218 / 297
第11弾 夕陽に向かって走れ
She is an unsophisticated girl.(彼女はウブな女のコ)
しおりを挟む
(ジョーさんのハニーになりたい?何なの?このコ)
疑心暗鬼のクララの目前でパティは作法どおりに上品に紅茶を飲んでいる。
テーブルマナーがごくごく自然に身に付いていて育ちが良さそうだ。
いかにもおっとりした清楚なお嬢様タイプでスケコマシの男とふしだらなことをするような女のコにはとても見えない。
もしや、パティはジョーのハニーというのをファンクラブのメンバーか何かと勘違いしているのかも知れないと、
「――あの、ジョーさんがハニーって呼んでる女のヒトって不特定多数の不純異性交遊の相手のことよ?平たく言ったらセフレなのよ?」
クララはコソッと声を潜めて説明した。
セフレなんて生々しい言葉は口にするのもイヤだったが、ハッキリ言わないとパティには分からないかと思ったのだ。
「やだ。勿論、そんなこと分かってます」
パティは赤面して恥ずかしそうに両手で頬を押さえた。
(え、ええ?分かっていてセフレ志願?な、何で?)
クララは理解が出来ない。
「あ、アンさんとリンダさんがいらっしゃいました。クララさん、紹介して下さい」
パティはキャスト食堂にアンとリンダが入ってきたのを見ると嬉しげにクララを促した。
「あら?クララちゃん、休憩~?」
「今日はずいぶん遅いのね~」
アンとリンダは気安くクララ達のテーブルに着いた。
2人はサルーンでのカンカンのショウの前にコーヒーブレイクに来たようだ。
「あの、このコ、今日からスイーツ・ワゴンの売り子を始めたばかりのバイトのパティです」
クララは仕方なくアンとリンダにパティを紹介する。
「パティです。わたし、子供の頃からずっとカンカンのアンさんとリンダさんのファンなんです」
パティは憧れの女性を見るようにアンとリンダに目を輝かせた。
「子供の頃から?」
「何歳なの?」
アンとリンダは、「19歳です」とパティが答えると「じゃ、たしかに子供の頃からだわね」と嘆息した。
「あの、わたし、アンさんとリンダさんのようにジョーさんのハニーになりたいんですが、ジョーさんのハニーになるにはどうしたらいいですか?」
パティは唐突に本題に入り、大真面目な顔でアンとリンダに迫った。
「……?」
「……?」
アンもリンダも(何?このコ、正気?)というような顔でパティを見返した。
(――な、なんて単刀直入なコなの?)
クララは頭がクラクラした。
「あなた、とてもそんな感じには見えないけど意外に経験豊富なの?」
アンが訝しげにパティに訊ねる。
「いいえ、まさか。ずっと女子校で男のヒトとお付き合いしたこともありません」
パティは赤面してブンブンと首を振る。
(へええ、まるで絶滅危惧種の天然記念物乙女と呼ばれたわたしみたい)
クララはそう思ってからハッとした。
(あっ、けど、わたしはすでにアランとKissしてしまってるっ)
(全然、Kissの記憶がないけど、わたしはすでにパティよりも経験があるんだわ)
クララはまっさらに清らかな乙女のパティを前にして自分は天然記念物乙女の看板を下ろさなければいけないような心境になった。
「あなたみたいにウブなコが何でまた?」
「本気でジョーちゃんのハニーになりたいの?」
アンとリンダは興味津々に訊ねる。
「――ええ、実は――」
パティはジョーのハニーになりたい事情を包み隠さず語り出した。
「わたし、もう親の決めた婚約者がいて、女子大を卒業したら結婚するんです」
パティはこの地元で一番大きい病院の一人娘だった。
(――えっ?じゃ、マーサさんが入院中のあの立派な病院?)
クララはこれぞ本物のお嬢様だとパティを見直した。
「婚約者は30代の脳外科医で、優秀な医師らしいんですけど見た目は冴えないし、とても恋愛感情なんて持てないんです。婚約者は今、ボストンに留学中で、わたし、その隙に格好良い憧れのジョーさんのハニーになって初体験して女の悦びというのを知りたいんです。冴えない婚約者と結婚して初体験なんて絶対にどうしても耐えられないんです」
パティは涙ながらに訴えた。
「初体験したくもない男と結婚するの?」
「いいの?あなたの一生の問題なのよ?」
アンとリンダは呆れ顔して訊ねる。
「はい。一生の問題です。だから、わたし、将来のために優秀な医師と結婚するのが、一生、先々まで、それこそ子孫の代まで安泰って分かってるんです」
パティはキッパリと言った。
子孫の代の安泰まで考えてのことなら他人がどうこう口出ししても仕方ない。
「ああ、けど、ジョーちゃんって未成年はパスなのよね」
「あ、そうそう。あなた19歳だものね?」
アンとリンダはどうにかパティのハニー志願を断る理由を見つけるが、
「あ、もう来月20歳になります。わたし、ホントに馬鹿で、勉強も出来なくて、1年留年してるんです」
パティはクララが思った以上に物覚えが悪かったようだ。
(じゃ、来月にはパティはジョーさんのハニーに?)
(わたしよりウブなお嬢様が?)
(わたしを差し置いてジョーさんと初体験?)
