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第7弾 明後日に向かって撃つな!

losing big (ボロ負け)

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「ドレスからカウボーイへ早変わり、大成功ねっ」

「良かった~」

 マダムとタマラは手を取り合って喜ぶ。


『お、お前、いったい何者だっ?』

『ロバートの弟、いや、ジョー、お前のハニー、メラリーと言ったほうが話が早いか?』

『メ、メラリー?お、お前、男だったのかっ?』

『やっと気付いたか。鼻の下、伸ばしやがって、大マヌケな野郎だぜっ』

『オーマイガーッ』

『お前をぶちのめすことで頭がいっぱいだったぜ。ジョー』

 チャッ。

 メラリーがウィンチェスターライフルを構える。


「L、O、V、E。ラブ、ラブ、メッラッリーーンッ」

 応援団の野太い声援。

「メッラリーちゃ~ぁああんっ」

 観客席の女のコ達の黄色い声援。

 女のコ達はショウの常連客の地元の女子高生だ。


「ふっふっふっ、メラリーちゃんに女装させたのは伊達じゃない、このシーンまでの布石だったのよん」

 ゴードンは自ら手掛けた寸劇のシナリオにご満悦である。


 ついにジョーvsメラリーのガンファイトの火蓋が切って落とされた。

 縦横無尽に飛んでくるクレーを代わりばんこにステージから撃ち合うのだ。

(――あ、そうだっ。秘策っ。憎いあんちくしょう、憎いあんちくしょう)

 メラリーは「う~ん」と思い浮かべたが、

(ジョーさんは対戦相手だけど夕べは俺が寝るまで肩を揉んでくれたし~)

(トムとフレディは嫌味は言うけど昨日は自主リハに付き合ってくれたし~)

(アランはモテモテで気に入らないけど悪い奴じゃないし~)

(レッドストンは面倒臭い役だけどロデオ大会では応援してくれたし~)

 ライフルで撃ちまくりたいほど憎いあんちくしょうが1人も思い浮かばない。

(わあっ、誰もいないっ。どうしよう。秘策が使えないっ)

 メラリーがジタバタと焦っているうちにクレーが飛んできた。

(わわっ、撃つべし、撃つべしっ)

 ガン!
 ガン!

『Hit!』
『Miss』

 ガン!
 ガン!

『Hit!』
『Miss』

 ジョーは難なく命中し、メラリーは失中を繰り返す。

(ど、どうしよう。当たらないっ)

 メラリーは焦る。

 ガン!
 ガン!

『Hit!』
『Miss』

(当たらないっ)

 焦る、焦る。

「メッラッリーーンッ」
「メラリーちゃ~~ん」

 ガン!
 ガン!

『Hit!』
『Miss』

(わあっ、全然、当たらないっ)

 焦る、焦る、焦る。

「なに明後日あさっての方向に撃ってんだよ」

「だ、だってっ」

 ジョーが呆れるほどメラリーは混乱していた。

「えい、くそっ」

 ガン!
 ガン!

『Hit!』
『Hit!』

 ガン!
 ガン!

『Hit!』
『Hit!』

 どうにでもなれとヤケクソで適当に撃った2発だけ命中。


『Victory of Joe!』

 結局、メラリーは13発2中しか当たらなかった。

 ボロ負けだ。


『ち、ちくしょう。次は叩きのめしてやるからなっ。ジョー。覚えてろっ』

 メラリーは音声のセリフどおりに走り去って退場する。

 入れ違いに登場するロバート。

『お遊びは終わりだ。ジョー』

『ロバート。ここからが本当の勝負だぜ』

 ピュー♪

 口笛の合図で駆けてくる二頭の馬。

 馬に飛び乗るジョーとロバート。

 パッカパカと駆け回る。


 ホウホウホウ~。(先住民の雄叫び)

 パラッパパー♪(騎兵隊のラッパ)

 ビュート(岩山)の裏から駆け出る騎兵隊と先住民のキャスト。

 ここからは通常バージョンのジョーvsロバートのガンファイトだ。


「あ、あら、わたしの秘策、役に立たなかったみたい。ほほっ」

 ゴードンは気まずい顔で笑って誤魔化す。

「あ~あ、たった2中かあ。メラリーだって練習どおりなら10中は当たってるところなのにな」

「だな」

 トムとフレディは意外にも残念そうだ。


「……」

 メラリーはどんよりと暗雲を背負って楽屋へ戻ってきた。

(こんなはずじゃなかった――)

 普段の練習では13発10中は当たり前なので本番では気合いが入って(全中でパーフェクトしちゃうかも?)くらいに思っていたのだ。

 音声だってメラリーがパーフェクトだった場合のセリフもちゃんと録音してあったのに。

 それなのに、

 ガンマンデビューであんなに外しまくるなんて想像もしてなかった。
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