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第11弾 夕陽に向かって走れ
Miss patty(ミス・パティ)
しおりを挟む一方、
その頃。
クララは地下通路をバックステージへと急いでいた。
(もぉう、バイトのコのフォローしてたら休憩が遅くなっちゃった)
今日はいつもより1時間もバックステージへ戻るのが遅いのだ。
クララの顔にはイライラした不機嫌さが顕に出ていたのだろう。
「クララさん、わたしのワゴンのドーナツまで売って下さって休憩が遅くなっちゃって、ホントにすみません」
バイトのパティ(天白いずみ)が半泣きでペコリとする。
パティは土日だけのバイトの胡蝶蘭女子大1年生で今日がスイーツ・ワゴンの初日だった。
タウンのキャストの採用はルックス重視なのでパティも美少女系の可愛い顔立ちをしている。
ただ、甚だしく仕事の覚えが悪く、動作のゆったりしたグズでのろまなコだった。
「ううん。いいのよ。気にしないで」
クララは努めて笑顔を作った。
(あああ、わたしも今ではタウンの社員だし、19歳のバイトのコにクララさんなんて呼ばれて年齢を感じちゃうなぁ)
クララも胡蝶蘭女子大1年生の頃からタウンでバイトしていたのでスイーツ・ワゴンの売り子は今年6年目で手慣れたものだ。
なにしろクララのワゴンは売れ行きが良かった。
今日だってクララのワゴンの午後の販売分のドーナツは4時までに売り切ったというのに、リーダーにバイトのコの売れ行きが悪いからとパティのワゴンのフォローを押し付けられたのだ。
メインストリートのスイーツ・ワゴンは冬季は午後5時でクローズだが、結局、クララはパティのワゴンの販売分もクローズまでに売り切ってしまった。
(あああ、この調子じゃ明日もわたしがフォローしてあげなきゃならないのかなぁ)
クララはこれまでガンマンキャストが4時頃に早めの夕食にキャスト食堂へやってくるのに合わせて自分のオヤツ休憩を4時頃に取っていたのだ。
それが今日みたいにグズでのろまなバイトのコのフォローで1時間も休憩が遅くなってしまうのは大迷惑だ。
(――ああ、もういない)
クララがキャスト食堂へ入るとガンマンキャストがいつも座っているテーブルは空っぽだった。
念のため他のテーブルもキョロキョロと見渡すと隣のテーブルのアランとバチッと目が合った。
「ああ、ジョーさん達ならバッキーさんにくっ付いて美容院へ行っちゃったよ」
訊きもしないのにアランが教えてくれた。
ジョー、メラリー、マダムの3人は太田の付き添いで駅前の美容院へ行ったらしい。
「ちなみに俺はホテルのバイトに行くまで時間潰し。あ、俺のことなんて興味なかったっけ?」
アランは嫌みっぽく笑って食後のコーヒーをグビッと飲む。
「あら、わたしのことホンットによく知ってるのね?」
クララも嫌みっぽく笑って返した。
アランvsクララの『愛は平和ではない。愛は戦いである』という何だかよく分からない戦いはいまだ続行中だ。
「クララさんって騎兵隊のアランさんと結婚前提のお付き合いなんですよね?素敵」
パティはうっとりして言った。
今のクララとアランの嫌みっぽいやり取りも気の置けないカップルに見えたようだ。
(バレンタインのダブルダブルデートが終わったらアランとは交際解消なんだけど、このコにいちいち説明するのも面倒だし。ま、いいか)
クララは曖昧に笑ってトレイを取って配膳台に並んだ。
すでにアニタ、スーザン、チェルシーと相談してダブルダブルデートはバレンタイン本番の2月14日と決めていた。
みなが仕事を終えた午後6時から星空の下のデートだ。
「たぬきうどん下さい~」
クララは今日はさっさと食べたいので簡単に麺類にした。
ジョー達の会話の盗み聞きが出来ない休憩には何の張り合いもない。
19歳の可愛い女子大生のバイトのコと一緒に休憩なんてうんざりだった。
クララは自分もブリッコなくせに自分以外のブリッコは気に入らないのだ。
しかも、このパティ、とんでもない食わせ者だった。
「クララさんってカンカンのアンさんとリンダさんと親しいんですよね?」
パティはクララと向かい合ってテーブルに着くと、意気込んで身を乗り出した。
「ええまあ」
クララはちょっと首を傾げる。
寿司屋でのガンマン会の会合で親しくなったかも知れないがよく分からない。
「アンさんとリンダさんってジョーさんのハニーなんですよね?羨ましい」
パティはうっとりとして言った。
(う、羨ましい?)
クララはうどんを吸い込んだ口をタコのように突き出したまま顔を上げた。
パティはさっきクララとアランのカップルを「素敵」とうっとりして言ったが、それと同じようにジョーのハニーも「羨ましい」とうっとりして言ったのだ。
さらに、パティはモジモジしながら、とんでもない発言をした。
「実は、わたし、ずっとジョーさんのファンで、それで、ジョーさんのハニーになりたいなって、それで、思い切ってタウンでバイトを始めたんです」
ジョーのハニーになりたい?
(――な、何?このコ?)
クララは未知の生物に遭遇したかのように茫然とパティの顔を見つめた。
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