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第7弾 明後日に向かって撃つな!
Memorial day(記念日)
しおりを挟むウェスタン・ショウの終了後。
「今日は記念撮影が2組あるので準備してステージに出て下さ~い」
裏方スタッフが楽屋のキャストに告げた。
50人以上の団体客にはショウのキャスト&キャラクタートリオと一緒に記念撮影の特典があるのだ。
「へいへい」
「野郎ばっかし大学生の団体かあ~」
「気乗りしねえ~」
「わたしはウキウキ♪」
ガンマンキャストとバッキー、バミー、バーバラはゾロゾロと楽屋を出てステージへ向かう。
「あ、メラリーちゃんはまたドレス着ないとっ」
裏方スタッフが3人掛かりでメラリーに早変わりのドレスを着せてベチベチと背中のマジックテープを留めて、巻き毛のウィッグを被せてリボンを整える。
(あ~あ、記念撮影~。やだな~)
メラリーは着せ替え人形のように突っ立って、
(や~だ~な~)
裏方スタッフに身支度をチェックさせるために仏頂面でクルクルと1回転した。
記念撮影などガンマンデビューでミス連発13発2中の記録の赤っ恥な日がわざわざ台紙付きの豪華な写真となって残ってしまうではないか。
「メラリーちゃん、オッケーで~す。ステージへ出て下さ~い」
裏方スタッフが急き立てる。
「――は~い~」
メラリーは呪わしげに返事して、暗雲をどんより背負ったまま一番最後に楽屋を出ていった。
ステージには記念撮影用の雛壇が組まれて、手前にWesternTownと今日の年月日の入った木製のプレートが置かれている。
観客席にはピンク色の応援団と『ガンマン・メラリーを援護射撃する会』の商店街の爺さん連中だけが残っていた。
「あれ、爺さん達――じゃない、商店街の皆さんも記念撮影?」
ジョーがすでに顔見知りの爺さん連中に声を掛ける。
商店街の爺さん連中も冬休みということで小中学生の孫を引き連れての50人の団体だ。
「ああ、ガンマン会を結成してから記念撮影は初めてだからね。前々回は雨キャンで、前回はジョーちゃん休演だったし」
商店街の会長がこれ見よがしに『ガンマン・メラリーを援護射撃する会』の横断幕をヒラヒラさせた。
よく見たら白地の平織り綿に墨痕鮮やかな毛筆で書かれている。
さすがに70代の爺さんばかりだけに昔ながらの直筆の横断幕だ。
「へえ、長ったらしい名称だと思ってたけどガンマン会って略すんだ?さすがにガン射会って略すのはねえよな――んっ?」
ジョーは横断幕の下部に書かれた文字に目を留めた。
『アラバハ商店街連合会』と記してある。
「アラバハ商店街?この駅前の商店街じゃね?」
今さらながらに地名が出てきたが、ここは荒刃波温泉という温泉地である。
「ああ、わし等、この地元よ」
「商店街の慰安旅行も地元の温泉旅館へ泊まって地元に還元してるでね」
「温泉街に生まれ育ったのにわざわざ他所の温泉になんぞ行かねえべさ」
「年取るとせっかく温泉に浸かっても往復の乗り物で疲れっちまうのよ。その点、地元なら温泉旅館まで徒歩5分よ」
この爺さん連中は駅前からタウンまで送迎バスで15分の地元民だったのだ。
どうりで、ついこの間もショウを観に来たばかりで今日もまた来ている訳である。
その時、
「――(そわそわ)」
バッキーの太田はなにやら挙動不審にバミーとバーバラの背後に身を隠すようにして爺さん連中の様子を窺っていた。
「ジョーちゃん。うちの孫娘と一緒に撮ってよ」
爺さんの1人がやおら年期の入ったカメラを取り出す。
「やったぁ」
「メラリーちゃんも一緒にぃ」
中学生と小学生の孫娘2人が観客席の階段から下りてきて楽屋のほうを振り返った。
「ああ、そーいや、メラリーは?」
ジョーも振り返ってみると、
「あっ?まだあんなところにっ」
メラリーは牛よりも亀よりも遅い足取りでのろのろとステージに向かって歩いてきた。
「……」
しかも、ショウのキャストという人気商売としてあるまじき膨れっ面ではないか。
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