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第6弾 日は沈み 日は昇る

bolt out of the blue(青天の霹靂)

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「……」

 アニタはキャスト食堂のコーヒーマシンで2人分のコーヒーを淹れてロビーへ戻りしなにバミー、バーバラとすれ違った。

「ああぁ、あのコ達も次のカンカンのオーディション受けるのよねぇ」

 どんよりと吐息しながらクララにコーヒーのボトルを手渡す。

「ありがと。そっか。アニタとはライバルになっちゃうのね」

 クララは当然ながらアニタにフレンチカンカンのオーディションに受かって欲しいが、バミーとバーバラが強敵なのは明らかだ。

「次のオーディションまでタウンのキャストをして働くのはオーディションの選考に有利だからなんだけど、その中でもキャラクターダンサーはさらに有利らしいのよぉ。

「無遅刻無欠勤は勿論のこと、その働きぶりがオーディションの結果にも左右するらしいんだけど、バミーとバーバラは着ぐるみで体力は保証付きだし、ダンスレースでもあれだけの根性を見せ付けた訳じゃない?」

 アニタは早口で畳み掛ける。

「へえ、そうだったの」

 クララは目を丸くした。

 ショウのキャストを目指しているヒト達が普段からそんな気合いで働いているとは思ってもみなかった。

 次のオーディションまでの繋ぎのバイトなのだろうくらいに思っていたのだ。

「わたしなんて夕べはケントとデート気分で浮かれていただけだもん。もうオーディションであの2人に勝てる気がしないわぁ」

 アニタはくじけてしまったようだか、

「――あ、ごっめ~ん。なんか、話、盛り下げちゃってぇ」

 すぐにケロッとした顔を見せて、

「とにかく、夕べのダンス大会ではカップルが3組も誕生したなんて喜ばしいことよねぇ」

 ダンス大会でのカップル誕生に話題を戻す気配りまでする。

「そうよね?これで、わたし達みんな彼氏持ちってことじゃない?」

「クリスマス本番に間に合ったし、バッチリよね?」

 アニタ、スーザン、チェルシーはお互いにニコニコ顔を見交わす。

(わたし達みんなって、彼氏のいないわたしはみんなのうちに入れてくれないの?け者?)

 クララは内心でムッとしたが、3人に合わせてニコニコ顔を作っていた。

 カップル誕生を妬んでいるとは思われたくない。

「わたしとヘンリー、チェルシーとハワード、クララとアラン、騎兵隊キャストの彼氏で揃っちゃったわね」

 スーザンがサラッと言った。

(――?クララとアラン?クララって名前のコ、わたし以外にもいたっけ?)

 クララはまったく他人事のように聞き流したが、

「やっぱり、クララとアランのカップルが一番のビックリだわよねぇ?」

「わたし達だって夕べはビックリだったもの」

「まさか、クララとアランがなんてね。だって、アランとは話したのも夕べが初めてだったんでしょお?」

 3人がクララの顔を覗き込む。

(――へ?わたし――っ?)

 どうやら自分のことらしいのにクララには3人の話がちっとも見えなかった。

「な、なに言ってるの?わたしとアランって何のこと?」

 クララはキョトンと3人の顔を見返す。

「やだもぉ。何、すっとぼけてるの?」

「そりゃ恥ずかしいのは分かるけどさ」

「クララってば人前であんな熱烈にアランとチューしちゃったんだものね」

 べシャ!

 クララの手からコーヒーのボトルがテーブルの上に滑り落ちた。

(――チュー?アランと?わたしが?チュー?アランと?わたしが?チュー?)

 あまりのことに混乱して何が何だか理解が出来ない。

 たしか、夕べは酔ってフラフラしたクララをアランが椅子まで抱えてきてくれたとミーナが言っていた。

 それすらクララは覚えてなかったのだが、

(まさか、チューしたの?覚えてないけど、わたし、アランとチューしたのっ?)

 クララはショックで半泣きになった。

「もう、2人ともぉ、クララには記念すべき初めてのチューだったんだから、そんな、からかうような言い方は良くないわよぉ」

 アニタは真っ赤な顔で半泣きのクララを見て勘違いして庇った。

「あ、そうよね。ごめんね」

「クララには初めての彼氏だものね。わたし達だってこれでも祝福してるつもりなんだから」

 スーザンとチェルシーはせっせとクララがテーブルにこぼしたコーヒーを拭いてやる。

 どうやらクララは自分の覚えていない空白の間にアランとカップルになったらしい。

(――な、何で?思い出せない。な、何がわたしに起こったの?)

 たしかにアランは背が高く、ものすごいハンサムだ。

 だか、自分はイケメンなら誰でも見境ない面食いの『身持ちの悪い姉ちゃん』とは絶対に違うはずなのだ。

(何で?どういう訳で?アランとそんなことに?)

 予想外の異常事態にクララの思考回路はグルグルと空回りしていた。
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