128 / 297
第6弾 日は沈み 日は昇る
Trick(企み)
しおりを挟む「はあっはあっ」
クララは長い廊下を知らず知らずに全速力で突っ走っていた。
タウンのバックステージの建物の廊下は長い。
とにかく長い、長い。
全力疾走で心臓も破裂しそうだ。
ガララ、
託児所の戸が開いてミーナが廊下へ出てきた。
ミーナはテーブルに置きっぱなしの私物を取りに戻っていたのだ。
「あ、クララ。ほら、コート。もう施錠するところだったのよ」
「ミ、ミーナ、どうしよう?ジョーさんがカンカンの踊り子とっ」
ミーナとクララは同時にしゃべった。
「――え?」
ミーナはクララのコートを差し出したまま怪訝な顔をする。
「ど、どうしよう?ジョーさん、スケコマシ復活祭だって――っ」
クララは息をゼイゼイさせながら取り乱してミーナに詰め寄る。
「ちょ、ちょっと、何を言ってるの?落ち着いて」
ミーナはまた託児所の戸を開けるとクララを中へ促した。
「どうしたらいいの?カンカンのグラマー美女が2人して今夜、ジョーさんの部屋に行くって――」
クララはペタッと託児所のマットにへたり込むと、まるで大事件のように訴えた。
「だって、元々、ジョーさんはそういうヒトよ。不特定多数の女のヒトと日替わりでエッチするのが本来のジョーさんじゃないの」
ミーナは落ち着き払って答えて、
「それより、クララ。アランとカップルになったんじゃなかったの?」
疑わしげにクララの顔を見やった。
「だ、だって、覚えてないんだもん」
クララはミーナには正直に昨夜は酔っ払って何も覚えていないことを打ち明けた。
「――あ、そういえば、クララ、昨日、テラスから戻って椅子で爆睡してから目を覚ました時、アランに送られてきたことも覚えてなかったわよね」
ミーナは昨夜のクララの様子を思い出した。
あの時、目を覚ましたクララは自分がテラスに行ったことすら覚えてなかったのだ。
「うん。ホントに全然、覚えてないの。今日、みんなの話で初めて知ったのよ」
「そうだったの。わたしはまたクララが腹黒い企みでアランと付き合うことにしたのかと邪推しちゃったわ」
「腹黒い企みって?」
クララはキョトンとする。
「ほら、逃した魚は大きいっていうでしょ?」
ミーナは託児所にある魚釣りゲームのオモチャのタコを手に取った。
マグネットでくっ付くスポンジの魚だ。
「ジョーさんはアランにはモテモテの座を奪われてライバル意識を持っているはずじゃない?以前、自分が逃したクララをライバルが釣り上げたとなると悔しくなるものでしょ?それで、アランからクララを奪ってやろうとかジョーさんに思わせようと――」
「えっ?じゃ、ミーナはわたしがジョーさんの気を引くために、わざとライバルのアランと付き合うことにしたと?」
クララはカッと目を見開く。
「ご、ごめんなさい。クララってばそのくらいのことはやりかねないから」
ミーナはクララを怒らせたと思ったが、
(――その手があったのねっ)
クララはミーナから名案を授かったとばかりにポンッと手を打った。
「……」
ミーナは(まさか?)と懸念するようにクララの顔を見つめる。
(そうよ。アランとカップルになって見せつけてやれば、ジョーさんは闘争本能でわたしをアランから横取りしたくなるに違いないわっ)
さっきの泣きべそはどこへやら、もうクララの目は爛々と輝いていた。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
大好きな幼なじみが超イケメンの彼女になったので諦めたって話
家紋武範
青春
大好きな幼なじみの奈都(なつ)。
高校に入ったら告白してラブラブカップルになる予定だったのに、超イケメンのサッカー部の柊斗(シュート)の彼女になっちまった。
全く勝ち目がないこの恋。
潔く諦めることにした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる