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第11弾 夕陽に向かって走れ
I got very hurt.(わたしはとても傷付いた)
しおりを挟む「あら?見覚えのある顔ばかりね?」
「メラリーの奴があちこちにクリームあんみつメールしたのかな?」
クララとアランが甘味処の2階に上がっていくと、店内の客はほぼタウンのキャストで占められていた。
キャスト食堂と変わらない雰囲気で伸び伸びしている。
ジョー、メラリー、マダムは窓際のテーブル席を陣取っていた。
「こんばんは~。偶然ですね~。わたし達、階下にいたんです~」
クララはにこやかに挨拶した。
「あれ?交際解消したんじゃなかったっけ?」
ジョーはアランとクララを見るなり余計なことを言った。
「ところが、あっという間に復縁っすよ」
アランはこれ見よがしにクララの肩に手を回してベタベタする。
「なんだよ?ただの痴話ゲンカかよ?」
ジョーは冷やかすように笑う。
(な、なによ。ジョーさんってば)
クララは邪険にアランの手を振り払った。
ジョーが少しは悔しがってくれるかと期待したのに、ジョーにはまったくそんな素振りは見えないではないか。
「交際解消はちょっと延期しただけです。友達みんなとバレンタインにダブルダブルデートの約束しているから。アランとはバレンタインが終わったら交際解消ですからっ」
クララはキッパリと言った。
「へええ?何で?何でこんなハンサムなアランが振られちまうの?」
ジョーはまさか信じられないというようにアランの顔を縦横斜めと角度を変えて眺めながら訊ねた。
アランは「さあ?」と首を傾げてみせる。
「……」
クララは苦々しげに顔を歪めた。
ジョーの態度はすっかりアランの味方で、まるでアランを振る自分が悪者扱いではないか。
(ヒトの気も知らないで――)
ヘラヘラしているジョーが憎らしかった。
「わたし程度のコがこんなハンサムなアランを振るなんて、身の程知らずだって、そう言うんですか?」
クララは震え声で訊ねた。
「へ?いや、全然、そんなこと思ってねえって。すんごくお似合いのベストカップルだと思ってたからよ」
ジョーは心底からアランとクララをお似合いのカップルと思っていたようだ。
「――し、失礼しますっ」
クララはカアッとなって身を翻した。
「何で?俺、何か怒らせるようなこと言ったっけ?」
ジョーはキョロキョロとメラリーとマダムの顔を見やった。
「はあ~」
「はあ~」
メラリーとマダムはハモッて嘆息した。
2人はずっと前からクララがジョーへの片想いを捻くらかしていることを分かっている。
こんな恋愛オンチでスケコマシのジョーなどを想い続けても無駄なことも分かっている。
(さっさと見切りを付けてアランにしておけばいいのに)とメラリーもマダムも思っていた。
クララのためを思えばこそ。
「――あっ?」
クララは折れ曲がりの階段を駆け下りて、ふいに後ろからグイッとバッグを掴まれた気がした。
「もぉ、離してよっ」
てっきりアランが追い掛けてきたとばかり思って振り返ると、バッグの紐が階段の手すりに引っ掛かっただけだった。
「も、もぉ、なによ」
クララは期待外れとみっともなさで階段の踊り場に突っ立ったまま泣き出したくなった。
すると、
店内からジョーとアランの声が聞こえてきた。
「アラン~、せっかくモテモテだってのに何であんな面倒臭えコと付き合ってんだよ?俺みたいに不特定多数のハニーとお互いに束縛し合わない自由な関係を築けよ」
「イヤですよ。そんな享楽的で生産性のない人生。俺はクララちゃんと健全に明るく楽しい幸せな家庭を築きますから」
(――面倒臭えコ――)
クララの目に涙がうるうると滲んだ。
「――あっ、クララちゃん?」
アランは折れ曲がりの階段を駆け下りてきて、踊り場にクララが突っ立っているのにビックリ顔をした。
クララの半泣き顔を見れば今のジョーの言葉が聞こえていたことは一目瞭然だった。
クララは焦って階段を駆け下りようとしたが、
「――あっ?」
まだバッグの紐が階段の手すりに引っ掛かったままで身体が後ろに引き戻された。
「ああ、引っ掛かってるよ」
アランがバッグの紐を引っ張って手すりから外した。
(な、なんて、わたし、不様なの)
クララは怒ったような強張った顔でギクシャクと階段を下りて甘味処の格子戸を出ていった。
「……」
アランはクララがギクシャクとコインパーキングへ歩いていくのを見送りながらホテルアラバハの通用口へ向かった。
もうバイトの時間を20分も遅刻していた。
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