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第7弾 明後日に向かって撃つな!

Overdressing(飾り過ぎる)

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(さあ、大変っ。なに着てこうっ?)

 クララはケータイをベッドに放り投げると身をひるがえし、猛ダッシュしてクローゼットを開いた。

 ド田舎の家だけにチェストから反対側のクローゼットまで猛ダッシュが出来るほどに部屋は広いのだ。

 クローゼットにはワンピースが多く並んでいる。

 バイトの頃から収入はほとんど洋服代に消えていたので衣装持ちなほうである。

 タウンのキャストは仕事の行き帰りの服装はウェスタンファッションを半ば強制されているし、

 クララは常にジョーの横に彼女として並んだ自分を想定して服を選んでいたので私服はガーリーなウェスタンだ。

(冬のボーナスで買ったばかりのウェスタンブーツを下ろすとして)

 胸元に青いビーズ刺繍のあるミニ丈の白いワンピースにスエードのフリンジのベストを合わせることにした。

 平べったい幼児体型なのでリカちゃん人形のような細い足を見せる以外にアピールポイントがないので真冬だろうが足は隠さない。

(ホントはこっちのヒラヒラのティアードワンピースを着たいけど、ちょっと華やか過ぎるわよね)

 クララはハンガーに掛かったヒラヒラのティアードワンピースを見つめた。

 あまりに可愛いので衝動買いしてしまったが、まるでランジェリーのようで着るにはちょっと度胸のいるワンピースだ。

 みなはタウンでの仕事の後なので自分も普段着にして行かないとここぞとばかりに張り切ってオシャレして来たなどと思われるのは恥ずかしい。

(う~ん、やっぱり、オシャレ過ぎるわ)

 ティアードワンピースはクローゼットに戻して、青いビーズ刺繍のミニ丈のワンピースに着替える。

 そして、ウエストウォーマーを兼ねたロングサイズのフワフワのマシュマロパンツを履いた。

 ポケットに使い捨てカイロを入れるポケットのある優れモノだ。

 野外のメインストリートのスイーツ・ワゴンで立ちっぱなしのクララにとって11月から4月までは防寒に欠かせない必須アイテムなのだ。

 実はあの3月の雨キャンの日、ジョーの部屋へ行った時もマシュマロパンツを履いていた。

 ウエストウォーマーだのマシュマロパンツだの横文字の名前を付けたところで男から見たら腹巻き付きの毛糸のパンツにしか見えないだろう。

 ジョーにダサダサのパンツを見られる前に突き飛ばしてホントに良かった。

 女のコにはそれなりの大事な身支度というものがあるのだから、いきなりベッドに押し倒されても困るのだ。

 そもそも日常的に仕事場で勝負下着を着けている女のコなどどれほどいるというのか。

 クララは絶滅危惧種の天然記念物乙女として勝負下着などというモノは一度も買ったことがない。

 それでなくともクララは勝負下着を着けて仕事場へ行くようなはしたないコではないのだと自分で思っていた。

 マシュマロパンツはいわばクララにとって純潔を守る貞操帯に等しいのだ。
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