PictureScroll 昼下がりのガンマン

薔薇美

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第7弾 明後日に向かって撃つな!

Did you see me all the time?(わたしをずっと見てたの?)

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「あっ、もう6時15分っ?」

 仕事を終えたクララは大急ぎで私服に着替えて更衣室を飛び出し、長い廊下を走った。

 ロビーへ出ると、

「クララちゃん?一緒にシアター行かない?」

 アランが駆け寄ってきた。

 クララを待ち伏せしていたらしい。

「うんっ」

 クララは迷わずオッケーして慌ててロビーを出ていく。

 この際、誘ってきたのが誰かはどうでも良かった。

「もうこの時間は子連れのゲストは帰る頃だからシアターも空いてるよ」

 アランは悠長に言う。

「でも、良い席がなくなっちゃう。先に行ってるから」

 クララの言うのはジョーの近くの席がなくなっちゃうという意味だ。

「あ、クララちゃん。待ってよ」

 アランも慌てて走ってクララを追い掛けた。


 薄暗いトンネルのような地下通路を2人で並んで進んでいく。

「キャスト食堂でさ、クララちゃんがいつマシュマロ入りブラウニーを渡してくれるんだろうと待ってたんだけど、俺が隣のテーブルにいたことも気付かずにずっとガンマンキャストとしゃべってたよね?」

 アランは不満げに言った。

「えっ?こっちを見てたの?」

 クララは焦った。

 騎兵隊キャストのテーブルはクララが座っていた側の通路を挟んだ隣なのでクララの顔はよく見えたはずだ。

「うん。ずっと見てたよ。ここのところずっと。ホテルアラバハでもバーカウンターで爺さん連中にカクテル作りながら、ずっと寿司カウンターのクララちゃんのこと見てた」

 アランはクララに見返ってニンマリした。

「や、やだっ。あの時も?」

 クララは冷や汗が出てきた。

(――たしか、あの時、わたし、カンカンのアンさんのバストとヒップを妬ましげに見て、ジョーさんとアンさんを嫉妬心丸出しで睨んだわよね)

 あんなところまでアランに見られていたなんて気まずい。

「いや、クララちゃん、顔に出るから見ていて楽しくてさ」

 アランは悪気なさそうに笑う。

「や、やめてよ。ずっとヒトのこと見てるなんてプライバシーの侵害だわ」

 クララはムッとした。

「そうかな?プライベートルームを覗いた訳じゃないし、他のキャストも集まっている公共の場じゃないか。俺は隣のテーブルから見ていただけで会話に聞き耳を立ててた訳じゃないし」

 アランは思わせ振りにチラッとクララを見た。

(――えっ?)

 クララはドキリとして、

(アラン、わたしがいつもガンマンキャストのテーブルの後ろ側で聞き耳を立ててたことに気付いた?)

 とたんに苦虫を噛み潰したような顔になる。

「クララちゃん?今、すごい顔になってるよ?」

 アランは笑顔でクララの顔を覗き込む。

「――見ないでよ。馬鹿っ」

 クララは顔を真っ赤にして思わず怒声を上げる。

「あ、馬鹿って言った」

 アランはクララの地が出たので満足げだ。

「だ、だって、ヒドイじゃないの」

 クララは自分がいつもジョーを見ているくせに他人から自分が見られていたと思うと無性に恥ずかしく腹立たしい。

「俺、クララちゃんの気持ちがバレバレに顔に出るところが好きなんだよね」

 アランはブラブラとクララの後ろを歩きながら、

「ニコニコと優しげに笑いながら平気でヒトを騙す奴等にはうんざりなんだ」

 ふいに険しい目になってボソッと呟いた。

「――?」

 クララは振り返ってちょっと気になる顔でアランを見やる。

「――あ、それに、クララちゃんが顔に出るおかげで、俺、クララちゃんに好かれている自信はあるからね」

 アランはうっかり口に出た言葉を誤魔化すように話題を変える。

「どうせ、わたし、うっとりしてたんでしょ?でも、アランが背が高くてものすごいハンサムだからよ。わたし、面食いなの。アランのことなんて見た目だけしか知らないんだから」

 クララはまたアランに背を向けて歩き出した。

 プンプンしながらもアランに自然にしゃべっているのが不思議な気がした。

 見られたくない顔を見られていた恥ずかしさでヤケクソになったからなのかも知れない。


 2人は100メートルほど歩いて地下通路から階段を上がってタウンのゼネラルストアの通用口へ出た。

 さらにゼネラルストアから外へ出て、メインストリートをシアターまで歩いていく。

 クリスマスシーズンが終わった中途半端な時期だけに心なしタウンはしょんぼりした雰囲気が漂っている。

 この雰囲気はバレンタインシーズンが始まるまで続くのだ。

 その時、

「あ、ほら、騎兵隊で一番、格好良いアラン」

「ホント。彼女いるんだ」

「あんだけ格好良けりゃ当たり前か」

「彼女もやっぱり可愛いよね」

 通りすがりのゲストの話し声が耳に入った。

 年間パスポートを首から提げているところを見ると常連の地元の女子高生らしい。

(やだ。うふっ、わたし、このタウンのキャストの中ではフツーだけど一般的にはやっぱり可愛いんだ)

 クララはニマニマと頬が緩んだ。

「……」

 アランがクララの顔を見てニヤニヤしている。

「な、なによ。分かってるわよ。顔に出てるんでしょ?」

 クララはブスッと膨れっ面する。

「あ、ほら、もうシアターだよ」

 アランが指差す先には『バッキーの大冒険─逃げろ!恐怖のクリームシチューの巻─』のポスターがあった。
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