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第7弾 明後日に向かって撃つな!

Will you curse me?(わたしを呪うの?)

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 その時、

(ふぅんだ)

 クララはぶすくれた顔で朝定食の焼き鮭を箸でほじくっていた。

 いつもどおりにガンマンキャストの後ろ側のテーブルで聞き耳を立てていたのだが、所詮、蚊帳の外だ。

 自分はやはりショウのキャストの仲間には入れない部外者なのだとひしひしと感じていた。

(レッドストンの妹ってだけでインディアン・ジュエリーの店のルルちゃんまで話に混ざってたのに)

 ジョーに気安げにからかわれる妹のようなルルのポジションもねたましい。

 自分だってジョーにからかわれて「ひどぉい」なんて可愛く膨れっ面してみたい。

(あ?そういえば、わたしって騎兵隊キャストのアランの彼女なのよね?)

 クララはハタと思い出し、周囲のテーブルをキョロキョロした。

 キャスト食堂に入ってから一番にアランを探さないなんてアランの彼女らしくない。

(あ、アラン)

 騎兵隊キャストのヘンリーとハワードの向かい側に座っていたアランとバチッと目が合う。

 今までモテモテのアランはタウンの女のコ達のテーブルに呼ばれていたが交際宣言してからは騎兵隊キャストと食べていたのだ。

「……」

 アランはクララにニッコリしたが、クララは気まずい顔でうつむいた。

(アラン、ずっと、こっちを見てたのかしら?)

(わたしがジョーさん達の話に聞き耳を立てて、ぶすくれてた顔も見てたのかしら?)

(ルルちゃんに対して『ふん、可愛いぶっちゃって、メラリーちゃんが迷惑だって分かんないの?』って意地悪い顔したのも見てたのかしら?)

 ガタッ。

 クララは居たたまれず席を立った。

 すると、

「あれ?クララさん。そこにいたんだ。味噌バタークッキー、昨日、みんなで食べちゃった。美味しかった~」

 メラリーがクララに気付いて声を掛けた。

「わたし達も貰って食べたの。すんごく美味しかった」

「うん。めちゃくちゃ美味しかった」

「コスト度外視のバターたっぷり手作りクッキー、最強ですよ」

「食い足りねえっ」

「だなっ」

 バミー、バーバラ、太田、トム、フレディが口々に絶賛する。

「あ、ありがとう。嬉しいぃ」

 クララは褒められて気分がたちまち上昇した。

 ぶすくれた顔からコロッとニコニコ顔に変わる。

「あ、そうだ。メラリーちゃんにマシュマロ入りブラウニー作ってきたの。あとで夕食の時に渡すわね」

 クララは夕食の時にブラウニーを渡す口実でさりげなくメラリーと同じテーブルに着こうと考えた。

 メラリーと同じテーブルならジョーも同じテーブルにいるに決まっている。

「え?ブラウニーってチョコが柔らかいみたいな美味しいヤツ?やった~」

 メラリーは大喜びした。

「――?」

 ジョーはメラリーがクララといつの間にか仲良しになっているのが不可解そうな顔だ。

「じゃ、またね」

 クララは笑顔でメラリーと手を振り合って、ガンマンキャストと騎兵隊キャストのテーブルの間の通路を抜ける。

 またアランと目が合った。

「あ、あの、アランのマシュマロ入りブラウニーも作ったんだけど」

 クララはアランの彼女らしく言ってみた。

 彼女のフリの小芝居をしているつもりだが男女交際に慣れないのでドギマギしてしまう。

「ありがとう。クララちゃん。マシュマロ入りブラウニー楽しみだな」

 アランも満面の笑みでメラリーに負けず劣らず喜んでいるように見える。

「そ、それじゃ」

 クララはカアッと赤面して逃げるように出入り口へ向かった。


「はぁ~、やっぱり、噂どおりの天然記念物乙女ねえ。昭和の少女漫画みたい」

 ゴードンは片頬に手を重ねて小首を傾げた乙女のポーズでうっとりと吐息した。


 クララがキャスト食堂を出ると、

(――あ、ルルちゃんっ)

 出入り口から中を覗き込んでいたルルと鉢合わせした。

 ルルはメラリーが追ってきてくれるのを期待して出入り口の前に待機していたらしい。

「……」

 ルルはとてつもなく怖い顔でクララを睨んでいる。

 可憐な美少女がこんなにも怖い顔になるのかと、さすがにレッドストンの妹だけのことはある。

「クララさんはわたしに恨みでもあるんですかっ?」

 ルルは日頃の舌足らずなカマトト口調が嘘のようにドスの利いた声でクララに迫った。

「え?何のこと?」

 クララは初めて言葉を交わしたルルから身に覚えのない憎しみをぶつけられてビックリする。

「だって、メラリーちゃんに手作りのお菓子をあげたりして。わたしの料理が下手だからって当て付けみたいにっ」

(えっ?ルルちゃん、料理が下手って自覚あったの?)

 クララはまたビックリした。

「そ、そのうえ、荒井先輩の彼女になったりしてっ。なんでもかんでも、わたしに当て付けみたいにっ」

 ルルはキッとクララを睨み付け、

「呪ってやるからっ。覚えておいてっ」

 そう言い捨ててロビーを駆け出ていった。


(――呪うって?何するんだろ?まさか呪いの藁人形とか?)

 クララは唖然として立ち尽くす。

(わたし、ルルちゃんにとって恋敵でも何でもないわよね?)

 たんにメラリーに相手にされないルルの逆恨みではないか。

(けど、あんなに素直に気持ちを剥き出しに出来るなんて羨ましい)

 ルルに比べて自分はじくれて回りくどいことしか出来ない。

「はぁ~」

 クララはやるせなく溜め息した。
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