

「大嫌いなメラリーを見たらダイヤの機嫌が悪くなるからな」

 先住民キャストは壁のようにメラリーを取り囲んで隠した。

「何だよ。馬なんか他にもいるじゃん。ダイヤなんか実技審査の馬から外せばいいじゃん」

 メラリーはプンプンと文句を言う。

「へっ、先住民の馬は騎兵隊オーディションになんざ貸さねえよ」

 レッドストンが邪険に突っぱねる。

 先住民キャストのリーダー、レッドストンの「貸さねえよ」の一言でまかり通るとは、「ショウ担当のスーパーバイザーとしてゴードンさんはそれでいいのか?」とみなが思ったが、

「いいのよ。だって、毎年、暴れるダイヤに悪戦苦闘する候補者を観るのって楽しいわよね~?」

 ゴードンはそういう男だった。

 候補者の乗馬歴は書類選考で分かっているし、どうせルックス重視のゴードンなので実技審査など二の次、三の次なのだ。


「実技審査では1頭ずつ5メートルの間隔を空けてスタートして曲走路を3周していただきます。コースは内枠で、前の馬との間隔を常に保って下さい」

 マーティが説明する。

 スピードを競うレースではないので、いかに列を乱さず整然と美しいライディングが出来るかの審査である。

「出走順はくじ引きで決めていただきます」

 ヘンリーとハワードが持った箱の中から候補者が次々と番号札を引いていく。

「――あ、15番。最後か~」

 太田は不安げに眉根を寄せた。

 出走が一番最後では順番待ちでダイヤのご機嫌が持つか心配だった。

 それでなくても気性が荒く、興奮しやすいダイヤなのだ。


 やがて、

「1番スタート!」

 ゴードンの号令で最初の1番がスタートした。

「2番スタート!」

「3番スタート!」

 5メートルの間隔を空けて、順々に候補者の馬が出走していく。

 競馬と違ってスタートの合図で候補者が騎乗して走り出す形式だ。


 今のところダイヤは太田との約束を覚えているのかおとなしい。

 しかし、

 野外ステージのグラウンドには競馬場と違って内枠に柵などない。

 柵に沿って走らせることが出来ないのでダイヤが曲走路のコースどおりに走ってくれるとは限らない。

 その時、

 ふいにダイヤが回れ右して曲走路の内側へ行こうとした。

「――あ、ダイヤ?どうしたんです?」

 太田は慌ててレイン(手綱)を引っ張ってダイヤを押さえる。

(――ダイヤ、何で急にそっちへ?――ああっ?ジョーさんっ?)

 ダイヤは大好きなジョーが曲走路の内側で見物していることに気付いてしまったのだ。

 馬は横を向かなくても視野が広いので真後ろ以外の350度が見渡せる。

 それに馬は意外にも犬より視力が良いのだ。

(マ、マズイ)

 太田はジョーの姿が見えないように素早くダイヤの顔の横に立って視界を遮った。


「ジョー、ダイヤに気付かれたらマズイのはお前もじゃねえかよ。隠れろっ」

「え、えっ?」

 レッドストンがジョーも先住民キャストの背後に押し込む。


 ブルルッ。

 ダイヤは自分の視界を遮った太田を「あんた、邪魔っ」とばかりに鼻先で追い払い、ますます内側へ行こうとする。

 今のダイヤの気持ちを人間の言葉にするなら「ああ?今、ジョーちゃんがレッドストンの横にいたのに?どこ行った?たしかにジョーちゃんよ。わたしはマーティみたいなボンクラと違って自分の相方は見違えないわよ。ちょっと、ジョーちゃん探しに行くんだから、レインを放しなさいよ。ホントうっざいわっ」というところだろう。

 馬は聴力が高いのでダイヤにはマーティの間違いが聞こえたに違いない。

「ダイヤ~、お願いですから~」

 太田は必死にレインを引っ張ってダイヤを押さえる。


「う~ん、こういう事態は想定してなかったな」

 ダンが渋い顔をする。

「ジョーが騎兵隊オーディションの実技審査を見物に来たの初めてだものね」

 マダムも困り顔だ。

「ジョーは女のコならマネキンだろうが馬だろうがガッチリとハートを掴んじまう野郎だからな」

 ロバートはやれやれと嘆息した。


「え~?ダイヤが暴れたら俺のせいみたいじゃんかよ~」

「ジョーさんまで入ってきたから狭い~」

 ジョーとメラリーは壁のような先住民キャストの背中に取り囲まれた中で屈み込み、みなの足と足の間から実技審査を見守るハメになった。
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