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第7弾 明後日に向かって撃つな!
A heart is shattered(ハートが砕ける)
しおりを挟む夜9時近く。
(――はぁ~、練習で肩凝った~)
メラリーは1人でキャスト宿舎に帰ってきた。
トムとフレディはロバートの奢りで飲もうと酒場『アパッチ砦』へ行ってしまったが、まだ未成年のメラリーは酒場には誘って貰えないのだ。
(――ん?リンダさん、まだいるのかな?)
3階まで階段を上がってジョーの部屋の玄関扉に耳をくっ付ける。
「ああん、ジョーちゃん、サイコ~」
リンダの色っぽい笑い声が聞こえる。
「――ふんっ」
メラリーは今日も昨日と同様にムカついた。
これで明日もジョーを憎いあんちくしょうと思ってガンガン撃ちまくれるというものだ。
明日こそパーフェクトもイケそうな気がする。
「よっし、お風呂にゆっくり浸かって早めに寝よっと」
メラリーは気合いを込めて自分の部屋へ入った。
あくる朝。
メラリーがキャスト宿舎前のバス停留所のベンチで巡回バスを待っていると、
「はよー。メラリー。晴れて絶好の射撃日和だなっ」
ジョーはスカッと爽やかな笑顔でメラリーに声を掛けた。
切り替えの素早い男なのでメラリーに憎いあんちくしょうにされたショックからは一晩で立ち直ったらしい。
ケロッとした笑顔が無性にムカつく。
「……」
今日もメラリーはプイッと顔を反らし、分かりやすくジョーを無視する。
「……」
ジョーはたちまち目が虚ろになった。
(何で無視されるんだろう?)という当惑の表情だ。
メラリーを怒らせた覚えなどジョーにはこれっぽっちも思い当たらないのだ。
「メラリー?どしたんだよ?」
「ジョーさんとケンカでもしたのか?」
バス停留所のベンチにいた騎兵隊キャストのヘンリーとハワードが分かりやすくジョーを無視するメラリーに訊ねた。
この2人はキャスト宿舎の1階の部屋だが、騎兵隊キャストは貧乏なので光熱費の節約に5、6人でルームシェアしている。
「……」
ジョーはメラリーの答えで自分が無視される理由が分かるかとドキドキと耳をそばだてた。
しかし、
「べつに~。――あ、ジェリーだっ」
メラリーはトムの飼い猫が2階のベランダからドスンッと飛び下りてきたのを見つけて駆け寄っていく。
まるでジョーのことなどより猫と遊ぶほうが先決という態度だ。
「――あ、メラリー。お前、この間、サカジャウィアに鶏の唐揚げやっただろ?猫には塩分多いんだぞ。サカジャウィアが腎臓病になったらお前のせいだかんなっ」
「だなっ」
トムとフレディがキャスト宿舎から出てきた。
トムの飼い猫の名前はサカジャウィアというのだが、面倒臭いので勝手にみなジェリーと呼んでいる。
ちなみにサカジャウィアはアメリカの1ドル硬貨の肖像にもなった西部開拓時代のインディアン娘の名前だ。
「やってないし。このドロボー猫が俺の部屋に入って勝手にテーブルの上の鶏の唐揚げを盗ったんじゃん」
メラリーは体重5㎏ほどのデブ猫を指して言い返す。
チンチラが混じった雑種で薄茶色の長毛のメス猫だ。
「テーブルだあ?あの段ボール箱のことか?」
「テーブルに使ってたらテーブルじゃん」
メラリーはいまだに家具を持ってないので段ボール箱をテーブル代わりに使っている。
「う~ん、メラリーはタウンのキャストで最強のトム相手に意地でも引かない奴だもんな」
元力士のトムに腕力で敵う者などタウンには誰もいない。
「ああ、言うことは言う奴だからジョーさんとケンカしてる訳でもなさそうだよな」
ヘンリーとハワードは不可解そうな顔をする。
いつでもジョーはメラリーを怒らせても殴る蹴るされて悦んで解決するはずなのだ。
「えいっ、このっ」
パシッ。
パシッ。
メラリーはトムを相手に相撲の突き出しを試みているが、まるで、ちびっこ相撲でトムの巨体はびくともしない。
「……」
ジョーはメラリーがトムとぶつかり稽古している様子を虚ろな目で眺めていた。
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