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第10弾 マイフェアレディ
The gunman does not put an umbrella(ガンマンは傘を差さない)
しおりを挟む「あれ?ジョーさん、傘は?」
バックステージの建物のポーチへ出て、ケントは自分のビニール傘をバサッと開いた。
「ガンマンは傘を差さねんだよ」
ジョーは格好付けて答えてウェスタンハットをグイと目深に被る。
そう、ガンマンは傘を差さない。
ちなみにサムライも軍人も警察官も自衛官も傘を差さない。
しかし、サムライは編笠を被るかも知れないが。
「俺、ガンマンだけど濡れるのヤダし~」
メラリーはオヤツの大きな紙袋を抱え直して自分のビニール傘をバサッと開いた。
ジョーは傘も差さずに手ぶらなのだからオヤツの紙袋くらい持ってくれても良さそうだが、
「ひとたび外へ出たら常に両手を空けておくことがガンマンの基本中の基本だぜ」
そう言ってオヤツの紙袋だって持たない。
「この間、マーサさんに頼まれて買い物いっぱい持ってたじゃん」
メラリーが突っ込む。
「~~♪」
唐突にジョーは口笛を吹いた。
ガンマンが突っ込まれた時に相応しい躱し方は口笛だと判断したらしい。
(曲は『おおブレネリ』のヤッホ、ホトゥラララ♪のようだけど、ビミョーに音程がズレてるような?)
この時、ケントはジョーが音痴なのだと確信した。
「わたし、このポーチの前まで車を出してきますね」
クララは赤い傘を差してタウンのキャスト専用駐車場へ小走りした。
いくらガンマンは傘を差さないとはいえ、ジョーが意地を張って駐車場まで雨に濡れて行くのはどうかと思ったのだ。
ジョーが大人げない男だということは百も承知している。
(ここはわたしが大人の対応を見せなくちゃね)
クララはこの場の自分のポジションを悟った。
要するにマダムが不在の時は自分がマダムのポジションを引き受ければいいのだ。
本心ではジョーにチヤホヤされる我が儘なメラリーのポジションになりたいのだが、それはメラリーがいる限り不可能だと諦めるしかない。
そうこうして、みなはクララのミニバンに乗って駅前の寿司屋へ向かった。
それぞれの座席はクララの助手席にケント、2列目にアンとリンダ、3列目にジョーとメラリーという配置だった。
ケントはここにいない彼女のアニタのやきもちに警戒してグラマー美女のアンとリンダを視界にも入れないように避けているのだ。
「――あ、そこの右側の角、美豆里寿司だ」
メラリーが駅前のアラバハ商店街の寿司屋を指差した。
戸口の立て札を見ると寿司屋の2階はガンマン会の貸し切りだった。
「へえ~、意外にガンマン会って大規模なんっすね?」
ケントは感心したが、
「いや、ガンマン会ってのはアラバハ商店街連合会がスライドしただけだからよ」
ジョーはケロッと内幕をバラした。
今日のガンマン会の会合も実のところはアラバハ商店街連合会の新年会なのだ。
「さ、入りましょ」
「クララちゃん、運転、ありがと」
アンとリンダは親しげにクララの肩を背後からポンポンして店内のエレベーターへ促した。
「……」
クララはなんとも面映ゆい気持ちになる。
アンもリンダもすこぶる感じが良いではないか。
素敵な綺麗なお姉さんという雰囲気だ。
(そういえば、アニタはアンさんとリンダさんがカンカンの憧れで目標だって言ってたものね)
カンカンの踊り子のトップクラスのアンとリンダは女のコにとっても憧れの存在なのだ。
だが、クララはジョーのハニーであるアンとリンダにどう接するべきか見当も付かなかった。
クララはエレベーターの壁の鏡越しに背後のアン、リンダ、ジョーに視線を彷徨わせた。
「――そもそもスケコマシに恋するのが問題なんじゃん?」
メラリーがクララの戸惑いを察したようにボソッと呟く。
だが、その呟きはエレベーターの扉が開いたとたん大音響に掻き消された。
~~♪
2階の店内ではアラバハ商店街の爺さん連中がカラオケで盛り上がっていた。
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