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第12弾 ショウほど素敵な商売はない
Fair play mind (フェアプレー精神)
しおりを挟むついに日曜日。
泣いても笑っても最後の騎兵隊オーディションの実技審査の日がやってきた。
「乗馬の実技だから野外ステージでやるんだね。寒いけど早めに行って最前列の席を取っとこう」
「バッキーは雨キャンの日も風キャンの日も苦楽を共にしたキャラクタートリオだもんね」
バミーとバーバラは仲間のバッキーの太田を応援するために張り切っている。
「雨キャンの日も風キャンの日も」ってショウが中止でダラダラとミーティングという名の無駄話をしている日では?と思うが、この際、気にしない。
2人は仕事が終わってから来るクララ、アニタ、スーザン、チェルシーの席も確保しておく。
一方、
(オーディションは6時半だから余裕で間に合うわね)
クララはスイーツ・ワゴンの仕事を終えると着替えを済ませて、念入りにナチュラルメイクをチェックして地下通路から野外ステージへ向かった。
そこへ、
「あれ?クララ~」
「久しぶり~」
デボラとダイアナが前方から歩いてきた。
「2人とも珍しい~」
アメリカン・パイの店のデボラとキャラクターショップのダイアナとは久々の再会だった。
クララは昼休憩もオヤツ休憩も他のタウンの女のコ達とは時間がズレるので雨キャンの日くらいしか逢わなかったのだ。
「わたし達、去年10月から土日しかバイトしてないんで余計に逢えなかったのよね」
「平日は洋裁の専門学校に通ってるんだ」
デボラとダイアナが近況報告をする。
2人はショウのコスチューム担当のタマラが率いるコスチュームルームで働きたいという目標が出来たのだという。
コスチュームルームはバイトの採用にもミシンの実技試験があるのだ。
「へえ、そうだったの」
クララは感心した。
デボラとダイアナは腐女子でBLが好きということくらいしか知らなかった。
クララは可愛いヒロインとモテモテのイケメンの王道ラブストーリーが好きなので2人とはあまり趣味は合わない。
「クララ、今頃、どこ行くの?」
「野外ステージ。騎兵隊オーディションの応援よ」
「へえ、そーいや、騎兵隊のアランと付き合ってるんだもんね」
「でも、オーディションは誰でも見物していいのよ。これからアニタもスーザンもチェルシーも来るんだから、2人も観に来ない?」
「ホント?観たいよね?」
「うん。じゃ、着替えてからすぐ行くねっ」
クララの誘いにデボラとダイアナは嬉々としてコスチュームのドレスの裾を捲って地下通路をバックステージへ駆けていった。
クララが地下通路の出入り口を出ると、野外ステージのゲート前には地元の女子高生の集団がたむろしていた。
(――あ?あのコ達、ジョーさんのファンだわ)
クララはなんとなく敵視して睨んでしまう。
「ねえ~?わたし達も騎兵隊オーディション観たいんですけど~」
「ダメですか~?」
女子高生の集団はショウの常連客なので顔馴染みのゲートの保安官キャストにしつこくねだっている。
どこから嗅ぎ付けてくるのか年パスの常連客はホントにタウンの情報に通じているのだ。
「あら、いいわよ」
ゴードンは保安官キャストから女子高生の集団のおねだりを訊くと一般のゲストの見物まで気軽に許可した。
(――え?ガラガラ?)
クララが野外ステージに入ると観客席はスカスカに空いていた。
ショウのキャストで50人いるカンカンの踊り子は誰も見物に来てやしない。
おそらく「平均身長180㎝以上のイケメン揃い」が売り文句の騎兵隊キャストなのに面接審査で最終選考に残った候補者のショボさに女のコ達は落胆してオーディションに興味が失せたのだろう。
こんなにも観客席がスカスカだからゴードンも景気付けに女子高生の集団の見物を許可したに違いなかった。
「クララちゃん」
「こっち~」
バミーとバーバラが手招きするステージ右側の最前列の席にクララも座った。
「まだ、わたし達だけ?――あ、女子高生の集団も入ってきた」
クララは振り向いてイヤそうな顔をする。
「あ、いつもショウを観に来てくれるコ達だ」
「ダメだよ。キャラクターのつもりで常連さんに手を振ったら」
このジャージの上下の2人がショウのキャラクターのバミーとバーバラの中身だとは女子高生は気付きもしないだろうが、「来てくれる」「常連さん」という言い方にクララはちょっと感動した。
(バミーとバーバラは腹黒いわたしとは正反対なのよね)
腹に一物も何もない純心な2人が羨ましい。
女子高生の集団はクララ達とは5席分ほどの間隔を空けて同じステージ右側の最前列に座った。
観客席はガラガラで右側でも正面でも左側でも最前列に座れるが、女子高生の集団はショウの常連客なので騎兵隊は右側から出走すると知っているのだ。
そのうちにアニタ、スーザン、チェルシー、デボラ、ダイアナが揃って野外ステージにやってきた。
「最前列に1列だとおしゃべりしづらいから2列で座ろっか?」
「そうね~」
アニタはクララの隣に、他の4人は後ろの列に座った。
その頃、
モニュメント・バレーには実技審査を受ける候補者15人が集まっていた。
勿論、15人の中には太田の姿も見える。
騎兵隊キャストのリーダーであるマーティが事前の説明をする。
「実技審査では馬との相性がライディングを左右しますので、馬は候補者に自分で選んでいただきます。選んだ馬が2人以上でかち合った場合はじゃんけんで決めて下さい」
マーティは深夜に慚愧に堪えない悪夢で目覚めてから二度寝しようにも寝付けなかったので寝不足だ。
「はいっ」
候補者15人は気合いを込めた返事をすると我先にと馬屋へ向かう。
(――ええと、おとなしくて扱いやすい馬はパールとシルバーとゴールドと――)
太田は馬屋の手前でハタと足を止めた。
(――ハッ、前もって騎兵隊の馬の性質を知っているだけでも有利なのでは――?)
特訓でも「俺だけ騎兵隊の馬に慣れているなんてズルイですから」「オーディションでは他の候補者と同じ条件でなければ」「正々堂々、勝負しますっ」と豪語して騎兵隊の馬には決して乗らなかった太田なのだ。
(そうだ。俺は一番最後の馬を選ぼうっ)
これぞフェアプレー精神。
太田は乗馬の師であるダンの「よく言った。それでこそ男だっ」という声が聞こえたような気がした。
(はいいっ。男ですからっ)
心の中で力強く答える。
無駄に熱く、無駄に正義感の塊の男なのだ。
他の候補者14人は何人かが同じ馬を選んでじゃんけんで白熱していたが、ようやく各々の馬が決まり、自分でサドリングして次々と馬を引いて馬屋を出ていく。
残った馬は1頭だけ。
栗毛で鼻筋の白い毛がトランプのダイヤ型になっている馬といえば――。
(――うっ?――ダ、ダイヤ――?)
やっぱり、残っていたのは騎兵隊の馬で一番、気性の荒い暴れ馬ダイヤだった。
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