(そんなこと、絶対に、絶対に、絶対に、許さないっ)
ガタッ。
クララは息んで立ち上がった。
とたんに立ち眩みなのか一気に頭から血の気が引いた。
「――あ――れ――?」
キャスト食堂の天井がグルグルと渦巻きのように回って見える。
「――クララちゃんっ」
フラフラしたクララの身体を素早く横からアランが抱き抱えた。
疑心暗鬼のクララの目前でパティは作法どおりに上品に紅茶を飲んでいる。
テーブルマナーがごくごく自然に身に付いていて育ちが良さそうだ。
いかにもおっとりした清楚なお嬢様タイプでスケコマシの男とふしだらなことをするような女のコにはとても見えない。
もしや、パティはジョーのハニーというのをファンクラブのメンバーか何かと勘違いしているのかも知れないと、
「――あの、ジョーさんがハニーって呼んでる女のヒトって不特定多数の不純異性交遊の相手のことよ?平たく言ったらセフレなのよ?」
クララはコソッと声を潜めて説明した。
セフレなんて生々しい言葉は口にするのもイヤだったが、ハッキリ言わないとパティには分からないかと思ったのだ。
「やだ。勿論、そんなこと分かってます」
パティは赤面して恥ずかしそうに両手で頬を押さえた。
(え、ええ?分かっていてセフレ志願?な、何で?)
クララは理解が出来ない。
「あ、アンさんとリンダさんがいらっしゃいました。クララさん、紹介して下さい」
パティはキャスト食堂にアンとリンダが入ってきたのを見ると嬉しげにクララを促した。
「あら?クララちゃん、休憩~?」
「今日はずいぶん遅いのね~」
アンとリンダは気安くクララ達のテーブルに着いた。
2人はサルーンでのカンカンのショウの前にコーヒーブレイクに来たようだ。
「あの、このコ、今日からスイーツ・ワゴンの売り子を始めたばかりのバイトのパティです」
クララは仕方なくアンとリンダにパティを紹介する。
「パティです。わたし、子供の頃からずっとカンカンのアンさんとリンダさんのファンなんです」
パティは憧れの女性を見るようにアンとリンダに目を輝かせた。
「子供の頃から?」
「何歳なの?」
アンとリンダは、「19歳です」とパティが答えると「じゃ、たしかに子供の頃からだわね」と嘆息した。
「あの、わたし、アンさんとリンダさんのようにジョーさんのハニーになりたいんですが、ジョーさんのハニーになるにはどうしたらいいですか?」
パティは唐突に本題に入り、大真面目な顔でアンとリンダに迫った。
「……?」
「……?」
アンもリンダも(何?このコ、正気?)というような顔でパティを見返した。
(――な、なんて単刀直入なコなの?)
クララは頭がクラクラした。
「あなた、とてもそんな感じには見えないけど意外に経験豊富なの?」
アンが訝しげにパティに訊ねる。
「いいえ、まさか。ずっと女子校で男のヒトとお付き合いしたこともありません」
パティは赤面してブンブンと首を振る。
(へええ、まるで絶滅危惧種の天然記念物乙女と呼ばれたわたしみたい)
クララはそう思ってからハッとした。
(あっ、けど、わたしはすでにアランとKissしてしまってるっ)
(全然、Kissの記憶がないけど、わたしはすでにパティよりも経験があるんだわ)
クララはまっさらに清らかな乙女のパティを前にして自分は天然記念物乙女の看板を下ろさなければいけないような心境になった。
「あなたみたいにウブなコが何でまた?」
「本気でジョーちゃんのハニーになりたいの?」
アンとリンダは興味津々に訊ねる。
「――ええ、実は――」
パティはジョーのハニーになりたい事情を包み隠さず語り出した。
「わたし、もう親の決めた婚約者がいて、女子大を卒業したら結婚するんです」
パティはこの地元で一番大きい病院の一人娘だった。
(――えっ?じゃ、マーサさんが入院中のあの立派な病院?)
クララはこれぞ本物のお嬢様だとパティを見直した。
「婚約者は30代の脳外科医で、優秀な医師らしいんですけど見た目は冴えないし、とても恋愛感情なんて持てないんです。婚約者は今、ボストンに留学中で、わたし、その隙に格好良い憧れのジョーさんのハニーになって初体験して女の悦びというのを知りたいんです。冴えない婚約者と結婚して初体験なんて絶対にどうしても耐えられないんです」
パティは涙ながらに訴えた。
「初体験したくもない男と結婚するの?」
「いいの?あなたの一生の問題なのよ?」
アンとリンダは呆れ顔して訊ねる。
「はい。一生の問題です。だから、わたし、将来のために優秀な医師と結婚するのが、一生、先々まで、それこそ子孫の代まで安泰って分かってるんです」
パティはキッパリと言った。
子孫の代の安泰まで考えてのことなら他人がどうこう口出ししても仕方ない。
「ああ、けど、ジョーちゃんって未成年はパスなのよね」
「あ、そうそう。あなた19歳だものね?」
アンとリンダはどうにかパティのハニー志願を断る理由を見つけるが、
「あ、もう来月20歳になります。わたし、ホントに馬鹿で、勉強も出来なくて、1年留年してるんです」
パティはクララが思った以上に物覚えが悪かったようだ。
(じゃ、来月にはパティはジョーさんのハニーに?)
(わたしよりウブなお嬢様が?)
(わたしを差し置いてジョーさんと初体験?)
(そんなこと、絶対に、絶対に、絶対に、許さないっ)
ガタッ。
クララは息んで立ち上がった。
とたんに立ち眩みなのか一気に頭から血の気が引いた。
「――あ――れ――?」
キャスト食堂の天井がグルグルと渦巻きのように回って見える。
「――クララちゃんっ」
フラフラしたクララの身体を素早く横からアランが抱き抱えた。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる