PictureScroll 昼下がりのガンマン

薔薇美

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第11弾 夕陽に向かって走れ

To go by car(車で行く)

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 クララはタウンの医務室でナースに体温、脈拍、血圧とチェックされたが特に異常はなかった。

 たんにパティのジョーのハニー志願に逆上したせいで目眩めまいが起きただけなのだ。

「きっと過労だわ。ごめんなさい。わたしがクララ1人にバイトのコのフォローを押し付けてしまったばかりに」

 スイーツ・ワゴンの40代女性のリーダーはそう反省してくれた。

(しめた)とクララは思った。

「――ちょっと疲れただけなので大丈夫です」

 クララはことさら力の無い声で言いながらゆっくりとベッドから上体を起こす。

 ここは過労ということにすれば明日からパティのフォローを押し付けられずに済むではないか。

「クララちゃん、無理しないほうがいいよ」

 アランが心配そうにクララの肩を抱いた。

(ぁあ?ちょっと、何、触ってんのよっ?)

 クララはギロッとアランを睨み付けるが、アランはニンマリした。

「俺がクララちゃんの車を運転して家まで送っていくよ」

 クララの小芝居はアランにはバレバレだ。

 それで小芝居に便乗しているのだ。

(アランの奴ぅ。人前ならわたしが頭突きしないと思って馴れ馴れしく触ってきてぇ)

 クララは自分の肩を抱いたアランの手の甲に自分の手を重ねた。

「ありがと。アラン」

 傍目はためからはラブラブカップルに見えるように。

 そして、親指の爪をアランの手に食い込ませた。

 グリグリグリ――。

(――痛てて)

 アランは(はいはい。分かりました)という顔でおとなしく手を引っ込めた。


「彼氏が送ってくれるなら安心だわ。ワゴンの後片付けくらいはクララの分までパティにやらせてるから、クララはもう帰ってゆっくり休んで」

 リーダーが後片付けはいいと言うので終業時間にはまだ早いがクララは過労アピールのためにもアランに送って貰って帰ることにした。


(あああ、お寿司屋のガンマン会では結局、わたし、アルコールは自制して飲まなかったからジョーさんに運転して貰わなかったのに――)

 クララは初めて送って貰う彼氏までアランかと溜め息しながらコスチュームのドレスから私服に着替えを済ませた。

 女子更衣室でヘアメイクを直してバックステージの建物を出ると、先にアランが駐車場で待っていた。


「じゃ、行くよ」

 アランの運転するミニバンは車道へ出ると右側にカーブした。

「――え?うちは逆よ」

 クララは反対の左側を指差す。

「あれ?駅前の美容院に行きたいんじゃないの?」

 アランは構わずそのまま真っ直ぐに駅方向へ車を走らせる。

「う、うん」

 クララはしゃくに障ったが、ここは素直に頷いた。

 まったくアランは察しがいい。

 アランはクララがジョーと両想いになれる確率は0パーセントと思っているので余裕をかましているのだろう。

(そっちがそういう態度ならジョーさんを追っかけるのにだって協力して貰うからいいわ)

(ふふふん♪)

 どうせアランにはバレバレなのだからクララはこの際、居直ることにした。



(ホントにクララちゃんは分かりやすいなぁ)

 アランはしみじみ思った。

 生まれてからずっと家族に騙されてきたアランはこれから家族になる相手には自分を騙さないことが絶対条件だった。

 思えば、祖父母も両親も老舗旅館はゆま屋とホテルアラバハで働いているので、仕事柄、本心を隠して上っ面を演じるのに長けているのだろう。

 可愛いがられて育ったので恨みなどないし、嫌いにもならないが、ずっとインチキ家族の演技に騙されていたと思うと寒々しい気分だった。

 幼い頃からの家族との楽しかった思い出すべてがインチキ家族の演技に思えて何を思い出しても寒々しいのだ。


「マダムは美容院の予約を6時に取っていたけど、前もってバッキーさんのヘアスタイルをじっくり検討しようとか言って早めに出掛けていったんだよ」

 アランが時計に目をやると6時ジャストだ。

 タウンから駅前までの所要時間は車で15分だが、ヘアカットには1時間半はたっぷり掛かるだろう。

 そこはクララも通っている美容院で、こんな田舎でカット代が6800円もする地元で一番オシャレな美容院なのだ。

「6時の予約ならわたし達が着いた頃でもバッキーさんはまだシャンプーしてるくらいね?」

 クララはあと15分足らずでジョーに逢えると思うとウキウキだった。


 ところが、

 今この時、ジョー、メラリー、マダムは駅前の甘味処『甘利路あまりろ』にいた。

 太田はタウンでのバイトを家族に内緒にしているのでガンマンキャストの3人が一緒に美容院へ行く訳にはいかなかったのだ。

 なにしろ太田は駅前の中華料理店『豚珍館とんちんかん』の息子で、いまだに店の手伝いで出前もするので美容院のスタッフとも顔馴染みだった。

 そこで、

「――お?このハリウッド俳優の短髪、良くね?」

「ケラン・ラッツだ。格好良い~」

「素敵だけど欧米人とは髪質が違うから難しいわよ」

「取り敢えず、送信っと」

 ジョー、メラリー、マダムはそれぞれケータイで太田に似合いそうなヘアスタイルを見つけては美容院にいる太田のケータイに画像を送信していた。

 便利な世の中だ。

「あ~、口の中が甘ったるい。口直しにいそべ餅、食べよ」

「俺、次は抹茶プリン~」

 ジョーとメラリーはクリームあんみつを平らげて新たにオーダーする。

 マダムは抹茶とわらび餅のセットだ。

 3人は太田のヘアカットが終わるまで甘味処でまったり過ごすつもりだった。


 一方、

「車、停めるの、そこでいいよね?」

 アランは駅前のコインパーキングで車をバックさせた。

 助手席に手を掛けて後方確認するアランの顔が近くてクララはドギマギする。

(ああ、これがちまたでよく聞く女のコが胸キュンする彼氏のバック駐車仕草ね)

 クララは車をバックさせるアランに不覚にも胸がキュンキュンした。

 車がサンサンパンのミニバンというのが残念だが、アランのイケメンっぷりが車種のイケてなさを帳消しにしている。

「あ、あの紺色の、バッキーさんの車だわ」

 同じコインパーキングに見覚えのある太田の車が見えた。

 太田は学習塾の講師でウェスタン・ショウの常連だった頃から変わらずタウンへはマイカーで通っていた。

 昨年3月まで学習塾の人気講師だった太田はわりとリッチだったので車は日産のエルグランドだ。

「さっ、行きましょ」

 クララは足取り軽くルンルンと駅前の美容院へ向かった。
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