PictureScroll 昼下がりのガンマン

薔薇美

文字の大きさ
136 / 297
第7弾 明後日に向かって撃つな!

I lose a heart (心を失くす)

しおりを挟む


「社長は涼ちゃんが大学進学せずに家を出て1年9ヶ月分の学費と食費が浮いたので、涼ちゃんのために有益に使おうということでガンマンデビューに際してドドーンとこの応援団を結成されたのよ」

 早矢子は片手にメガホン、片手にメラリー団扇を掲げてみせる。

 たしかに名門私立大の学費と食いしん坊のメラリーの食費なら1年9ヶ月分でかなりの高額だろう。

「だって、ショウのキャストになること反対してたじゃん」

 メラリーはショウのキャストになると決めた時に父親から「それなら自立して好きにやりなさい」と素っ気なく言い渡されたのだ。

「社長は涼ちゃんが1週間も持たずに東京の家へ逃げ帰ってくるとばかり思ってらしたのよ。それなのに1年9ヶ月も続けられてガンマンデビューまで叶えるなんて、ものすごく感心されてたわ」

 早矢子はホロリとして涙ぐむ。

「ああ、俺達だってメラリンは長くても1ヶ月で帰ってくると思ってたもんな」

「1年以上も続けるなんてビックリだよ」

「今でも信じらんないよ。シューティングゲームもやったことないメラリンがちゃんとガンマンデビューで2発も当てるなんてさ」

 伊集院、二階堂、西園寺もホントにものすごく感心した面持ちだ。

「……」

 メラリーはますます憮然とした。

 爺さん連中といい、父親といい、附属校の初等科からの友達といい、自分は誰からもそんなにも期待されていなかったとは。

 ヒュルルルル、

 12月の冷たい風が吹き抜けた。

 再び、メラリーの背後には暗雲がどよどよと立ち込めてきた。


「差し迫ってのお誘いで凝縮ですが、今晩6時からホテルアラバハの青天の間にて、ささやかながら歓談のうたげを催したく存じます。どうぞキャストの皆さんでお出で下さいませ。――あ、そちらの『ガンマン・メラリーを援護射撃する会』の皆さんもぜひとも」

 早矢子がバッグから招待状の束を取り出す。

「ええっ?」

「わし等までいいのっ?」

「あのホテルアラバハでっ?」

 爺さん連中は思い掛けない誘いに喜色満面になる。

 ホテルアラバハは地元で一番大きいゴージャスなホテルなのだ。

「ええ、勿論。『ガンマン・メラリーを援護射撃する会』の方々ですもの。料理はビュッフェ形式で300人分を準備しておりますので皆さんお誘い合わせていらして下さい」

 応援団は100人なので、早矢子は招待状を爺さん連中には50枚、キャストには150枚を束で手渡した。

「やったあっ」

「タダ飯、タダ飯~」

「楽団とカンカンの踊り子と騎兵隊と先住民のキャストにも声を掛けてあげないとだわね」

「ショウでタダ飯の集合を掛けたら150人くらいあっという間だぜ」

 トム、フレディ、マダム、ロバートはそれぞれのキャストの人数分を数えて招待状を仕分けする。

「あ、ロバート。タイガーとウルフは?」

「ああ、アイツ等はいいよ。お袋と一緒に冬休みはホントに毎晩、外食するってよ。今晩は駅前の中華料理の回るテーブルを楽しみにしてるから」

 ウルフは昨晩は初めての回転寿司、今晩は初めての中華料理の回転テーブルなのだ。

「えっ?もしかして、駅前の中華料理って豚珍館とんちんかん?それ、うちの店だよっ」

 爺さんの1人が自分の鼻を指差しながら観客席から下りてきた。


「――(ドキーン)」

 バッキーの太田はまたも挙動不審にバミーとバーバラの背後にササッと身を隠す。


「へえ、そーいや、豚珍館もアラバハ商店街か」

「タイガーは豚珍館のチャーシューメンとカニ炒飯とギョーザが好きでね。いつも3人前はペロリだよ」

「ホントぉ?嬉しいねえ。わしゃ、もう引退して、店は息子夫婦がやってんだよ」

「中華なら酢豚だなっ」

「堅焼きそばっ」

「八宝菜よっ」

「エビチリ、エビチリっ」

 みなが中華料理の話題でわいわいと盛り上がっているというのに、

「……」

 食べ物の話題には真っ先に食い付いてくるはずのメラリーは憮然とした表情のまま佇んでいた。

 背負った暗雲はさらに厚みを増し、暗く、重く、のしかかっている。

「……」

 誰とも口を利きたくなかった。

 このままキャラクタートリオのようにメラリーという空っぽの皮を被った着ぐるみになってしまいたいと思っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

小学生をもう一度

廣瀬純七
青春
大学生の松岡翔太が小学生の女の子の松岡翔子になって二度目の人生を始める話

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

処理中です...