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第9弾 お熱いのがお好き?
She is invincibility (彼女は無敵)
しおりを挟む「――ええっ?まさかの借地っ?」
キャストは揃ってビックリ顔する。
「3分の2はタウンの運営会社が買い取った土地よ。けど、3分の1はちょっと予算の都合で――、いえっ、そんなことより問題はマーサさんの大怪我よ。マーサさんはこのタウンの『影の大番長』のような存在なのよっ」
ゴードンはピシッと言い放った。
『影の大番長』ときたら今度は『愛と誠』か。
ゴードンが梶原一騎作品にかなり傾倒していることは確かだ。
梶原一騎作品のルーツは西部劇にあるのだから当然といえば当然だ。
ともあれ、影の大番長、もとい、マーサは地主で、ウェスタン・タウンの運営会社は借地権者である。
借地権者は土地に新たな施設を建てる際には地主の承諾を得なくてはならない。
タウンの今後の発展のためにもマーサと良好な関係を保つことはなによりも大切なのだ。
そもそもキャスト食堂の配膳係のオバサンが我が物顔にオカズのオマケをすることに誰も見て見ぬふりしていたのはマーサがこのタウンの影の大番長に他ならないからなのだ。
「……」
アランは口を開けたまま茫然となった。
今さら俺のせいじゃないと言ってもマーサの正体を知ってから焦って言い逃れしていると思われてしまう。
「――山田のおばちゃん、入院なんて」
クララがポツリと呟いた。
タウンの近所のクララは小さい頃はこの場所が山田さんちの畑だったし、タウンの地主だとも知っていたので驚きはしない。
ただ、マーサの息子の太郎は単身赴任で東京にいて、その嫁の花子も仕事をしていて、タウンの託児所に預けている孫2人はまだ小さいのでマーサがいないと大変だろうと思った。
「マーサさんのお嫁さんのお仕事って?」
マダムがクララに訊ねる。
「地元の中学の先生なんです」
「英語の花子先生。わたしのいた部活の顧問よぉ」
クララは中学から私立の胡蝶蘭女子大の附属校に入ったが、アニタは地元の中学校だった。
土地の地代で金に不自由しないマーサだがキャスト食堂で配膳係をしているのは自分の生き甲斐と孫2人をタウンの託児所に預けるためなのだ。
「それじゃ、お孫さんの託児所の送り迎えとか困るわねえ。今までマーサさんが一緒に連れてきたんだもの」
マダムはよく託児所の手伝いに行くのでマーサの孫2人もよく知っている。
4歳の咲ちゃんと2歳の雪ちゃんという姉妹だ。
「お嫁さんは中学校の先生じゃ朝は早いし、帰りだって部活の顧問してたら遅くなるわねえ」
ゴードンはまた渋面して吐息する。
「……」
アランはうなだれて言葉も出ない。
みな自分のせいでマーサが大怪我したと思っているのだから、まるで針のムシロだ。
そこへ、
「クララ~」
「ほら、約束のいなご新聞~」
マッチョの男性ダンサー、マークとハリーがキャスト食堂へ入ってきた。
まったく場の空気を読まずに戦利品のいなご新聞を頭上でヒラヒラと振っている。
「ケントもアランと転《こ》けて取れなかったんでしょ?アニタにもあげる」
マークとハリーがクララとアニタにいなご新聞を手渡した。
「わあ、ありがとう~」
「良かったぁ。もう手に入らないと思ってたわぁ」
クララとアニタは満面の笑みでいなご新聞を受け取った。
「……」
アランはすこぶる気分が悪い。
あの争奪戦のドミノ倒しのどさくさにお構い無しに男性ダンサーはいなご新聞をちゃっかりゲットしていたのだ。
「――ん?トムとフレディもいなご新聞ゲットしてんじゃん?」
ジョーがバミーとバーバラがいなご新聞を手にしているのを見て訊ねた。
「ああ、俺等も予定どおり5部ずつ取ったんで」
「さっきゴードンさんとマダムとロバートさんにも差し上げたんすよ」
トムとフレディが手柄顔で答える。
2人合わせて10部ゲットならバミー、バーバラ、ゴードン、マダム、ロバートにあげても3部は余っているはずだ。
無論のことジョーはその3部は自分とメラリーと太田にくれるのだろうと思った。
だが、
「――あ、そうだ。ロバートさん。いなご新聞、お母さんとタイガーとウルフにも」
「どうぞ」
トムとフレディはいなご新聞を残り3部ともロバートに差し出した。
「お、気が利くなあ。お袋もクリスマス会で一緒に撮った写真が載っているし、大喜びするよ」
ロバートはホクホクといなご新聞を受け取る。
トムとフレディは上下関係を重んじる体育会系なのでこういうところはソツがないのだ。
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