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第11弾 夕陽に向かって走れ

lollipop(ロリポップ)

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 そうこうして、

 6時半近くなると騎兵隊キャストのオーディションの面接審査を見物するキャストはぞろぞろと多目的ホールへと向かった。

 騎兵隊キャストは見物ではなく審査員をするので隊員15名がみな揃っている。


「クララちゃんの私服、可愛いねっ」

「いつもオシャレだよねっ」

「えへ、ありがとう~」

 クララはいつものようにオシャレしてデニムのワンピースだが、バミーとバーバラはいつものようにテキトーにタウンのTシャツにジャージの上下だった。

「ホント、ミニのワンピースを着たクララちゃんは最強だね」

 アランは便乗して褒めると彼氏ヅラしてクララに寄り添ってきた。

(あっ?ちょっと、くっ付かないでよねっ)

 クララは咄嗟とっさの反射神経で足を速め、アランから2メートルは距離を空ける。

「……?」
「……?」

 バミーとバーバラはそんなクララを見て不可解そうに両手を広げて首を傾げた。

 2人はキャラクターの中身の習癖しゅうへきでついついジェスチャーをしてしまうのだ。


「レオタードの女のコが勢揃いしたカンカンのオーディションと違って野郎ばっかしだろ。どうせメラリーが飽きるだろうからペロペロキャンディーでも買っとくか」

 ジョーは長い廊下の途中のキャストショップに立ち寄った。

 バックステージにあるキャストショップはタウンで売っているキャラクターの菓子や雑貨がキャスト割引で買える売店だ。

 タウンのシーズンイベントの売れ残りで1月下旬にまだハロウィンやクリスマスの絵柄の商品が並んでいる。

「バニラチョコストロベリーのペロペロキャンディー。あと、コーンスナック。チョコ。カウボーイクッキー。グミ。プレッツェル。カシューナッツ。バターピーナッツ。コーヒー。ミルクティーも」

 メラリーはジョーの持ったレジかごに遠慮なく菓子とドリンクを投げ込んでいく。

「ほら、お前等も好きなの選べよ」

 ジョーが振り返って言った。

「うわ~い♪」
「やった~♪」

 バミーとバーバラは歓声を上げてキャストショップへ突進していく。 


(『お前等』と呼んだらバミーとバーバラのことだけよね?わたしは含まれてないわよね?)

 クララは廊下に突っ立ったままねたように床に視線を落とした。

 色気より食い気で天真爛漫なバミーとバーバラが羨ましい。

「クララちゃんもミルクティーでいい?」

 そう訊ねるアランの声で、

(――ん?)

 クララが顔を上げて見るとアランまでが菓子やドリンクをジョーの持ったレジかごに遠慮なく入れているではないか。

 貧乏な騎兵隊キャストはみなキャストショップに群がっていた。

(『お前等』って、こんな広範囲だったんだ)

 クララが呆気に取られているうちにレジかご3個が山盛りになった。


「うおっ?こんな長いレシート、初めて見たっ」

「うひゃひゃ、何メートルあんだろ?」

 細々と種類の多い大量の買い物でレシートはビックリするほどの長さだった。

 金額は2万円台になったがジョーは気にするでもなく涼しい顔でキャッシュカードで支払いを済ませている。

 そういえば、鰻屋でもメラリーに高いコース料理を奢っていたし、財布の紐のユルユルな男なのだ。

 ジョーはタウンの看板スタァでギャラもそれなりに高く、おまけに「宵越しの銭は持たねえ」という江戸っ子気質だった。


 そこへ、

「――あ、クララさぁん」

 パティがずっと前方の女子更衣室から出てきてクララに手を振りながら小走りしてきた。

「あら、パティ」

 クララは顔をしかめる。

 パティはお嬢様らしい白いレース襟の着いた淡いピーチのような色合いのクラシカルなワンピースで、白いフワフワしたコートを腕に抱えている。

 あまりにイメージどおりの可愛い私服でクララはしゃくに障った。

 ジョーのハニー志願などとヌケヌケと抜かす呆れ果てた馬鹿な女のコが自分より可愛いなんて許せない。


「来週の土曜日までバイトがないなんて寂しいです。せっかくクララさんと仲良しになれたのに」

 パティはホントに寂しげに長い睫毛を伏せた。

(べ、べつに仲良くなってないけど?)

(正社員だからリーダーさんの指示でいやいや仕方なくパティの指導をさせられてるだけなんだけど?)

 クララはたじろいだ。

 天使のように無邪気なパティに腹黒く邪悪な自分はとても敵わないと思った。
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