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第7弾 明後日に向かって撃つな!
I lose a heart (心を失くす)
しおりを挟む「社長は涼ちゃんが大学進学せずに家を出て1年9ヶ月分の学費と食費が浮いたので、涼ちゃんのために有益に使おうということでガンマンデビューに際してドドーンとこの応援団を結成されたのよ」
早矢子は片手にメガホン、片手にメラリー団扇を掲げてみせる。
たしかに名門私立大の学費と食いしん坊のメラリーの食費なら1年9ヶ月分でかなりの高額だろう。
「だって、ショウのキャストになること反対してたじゃん」
メラリーはショウのキャストになると決めた時に父親から「それなら自立して好きにやりなさい」と素っ気なく言い渡されたのだ。
「社長は涼ちゃんが1週間も持たずに東京の家へ逃げ帰ってくるとばかり思ってらしたのよ。それなのに1年9ヶ月も続けられてガンマンデビューまで叶えるなんて、ものすごく感心されてたわ」
早矢子はホロリとして涙ぐむ。
「ああ、俺達だってメラリンは長くても1ヶ月で帰ってくると思ってたもんな」
「1年以上も続けるなんてビックリだよ」
「今でも信じらんないよ。シューティングゲームもやったことないメラリンがちゃんとガンマンデビューで2発も当てるなんてさ」
伊集院、二階堂、西園寺もホントにものすごく感心した面持ちだ。
「……」
メラリーはますます憮然とした。
爺さん連中といい、父親といい、附属校の初等科からの友達といい、自分は誰からもそんなにも期待されていなかったとは。
ヒュルルルル、
12月の冷たい風が吹き抜けた。
再び、メラリーの背後には暗雲がどよどよと立ち込めてきた。
「差し迫ってのお誘いで凝縮ですが、今晩6時からホテルアラバハの青天の間にて、ささやかながら歓談の宴を催したく存じます。どうぞキャストの皆さんでお出で下さいませ。――あ、そちらの『ガンマン・メラリーを援護射撃する会』の皆さんもぜひとも」
早矢子がバッグから招待状の束を取り出す。
「ええっ?」
「わし等までいいのっ?」
「あのホテルアラバハでっ?」
爺さん連中は思い掛けない誘いに喜色満面になる。
ホテルアラバハは地元で一番大きいゴージャスなホテルなのだ。
「ええ、勿論。『ガンマン・メラリーを援護射撃する会』の方々ですもの。料理はビュッフェ形式で300人分を準備しておりますので皆さんお誘い合わせていらして下さい」
応援団は100人なので、早矢子は招待状を爺さん連中には50枚、キャストには150枚を束で手渡した。
「やったあっ」
「タダ飯、タダ飯~」
「楽団とカンカンの踊り子と騎兵隊と先住民のキャストにも声を掛けてあげないとだわね」
「ショウでタダ飯の集合を掛けたら150人くらいあっという間だぜ」
トム、フレディ、マダム、ロバートはそれぞれのキャストの人数分を数えて招待状を仕分けする。
「あ、ロバート。タイガーとウルフは?」
「ああ、アイツ等はいいよ。お袋と一緒に冬休みはホントに毎晩、外食するってよ。今晩は駅前の中華料理の回るテーブルを楽しみにしてるから」
ウルフは昨晩は初めての回転寿司、今晩は初めての中華料理の回転テーブルなのだ。
「えっ?もしかして、駅前の中華料理って豚珍館?それ、うちの店だよっ」
爺さんの1人が自分の鼻を指差しながら観客席から下りてきた。
「――(ドキーン)」
バッキーの太田はまたも挙動不審にバミーとバーバラの背後にササッと身を隠す。
「へえ、そーいや、豚珍館もアラバハ商店街か」
「タイガーは豚珍館のチャーシューメンとカニ炒飯とギョーザが好きでね。いつも3人前はペロリだよ」
「ホントぉ?嬉しいねえ。わしゃ、もう引退して、店は息子夫婦がやってんだよ」
「中華なら酢豚だなっ」
「堅焼きそばっ」
「八宝菜よっ」
「エビチリ、エビチリっ」
みなが中華料理の話題でわいわいと盛り上がっているというのに、
「……」
食べ物の話題には真っ先に食い付いてくるはずのメラリーは憮然とした表情のまま佇んでいた。
背負った暗雲はさらに厚みを増し、暗く、重く、のしかかっている。
「……」
誰とも口を利きたくなかった。
このままキャラクタートリオのようにメラリーという空っぽの皮を被った着ぐるみになってしまいたいと思っていた。
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