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第9弾 お熱いのがお好き?

Go bravely(勇ましく往け)

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「あ~っ?」

「もうあんなにヒトが集まってる~っ」

 バミーとバーバラ(中身)がバタバタとロビーへ駆け込んできた。

 2人はダンス大会で揃って優勝したので自分達の載ったいなご新聞は是が非でも手に入れたいのだ。

「ああ、いなご新聞、まだですねっ」

 太田も駆け込んできて「間に合った」とゼイゼイと息をく。

「バッキーは載ってないよね?」

「あ、クリスマス会でチビッコとダンスしたっけ?でも、着ぐるみの写真だよ?」

 バミーとバーバラはキョトンとしたが、

「いいえ。いなご新聞にはロデオ大会で優勝したメラリーちゃんが載っているのでっ」

 太田は友情に厚く1人で熱くなっている。

「ふ~ん、俺、優勝賞品でウェスタン牧場直営ステーキハウスのお食事券10万円分を貰ったから、いなご新聞なんてど~うでもいいし~」

 メラリーは「それより本日のサービスメニューは何かな~?」とロビーの老若男女50人ほどの人混みを素通りしてキャスト食堂へ入っていく。

「んあ?お前等も?」

 ジョーが振り返ると、

 ゾロゾロと騎兵隊キャストのヘンリーとハワード、先住民キャストのブルマン、グリリバ、ブラッツがやってきた。

 先住民キャストはロデオ大会でレッドストンが5位で載っている。

「レッドストンは5位なんて不本意だからイラネって来ないけどな」

「けっ」

「スカしてやがるぜ」

 ヘンリーとハワードはいなご新聞に載っていないが先住民キャストとの対抗心で参戦するのだ。

「――むむぅ」

 体格が良く身体能力の高いウェスタン・ショウのパフォーマーの参戦に老若男女50人ほどのキャストはみな一様に迷惑そうな顔をする。

 そこへ、

「おうっ、バミーとバーバラは危ないから俺等が取ってきてやるぜっ」

「やるぜっ」

 威勢良く「そこのけ、そこのけ」とばかりにロビーに現れたのはトムとフレディだった。

「――でえええっ?」

 老若男女50人ほどのキャストはみな一斉に「まさか?」「嘘でしょ?」「そんな」と戦々恐々な顔で振り返った。

 タウン最強の男、元力士、強獣力ごうじゅうりきのトム。

 この巨漢がいなご新聞の争奪戦に加わるとは誰も予想だにしてなかったのだ。


「――あ、あの、力士の体当たりをマトモに食らうと一般人は死ぬと聞いたことがありますけど?」

 太田は恐る恐るトムに訊ねる。

「一般人に体当たりしたことねえから知らねぇけど?――あ、一度、酔っ払いに絡まれて片手で払い除けたら相手のアバラ骨3本折れたことあったっけな」

 トムはそういえばと思い出して答える。

 力士時代はぶつかり稽古で150Kg超をパンパンはたいていたので軽く払ったつもりでも一般人にはとてつもない威力なのだ。

 今でもトムが手洗いで使った後の洗面所の蛇口はカランが固く閉まって誰にも開けられないほどの馬鹿力だ。

「――アバラ骨3本――?」

 太田はサーッと青ざめる。

「おい、バッキー。騎兵隊のオーディションは今月末だろ?怪我してる場合じゃねえぜ?」

 ジョーに真顔で止められて、

「え、ええ。いなご新聞は諦めます」

 太田はかえって安堵したように争奪戦から離脱した。


「ねえ?危ないわよぉ。ケントもやめておいたらぁ?アバラ骨が折れたら痛くてトランペット吹けないわよぉ」

 アニタも心配してケントを止める。

「う、う~ん」

 ケントは(どうする?)という迷い顔でアランを見やった。

「……」

 アランはチラッとマッチョの男性ダンサーに目を向けた。

 マークもハリーもタウン最強の男トムの参戦をものともせずに涼しい顔で手足をブラブラと振って柔軟体操をしている。

 ここでひるんだら男がすたる。

「俺はやるよっ。いなご新聞ゲットするっ」

 アランは強気に握り拳で宣言した。

「よし、俺もやるっ」

 ケントも腹を決めたようだ。

「分かった。ケント、頑張ってぇ」

 アニタはもう止めずにケントを応援することにしたらしい。


(うん。誰でもいいから頑張って、いなご新聞を取ってわたしにちょうだい)

 クララは別段、誰の心配もせず、ただ腹黒にそう思った。


 そうこうして、

 ガラガラ、
 ガラガラ、

 長い廊下の向こうから台車のけたたましい音が響いてきた。

 オフィスの広報部の男子社員2人がいなご新聞を積んだ台車を押してやってきたのだ。
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