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第6弾 日は沈み 日は昇る
Very Popular(モテモテ)
しおりを挟む一方、
同じ頃。
キャスト食堂では、
「みんな遅かったですね。ここ、席、取っておきました」
太田がテーブル席でガンマンキャストに「こっち、こっち」と手を振っていた。
「あれ?バッキー?今、ホールで撮影会してたんじゃ?」
メラリーは配膳台で定食を受け取って太田の向かい側に座る。
トム、フレディも次々とテーブルに着いた。
「ああ、ゲーム大会と撮影会は別のバッキーです。俺達キャラクターダンサーはオープニングのお遊戯の出番だけです」
バッキーの太田はチビッコとお遊戯を踊ってから別のバッキーと交替して、シャワーを浴びてキャスト食堂へ来たのだ。
「へえ、バッキーって何体あるの?」
メラリーは定食のトンカツにあんぐりと齧り付く。
「何体はやめて下さい」
太田はすかさず訂正を求める。
「あ、そか。何匹いるの?」
メラリーは(そーいや、馬だっけ?)と思った。
「何匹もやめて下さい」
太田はどこまでもキャラクターという夢のイメージ維持に努める。
ちなみにキャラクタートリオのヘッドとボディはタウンとショウと予備とで3セットある。
今この時もタウンのキャラクタートリオはメインストリートを練り歩いてゲストにグリーティング(ご挨拶)しているが、多目的ホールで撮影会をしている予備のキャラクタートリオの中身はオフィスの社員のボランティアだった。
託児所のクリスマス会は司会者もキャラクタートリオも楽団もボランティア参加なのだ。
「バッキーは適正身長170cmだから平均的で誰でも入りやすいのよね」
「そう。ボランティアでやみつきになってキャラクターの中身をやりたがるヒト多いのよ~」
マダムとタマラもテーブルにやってきた。
「そりゃあ、こんな平々凡々な俺でもバッキーの皮を被っただけで、たちまち人気者ですからね。あのスタァになった気分はバッキーにならなければ一生、味わえなかったですよ」
太田はバッキーを通して初めてモテモテ気分を体感したのだ。
「――むぅ」
メラリーは口を尖らせる。
バッキーの太田までもが毎日のようにモテモテ気分を味わっていたかと思うと悔しい。
それでなくてもウェスタン・ショウでジョーやアランがゲストの女のコ達にキャアキャアと黄色い声援を浴びているのが悔しいのに。
「俺だって、明日、ガンマンデビューしたら一気にモテモテだしっ」
メラリーは鼻息荒く大盛りご飯を掻き込む。
明日からの新バージョンでメラリーはようやく女装のドレスを脱ぎ捨て、ガンマンとしてステージに立つのだ。
そこへ、
「メラリーちゃん」
クララがキャスト食堂へやってきて、出入り口でメラリーに手招きした。
「――あ、クララさん、なんすか~?」
メラリーは笑顔で出入り口へ走っていく。
美味しいものをくれるヒトにはあからさまに愛想の良いメラリーである。
「ジョーさんがカンカンのグラマー美女を今夜、部屋に呼ぶつもりなのよ。それも2人もっ」
クララはロビーのソファーを指差す。
ジョーはアンとリンダの両手に花でニマニマとスケベ笑いしている。
「ああっ?」
メラリーはたちまち目を三角にして、
「ジョーさんっ?明日は俺のガンマンデビューってこと忘れたんじゃないっすよねっ?」
ダダッとジョーの前へ突進した。
「あっ?そーいや、新バージョン、明日からだっけ?」
ジョーは慌ててアンとリンダの肩からパッと手を離す。
「俺のガンマンデビューなのにっ。俺のガンマンデビューなのにっ。俺のガンマンデビューなのにっ」
メラリーは大事なことなので3回、繰り返す。
「い、いや、うっかり」
ジョーはホントにコロッと忘れていたのだ。
「もお、なによぉ?」
「ジョーちゃん?」
アンとリンダは怖い目でジョーを睨む。
「アンさん。リンダさん。今夜、ジョーさんは明日のために俺を励ましたり、俺をおだてたり、俺の肩を揉んだりするんで忙しいんで、2人とエッチしてる暇なんかないっすからっ」
メラリーは勝手にジョーの今夜の予定を並べ立てる。
(すごいわ。メラリーちゃん、なんて身勝手なの)
クララはあの身勝手さを見習わなくはと思った。
「悪りぃ。また今度っ」
ジョーはアンとリンダにパシッと手を合わせて頭を下げる。
「もお、仕方ないわねぇ」
「今度は絶対だからね」
アンとリンダは不貞腐れながらもサルーンのディナーショウがあるのでタウンへ戻っていく。
「――あ、俺、まだ、ご飯、おかわりしなきゃ」
メラリーはジョーを引っ張ってキャスト食堂へ戻っていった。
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