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第11弾 夕陽に向かって走れ

There go the fireworks!(花火が上がったよ!)

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 一方、

 タウンのモニュメント・バレーにあるフロンティア砦の騎兵隊の詰め所では、

「さすがクララちゃん、鋼鉄の処女だな」

「護身術まで身に付けてるとは恐るべし」

「鼻血、止まった?」

 ヘンリー、ハワード、マーティがアランの愚痴を訊きながら鼻血の手当てをしてやっていた。

 馬当番は騎兵隊の兵舎に泊まり込みなのだ。


「あ、それはそうと、ヘンリーとハワードは馬当番じゃないだろ?」

 マーティが「何でいるんだ?」という口調で言う。

 やかましく言わないと兵舎は騎兵隊キャストがダラダラと食っちゃ寝する簡易宿泊所と化してしまうのだ。

「ああ、今日はスーザンが遅番で9時までだからさ」

「そう、チェルシーも遅番でさ。一緒にタウンの花火を見ようってことになってな」

 ヘンリーとハワードはニマニマとやに下がる。

 タウンでは毎晩毎晩、夜9時に花火が上がるので見飽きたキャストはドドンと鳴っても見上げもしないが、まだ交際期間1ヶ月のホヤホヤのカップルで眺めるとなると別なのだろう。

「そろそろ行こうぜ」

「お、もう15分前か」

 2人は鏡の前でハットを被って、騎兵隊コスチュームのマントをひるがえし、躍り足で詰め所を出ていった。

(ヘンリーさんもハワードさんも彼女とラブラブなんだな~)

 アランは(何で俺だけがこんな目に)と鼻に詰めたティッシュをフワフワさせて嘆息した。

 プルル♪

 アランのケータイが鳴る。

「お、クララちゃんが謝ってきたか?」

 マーティはそう思ったが、

 クララはアランのケータイの番号さえ知らないのだ。

「――あ?ミーナさん?え?俺の番号、知ってましたっけ?」

 電話は思いもよらぬミーナからだった。

『番号はケントに訊いたの。そんなことより、いい?わたし、これからアランに必勝のクララ攻略法を授けるわ』

 ミーナの声は大真面目である。


(――クララ攻略法?)

 やにわにアランの目の色が変わった。

 アランは勝手にクララと『愛は平和ではない。愛は戦いである』という勝負をしている。

 この勝負には何が何でも勝ちたい。

 しかし、クララの親友のミーナにクララ攻略法を教わるのは、なんだか試験にカンニングするみたいではないか。

 ちょっと気が引ける。

 だが、相手は一筋縄ではいかない鋼鉄の処女クララなのだ。

 ズルしてでも勝ちたい。

「ミーナさん、その攻略法とは――?」

 やはり、訊いてしまうアランであった。


 一方、

 クララはタウンのロビーの窓際の椅子にポツンと座ってコーヒーを飲んでいた。

(明日も休みだけど、何も予定ないし)

 タウンから自宅まではマイカーで所要時間5分なので、まだ帰る気にならなかった。

 そこへ、

「あら?クララ?」

「まだ帰らなかったの~?」

 チェルシーとスーザンがやってきた。

「あ、2人とも遅番だったんだ?あのね、さっきね――」

 クララは話し相手が見つかったと嬉々として2人に椅子を勧めたが、

「あ、ごめん。訊いてる暇ないわ」

「わたし達、これからデートだから」

 チェルシーとスーザンは素っ気なく「またね~」とクララに手を振って、足早にロビーを出ていった。

 窓の外にスーザンとヘンリー、チェルシーとハワードが腕を組んで歩いていくのが見える。

(なによ。イチャイチャしちゃって)

(そうよね。彼氏のほうが大事よね)

(彼氏が出来たら女の友情なんて終わりってこと忘れてたわ)

 クララは不貞腐ふてくされ顔でコーヒーを啜る。

(きっと花火を見るのね。なんてお決まりのコースかしら)

 いつでも花火がドドンと始まるとゲストのカップルが花火そっちのけでkissするのを見るにつけ、クララは(うえ、気持ち悪っ)と思っていた。

 何故ならテーマパークでkissしているのはたいがい不細工なカップルだからだ。

 花火でkissしている美男美女のカップルなど一度たりとも見たことがなかった。

(チェルシーとスーザンは美女だし、ヘンリーとハワードだってイケメンだから、きっと花火そっちのけでkissなんてしないわね)

 そう思って少しホッとする。

(ああ、わたしったら、つまらないことばかり考えてるわ)

 クララはもう帰ることにした。

 誰も彼もラブラブのカップルで独りぼっちの暇人は自分だけなのだ。

 ああ、ムシャクシャする。


 ドドン!

 タウンの花火が始まった。


 あっという間にマイカーで所要時間5分の自宅のサンサンパンの駐車場に着く。

(――あら?)

 4台停まっているサンサンパンのミニバンの向こうにタウンの花火に照らされて背の高い人影が見えた。

「ア、アラン?」

 駐車場に立っていたのは騎兵隊コスチュームのマントのアランだった。

 勿論、鼻に詰めたティッシュは取って来ている。

 しかも、かたわらには白馬のパールがいた。

 アランはモニュメント・バレーから馬を駆ってきたらしい。

「ど、どうしたの?」

 クララは驚きを隠さずに訊ねた。

「え、えっと、クララちゃんがまだ家に帰ってないみたいだから、その、心配になって」

 アランは気まずそうに足元に視線を向けたままで答えた。


(わたしのことを心配して――)

 クララは胸がジーンと熱くなる。

 みな自分のことなど関心がないと落ち込んでいただけにアランが心配して自宅の駐車場まで来てくれたことに感激してしまった。

 目頭もジワリと熱くなる。

「け、けど、わたしが帰ってないなんてよく分かったわね?」

 素直になれないクララはつい余計な口を訊いてしまう。

「えっ?えっと、馬当番の見回りでフロンティア砦の見張り台から双眼鏡で眺めたらサンサンパンの駐車場にクララちゃんのミニバンがなかったから――かな」

 アランはテキトーに誤魔化す。

 おそらくフロンティア砦の見張り台から双眼鏡でもモニュメント・バレーのビュート(岩山)にさえぎられてサンサンパンの駐車場は見えない。

 実はこうしてアランが来たのはミーナから授かったクララ攻略法の指示だった。

 アランが気まずそうにしているのは試験にカンニングするような後ろめたさがあるからなのだ。

 だが、

(アランったら照れてるのかしら?)

 クララはそう勘違いした。

「……」

 アランはクララに目も合わせずに下を向いたまま、身の置き場がないように足元の石コロを蹴ったりしている。

 こんなモジモジしているアランを見るのは初めてだった。

(なんか可愛い)

 クララは胸がキュンキュンする。

 思わずアランに飛び付いてムギュッと抱き締めたいような衝動に駆られる。

 しかし、

「じゃ、クララちゃんが無事に帰ったの見届けて安心したし、俺は馬当番を抜け出して来たから」

 アランはあっさりときびすを返して白馬にヒラリと跨がった。

 あっさりとした態度ですぐに戻るのもミーナからの指示だった。

「う、うん」

 クララは一歩踏み出して肩透かしを食ったようにガックリする。

 パッカ、
 パッカ、

 パッカ、
 パッカ、

 アランの白馬がサンサンパンの駐車場から向かいの山田家の牧草地を突っ切ってモニュメント・バレーへ戻っていった。

「……」

 クララはアランと白馬が見えなくなるまで見送っていた。

 ドドン!

 夢見がちにうっとりした瞳は花火を映して星のまたたきのように輝いていた。



 第12弾に続く
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